ここ最近、社会は機械なしでは存在し得ないまでに発展している。今、私が入力しているPC[パソコン]にしたってその一つなのだが、どうも今一つ実感に乏(とぼ)しい存在なのである。とはいえ、それでもこうして使っているのは、使わないと時代に取り残される…という危機感がなくもないからだ。というのは建て前で、結構、重宝しているのは確かだ。機械の便利さというのは凄(すご)いもので、人を数人集めても到底(とうてい)勝ち目などないだけの力を保有しているのである。人は機械に比べ、正確さでは一歩(いっぽ)劣(おと)るとはいえ、それでも機械にはない意外性、独自性、感情面などで機械よりは優(すぐ)れている。よくよく考えれば、機械を作ったのは人であり、機械が機械を作った訳ではない訳だ。^^
未来のとある高等裁判所である。廷内(ていない)では最高裁からの差し戻し審の審理が行われている。
「ですからっ! 何度も申しますが、見ていた機械がいるんですっ!」
「画像データが残る監視カメラならともかく、ただの案内ロボットじゃないですかっ! そんなもの、証拠にも何にもならんでしょ!?」
丁々発止(ちょうちょうはっし)のやり取りが検事と弁護士の間で飛び交(か)っていた。そしてついに、弁護側が証人申請をしていたロボットが入廷し、証人席へと座った。
「あなたはロボットですか?」
『ハイ、ワタシ ハ、デキノイイ ロボット ノ グズオ ト モウシマス。ツクッテイタダイテ イウノモ ナンナンデス ガ ジブンノナマエ ハ スキデハ アリマセン』
裁判長はそんなことはどうでもいいんだっ! …とは思ったが、口にはせず冷静な口調で審理を続けた。
「あなたは、事件を見ていたそうですね?」
「ハイ ヒコクニン ガ ヘヤ へ ハイルノヲ ミマシタ。デルノモ ミマシタ。ミマシタ ガ ハンコウ トカハ ミテオリマセン コックチョウ」
裁判官は、私はレストランのコック長ではないっ! と怒れたが、グッ! と我慢して、さらに審理を続けた。
「被告人が出入するところは見た訳ですね?」
「ハイ ソレハ 98%ノ カクリツデ タシカデス」
「と言いますと、残りの2%は?」
「ヨク ワカリマセン ノデ コレニテ シツレイ イタシマス サヨウナラ」
ついに、裁判は成立しなくなった。
まあ、機械化が進めばこんな事態にはならないのだろうが、それでも人の存在は欠かせない。^^
完