水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

それでもユーモア短編集 (55)呼吸

2019年05月04日 00時00分00秒 | #小説

 息を止めれば苦しくなる。それでも止めていれば人はチィ~~ン! と鉦(かね)が鳴ることになる。要は死ぬ訳だ。^^ まあ、そこまで止められる人は異星人以外いないだろうから、当然、荒い呼吸をス~ハ~ス~ハ~とすることになる。このように、何気(なにげ)なく生きている私達ではあるが、知らず知らずのうちに呼吸をし続け、生きているのである。
 とある町で奇妙な競技大会が行われている。水中息止め選手権である。選手達はA~Fの各グループに別れ、数人ずつ横一列に並ぶ。選手達の前には長椅子が並び、その上には水を張った洗面器が人数分、置かれている。選手達は合図のピストル音とともに顔を水中へ浸(つ)け、そのままでいられる長さのタイムを競う・・という趣向だ。
「こ、これはっ! せ、世界記録が出そうですっ!!」
 マイクを握りしめた大会本部席の係員が興奮気味に喚(わめ)く。
 他の選手達が顔を上げたあと、一人の選手だけが顔を洗面器に浸け続けている。
「ギネスっ! せっ! 世界記録の誕生ですっ!!」
 会場全員の視線がその選手に向けられる。ところが、その選手はいっこうに顔を上げる気配がない。
「… ? これは、どうしたことかっ!!」
 不審に思った係員が、思わず選手に駆け寄る。選手は顔を浸けたまま呼吸をやめ息絶えていた。と、いうことはなく、仮死状態で気絶していた。すぐに人工呼吸措置が施(ほどこ)され、選手は息を吹き返した途端、片手の指でVサインを高らかに上げた。会場からは割れんばかりの拍手が湧き起こった・・と、話はまあ、こうなる。
 このように呼吸は生死に直結し、それでも止め続けられるという馬鹿な話はあり得ない。^^

                                  


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする