水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

SFユーモア医学小説 ウイルス [74]

2023年03月27日 00時00分00秒 | #小説

 モレフの緊急承認が厚労省から出されて後、製薬大手各社は先のモレアと同じように後発製剤として幾つかの薬剤の製造を早めた。早めなければ、死者は世界各地で急激に増加する危険性が確実になったからである。
 腹を満たすと、海老尾は疲れからか深い眠りに襲われ、たちまち夢を見た。
『どうなんですっ!?』
 夢の中のレンちゃんが、海老尾の語り口調で訊(たず)ねた。
「? なにがっ!?」
 海老尾は蛸山の語り口調で返した。
『嫌だな、モレフですよっ!』
「耳が早いな、君は。僕は政府やメディアの人間じゃないから、そんなことは分からんよ、ははは…」
 レンちゃんは、僕には耳がありませんと言いそうになり、思わず口を噤(つぐ)んだ。ウイルスには口もないのだが…。^^
『それよか、極悪ウイルスのヤツ、かなり悪どいそうじゃありませんかっ!?』
「ああ、罹患(りかん)すれば、即、死だからな…」
『僕の方も急がなきゃなりませんね?』
『分かりました…』
 レンちゃんは快(こころよ)く応諾したが、内心では自信がなかった。
「いろいろと大変だろうがね」
『はあ…、いえっ!』
 内輪の思いが思わず口に出そうになったが、ふたたび海老尾は全否定した。

                   続


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