水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

それでもユーモア短編集 (56)風の所為(せい)

2019年05月05日 00時00分00秒 | #小説

 風の所為(せい)で風邪(かぜ)を引く・・とは上手(うま)く言ったものだ。漢字が示すとおり、風の邪(じゃ)、邪(よこしま)な風が吹いて体調を崩(くず)す・・ということである。それでも、初期のうちに気づいて処置をすれば、その邪悪(じゃあく)な風は、『チェッ! 他へ行くとするか…』などとブツクサ言いながら退散するから、それ以上に体調が悪くなる・・ということはない。^^
 とある町のとある大衆食堂である。昼時(ひるどき)ということもあってか、大層(たいそう)賑(にぎ)わっている。
「へいっ! 木の芽ラーメン上がったよっ!!」
 店奥から気前のいい声がする。その声に急(せ)かされたように若い女店員がトレーに二鉢(ふたはち)の木の芽ラーメンを乗せ、客が待つテーブルへと急ぐ。
「お待ちどおさま…」
 二人の客は置かれた木の芽ラーメンをソソクサと食べ始める。そのとき、一人の客が思わずクシャミをした。
「どうした?」
「いや~、花粉が飛び始めたからでしょう…」
 クシャミをした後輩風の男は、とりあえず花粉の所為にする。
「いやっ! それは風の所為だっ! 注意しろっ!」
 先輩風の男はジロジロと神経質に辺(あた)りを見回す。
「風なんか吹いてないじゃないですか」
「いや、吹いていなくても、邪な風はどこに潜(ひそ)んでいるか分からんからなあ~」
「…そうなんですか?」
「そうなんだ…」
 先輩風の男が自信ありげに語る。
「あっ! すいませんっ!!」
 そのとき、後方の席から客の声が飛ぶ。
「はぁ!?」
 後輩風の男が後ろを振り返る。
「いゃ~、胡椒(こしょう)が出過ぎましてねっ!」
「…」
 先輩風の男は形無(かたな)しで黙ってしまう。ところが、見えない風は、『ヒヒヒ…俺の所為だがねっ!』と思わずニヤリと。
 このように、他に妥当な原因があったにしろ、それでも邪な風は存在し、嗤(わら)っているのである。^^

                                  


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