国産の新治療薬、モレアの治験承認が下されたのは、それから一年後だった。蛸山や海老尾が待ちにも待った国家の承認が下されたのである。さてそうなれば、問題は製薬会社による一日も早い工場生産と一般社会への流通である。多くの患者に対して治療薬として社会に出回らなけれぱ、承認されたからといって何の意味もない訳だ。
「所長、どうなんでしょう?」
「何がっ!?」
蛸山は、また主語省略か…という目で海老尾を見た。
「製薬会社ですよっ!」
「波崎さんの話だと、二三の会社が始めるそうだ…」
「成分は同じでも製品名が違うんでしょうね」
「そりゃ当然だよ。価格も違や、その効力も違うだろうな」
「一番早く、製造承認が下りるか・・が、製薬会社の勝負って訳ですね」
「そりゃそうだよ。厚労族の議員さん達に、揉み手で接待するんだろうな、たぶん…」
「料亭なんかで、ですか?」
「ああ…」
「『お代官さまぁ~一つ、宜(よろ)しく…。分かっておるわっ! …んっ!? そちも、なかなかの悪(わる)よのう~。そう言われるお代官様も…。フフフ…』ですか?」
「まあ、そんな悪い話はないだろうが、そんなとこだろうな」
「時代は変われど、お役人は困ったものです…」
「利権が見え隠れするからね…」
「この話、続くとすれば、製薬会社間の攻防話になるんでしょうね?」
「ああ、たぶんな。ははは…筆者次第だが」
ふたたび二人は[50]話を執筆中の筆者を窺(うかが)うように、ピントの合わない辺(あた)りの空間を見回した。
続
※ [49]話でも述べましたが、筆者の私にも続けられるかどうかは分かりません。^^