水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

それでもユーモア短編集 (60)安全性

2019年05月09日 00時00分00秒 | #小説

 過去の長閑(のどか)な時代では気にならなかったものが、現在のように生活が向上して複雑化すると、いろいろと気になり始める。安全性である。食品の安全性、ガス漏れの安全性、火災の安全性、耐震構造の安全性、通学の安全性、治療や投薬の安全性、機械の安全性・・などと枚挙(まいきょ)に暇(いとま)がない。よぉ~~~く考えれば、完璧(かんぺき)に安全なものなど、この世には存在しないのだが、それに気づかず、世間の人々は安全性を連呼(れんこ)する。最たる例が放射能の安全性だ。原子力発電が身近な問題として取り上げられているが、全然、取り上げられていないものもある。我が国は保有していないから関係ないが、原子力空母がそれである。確かに燃費コストは馬鹿安なのだろうが、安全性では如何(いかが)なものか? なのである。平和時はいいが、一端、戦闘で船体が損傷を受け、原子炉の放射能漏れでも起こせば、現在の放射性からして乗組員は全員、致命的にアウト! だろう。被爆して助かる余地は、ほぼない。こんな見過ごされがちな安全性もある訳だ。^^
 夕闇が迫るとある、ふぐ専門店の店先である。二人の客が店の暖簾(のれん)を潜(くぐ)ろうとしていた。
「ここのは美味(うま)いんだよっ!」
「まあ、君が言うんだから間違いはないんだろうが…」
「と、いうと?」
「もちろん、安全性さっ!」
「安全性? ふぐ専門店の安全性を疑(うたぐ)っちゃ、お終(しま)いだぜ」
「そりゃまあ、そうだが…」
「そういや、この前のステーキ専門店でも狂牛病の・・とか言ってたな?」
「そうだったか?」
「ああ。鳥スキの店前でも鳥インフルエンザが人にも・・とか言ってたぞ」
「そうだったか?」
「ああ。そう言いながら、食べて美味かった。ただ、俺はお前の頭の安全性の方が心配だっ!」
「…」
 言われた男は言葉をなくし、押し黙った。
 安全性は、それでも! と気にしない方が、楽しく生活できるようだ。^^

                       


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