水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

逆転ユーモア短編集-58- 慌(あわただ)しい

2017年12月24日 00時00分00秒 | #小説

 物事(ものごと)をやろう! として急(せ)くと、慌(あわただ)しい気分になる。[慌]という漢字の字義は、心が荒れる・・というのだから、正(まさ)にそのとおりだ。
「広背(ひろせ)さん!」
「やあ! 立鼻(たちばな)さん!」
 慌しくなってきた歳末のある日、偶然(ぐうぜん)、ばったりと繁華街で出くわした二人は、とある店で再開を祝(しゅく)した。
「私、急ぎますので、この辺で…」
 小一時間、飲み食いし、ほどよく酔いも回ってきた頃、立鼻が急に鼻を弄(いじ)り出した・・いや、腕を見た。
「えっ?! まだ、9時前ですよっ!」
 広背は訝(いぶかし)げに背を伸ばした・・いや、立鼻を窺(うかが)った。
「私、アレコレあるんですよっ! 済まさないと落ちつかない性分(しょうぶん)でして、すみません。これ、連絡先です。お近いうちに、ごゆっくり…」
「そうですかぁ~? 残念だなっ! じゃあ、そういうことでっ! 私も店を出ますよっ、一人で飲んでいても、つまらないだけですから…」
「そうですか? それじゃ」
 二人は席を立つと勘定を済ませ、店を出た。
「いや、私も実はアレコレじゃないんですが、ドコソコに用がありましてねっ」
「ドコソコですか?」
「お互い慌しいですな、ははは…」
「ははは…そうですなっ! それじゃ!」
「はいっ! お元気でっ」
 ほろ酔い気分の二人は、駅近くで別れた。
 二人が慌しく動き出したのはその直後だったが、アレコレもドコソコもすでに済んでいて、まったく慌しくなかった。
 逆転して考えれば、慌しいことは慌しくないのかも知れない。

                               


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