世間には大勢の人がいるから、自(おの)ずと脱落する人が出る。こういう人は一般に落ちこぼれ・・と言われる。本人は別に好き好んで落ちこぼれたくはないのだろうが、それでも落ちこぼれるのだ。早い話、世間はそれだけ甘くなく、世知辛(せちがら)い・・ということだろう。^^
ここは、とあるサッカー場である。早朝から大会に向けた模擬試合が中心選手を二手(ふたて)に分けて行われている。その練習を見守るのは、自分自身は決して落ちこぼれじゃないっ! と固く信じる落ちこぼれなのか落ちこぼれでないのか・・が分からないややこしい控(ひか)えの選手達だ。自分自身を落ちこぼれじゃないっ! と信じさせるのは、落ちこぼれなら召集される訳がないだろっ! …と自負させる心である。
「全然、お呼びがかからんな、俺達…」
「まあ、そう言うなっ! どんな有名選手だって、そんな時代があるさっ!」
そのとき、コーチの呼ぶ声がした。
「おいっ! 逆勝(さかがち)、出番だっ!」
「えっ!? 俺ですかっ!?」
逆勝は自分が呼ばれたことを信じられず、訊(き)き返した。
「ああ、お前だっ! 具合でも悪いのかっ!?」
「いえ、決して…」
逆勝は、なぜ俺なんだ…と思いながら準備を始めた。
「なっ! お呼びが、かかったろ!?」
「ああ、まあな…」
逆勝は訳が分からず、飛び出して監督に訊(たず)ねた。
「監督! なぜ、俺なんですっ!?」
「んっ? いや、別に他意はない。あちらが一点、負けてるからな。お前が入れば変わるかも知れん…と思っただけだっ!」
「それだけですか?」
「ああ。落ちこぼれじゃないところを見せてやれっ!」
「はい、分かりましたっ!」
監督に軽く肩をポン! と叩(たた)かれた逆勝は、グラウンドへ勢いよく駆け出した。
監督は、もしかすると落ちこぼれのあいつでも逆転勝ちするかも知れん…と、単純に思っただけなのである。理由はお分かりだろう。それでも逆勝だけに・・と、話はこういう落ちこぼれではなく、落ちになる。^^
完