鶏(にわとり)や豚のように罹患(りかん)すれば死ぬ最悪ウイルスの出現は、世界を震撼(しんかん)させつつあった。将来こうなるであろうことは、すでに蛸山も海老尾の研究グループも予想はしていた。だが、時期が余りにも早くずれ込んだのは予想外だった。これは明らかに二人にとって予想外だった。二人の予想は十数年先というものだったが、起きている事態は深刻で、十数年先ではなかったのである。
「君、今夜はここに泊まり込むかい?」
「えっ!? ああ、僕はどちらでも…。帰ったところで誰もいませんから」
「しまった! まさかこんな事態になるとは予想していなかったから、シュラフを持ってこなかったよ。まあ、空調は入れたままにしてくれるようだから、眠くなったら応接セットで仮眠させてもらおう」
「はい…」
その後、二人はモレアを元に、新ウイルス剤の研究を寝る間も惜しんで続けた。そして瞬く間に夜が明け、白々と外が明るくなった。二人が仮眠をとったのは、わずか数時間である。
「所長、ソチラはどうですか?」
「余り捗々(はかばか)しくはないな…。君の方はどうだい?」
「こちらも、よくないですね。検体があれば、それを基(もと)にして・・という手段もあるんですが…」
「近づくだけで罹患するってのは、まるで放射能だなっ!」
「ですね…」
「防御服が効かんというのは困ったもんだ…」
「放射能より質(たち)が悪いですね」
「ああ。ドローンのような機械以外、近づく術(すべ)はない訳だ」
「でも、一端、探索に飛ばせば、コチラへは戻(もど)せませんね」
「ウイルスが飛沫感染なら、まだいいが、空気感染の場合はダメだな」
どちらからともなく、二人は深い溜め息を吐(つ)いた。
続