「だから、なにが間に合わんのですか?」
『私達が徹夜して開発したモレアの改良薬モレフだよっ!!』
携帯の蛸山の声が、いくらか大きくなった。
「ああ、モレヌ・フィッシュでしたか。…それが間に合わないとは?」
『ウイルスの蔓延(まんえん)速度が早過ぎて、世間への流通が間に合わんということだっ!』
「それで?」
『間に合わんでは意味ないだろっ!?』
「ええ、そりゃ、意味がありません…」
『そこでだっ! 政府が私達をヘリで研究所まで移送するそうだ』
「ヘリって、ヘリコプターですかっ!?」
『ヘリと言やぁ、ヘリコプターに決まってるだろっ!!』
蛸山の声が喧(やかま)しくなってきた。
「着陸できる場所がないでしょ、僕のマンションも所長の家も…」
『相変わらず馬鹿だねぇ~君はっ!! 下ろすんだよっ!』
「なにをっ!」
『ロープだよ、ロープっ!! ロープに決まってるじゃないかっ!!』
「ああ、そんな映画のシーン、何度か観ましたっ!」
『そりゃ、観ただろ。私だって水害救助のテレビ画面で観たよっ!』
「所長も観られましたか!? そりゃ、よかった…」
『そんな話をしてんじゃないっ! 真剣に聞きなさいっ!』
「はい、どうもすいません…」
海老尾は素直に謝った。
続