goo blog サービス終了のお知らせ 

水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

それでもユーモア短編集 (61)見えないモノ

2019年05月10日 00時00分00秒 | #小説

 人がもっとも怖(こわ)いもの・・それは見えないモノだ。その見えないモノが生物でなく、ただの物であれば、見えなくても取り分けて問題になることもない。ただ、そのモノが生物だと、大小にかかわらず厄介(やっかい)なことになる。どう厄介なのか? といえば、善悪を問わず勝手に動き回るからだ。善なる場合はいいが、悪の場合は相手が見えないのだからそれこそ厄介である。医学的には悪性の細胞やウイルス、悪霊などと呼ばれる憑依(ひょうい)霊的なモノ、犯罪者をそうさせる教唆(きょうさ)犯などがそうだ。この教唆犯も見えればいいが、魔と呼ばれる見えないモノの場合、益々、厄介だ。なにせ、魔は知的にありとあらゆる手段を駆使(くし)して人を困らせようとする。魔が刺した・・などと言う場合がそれで、出来るだけ刺さないで欲しいものだ。^^
 とある宝くじ売り場の前である。一人の男がくじを買おうか買うまいか…と、立ち止まっている。
『いや、買わなけりゃ、たこ焼きが一舟、食えるぞ…』
 そう思った男はトボトボと売り場から遠退(とおの)き始めた。ところが、しばらくすると、また立ち止まった。見えないモノがヒソヒソと囁(ささや)いたからだ。
『いやいや、当たりゃ、五万と食えるか…』
 男はふたたび売り場の方へ戻(もど)り始めた。そして、財布を取り出したとき、またまた思った。
『いやいやいや、五万は食えんぞっ!』
 男は、また売り場から遠退き始めた。そして、しばらくすると、ふたたび立ち止まった。
『いやいやいやいや、タコ焼き以外のモノなら鱈腹(たらふく)食えるか…』
 男は、またまた売り場の方へ戻(もど)り始めた。
 そうこうするうちに、日はとっぷりと暮れ、売り場のシャッターは閉じられた。
 このように、見えないモノに魅入(みい)られると、それでも…と繰り返すことになり、目的が果たせなくなる訳だ。^^

                                  


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする