水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

逆転ユーモア短編集-53- 仕事

2017年12月19日 00時00分00秒 | #小説

 仕事をしていることを、さも当たり前のように思う人も多いが、仕事に就(つ)けて働ける・・という状況は非常に有難いことなのである。この逆転した発想は、普通なら働けばお金をもらえるのは当然じゃないか…と考えて誰も抱かないが、実は社会がその人を許容(きょよう)して受け入れていることに他ならない。受け入れてもらえなければ、誰も仕事に就けず働けないからお金は手に出来ない。そう考えれば、もらえるお金の多さ、少なさに不平を抱いたり満足したりするのではなく、仕事に就いて働けることが有難いことになる。しかも、健康で働ける状況にある今の自分に感謝しなければ罰(ばち)が当たる。…まあ、罰は当たらないだろうが、働く機会を与えられない人や働けない人に対し申し訳ないことになる。むろん、働けるのに働かない人は論外だ。
 とある会社の面接会場である。
「はいっ! 次の人っ!」
 呼ばれた次の人は、入ると椅子に座った。
「あなたの特技は?」
「手先の器用なことですっ!」
「この場で何かできますか?」
 次の人はマッチ棒を二本、服のポケットから出すと器用に鼻と唇に挟(はさ)み込んでみせた。審査員一同は、その何とも奇抜(きばつ)な特技に爆笑し、笑い転(ころ)げた。
「は、はい。ははは…もう、いいです。ははは…」
 この次の人は見事に合格し、会社へ就職できた。仕事は、もちろん営業部渉外課だった。
 
                               


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