「それを守らないと、どうなるんだい?」
『ウイルス界のトップによって駆逐(くちく)されてしまいます』
「ウイルス界のトップ?」
『はい、私達の頂点に君臨するウイルスによってです』
「ウイルス界の王様・・ってことかい?」
『そうじゃないんですが、まあ、そんなところです。それよか、いい情報がありまして』
「と、いうと?」
『今、その極悪変異ウイルスを追跡してもらってるんです』
「誰に?」
『偶然、お会いした老ウイルスなんですが…』
「老ウイルス? そんなのに頼んで大丈夫なのかい?」
『ええ、なんでもベクター[細胞に遺伝物質を送達する手段]では顔が利く、かなりの顔なんだそうです』
「ウイルス界も僕達と変わらないんだな…」
『はい、そりゃもう! いや、海老尾さんの暮らす世界よりもっとシビア[過酷]かも知れませんが…』
「手段はどうでもいいからさ、出来れば、なんとか早くやっつけて欲しいんだっ! 人がバタバタ死んでんだからさっ!」
『分かりました。微力ながら、僕の出来る限りでなんとかやってみますっ!』
「ああ…」
『上手(うま)くいきゃ、次にお会いしたとき、海老尾さんの世界では状況が好転しているはずです』
「なんとか、宜しく頼むよっ!」
『はいっ!!』
そのとき海老尾は、室内の入口ドア前で目覚めた。春先とはいえ、四月の夜風は冷たかった。
続