水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

驚くユーモア短編集 (15)訃報(ふほう)

2023年12月07日 00時00分00秒 | #小説

 祝い事やお目出度いことが起きたときは、そんなに驚くこともないのに、訃報(ふほう)が知らされたときは、どういう訳か驚くことが多く、沈鬱(ちんうつ)な気分になる。どうせ驚くなら、お目出度い方がいいに決まっている。そんなことで、私は悪い内容は出来るだけスルーするようにしている。^^ 大仰(おおぎょう)に伝えたとしても相手の気分は損なわれ、テンションを下げさせるからである。
 月光殿というとある町の結婚式場である。定年間近のベテラン社員、坂平はこの日も懸命に働いていた。
「坂平さん、田村家は13:00からですから、いつものようにお願いしますね…」
「分かりました…」
 坂平は驚くことなく静かに頷(うなず)いた。披露宴の進行は手慣れている上に、セレモ二ーの話術も暗記するほど坂平の頭に叩き込まれている。だから、これといって驚くこともなかった。ところが、である。そろそろ両家の人々が来場しようとしていた矢先、突如として坂平の携帯が鳴った。
「はい、坂平ですが…」
『坂平さんですか? こちらは再入会病院のナースセンターです。奥様が事故に遭われ、只今、息を引き取られましたっ! すぐに来院して戴けませんかっ!?』
「ええっ~~!!」
 突然の予期せぬ訃報だった。少々のことでは驚かない坂平も、この時ばかりはバタバタと驚いた。助手の係員、苗村(なむら)に後(あと)を託し、坂平が病院へ急行したのは当然のことである。
 禍福は糾(あざな)える縄の如し・・ですが、こんな凶事で驚くのは嫌ですよね。^^

                   完


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