何事でもそうだが、それまでの経過から恐らくそうなるだろう…と予測したことが逆転すれば驚くに違いない。その予測の確率が高ければ高いほど、当然ながら驚きの度合いも大きくなる。
とある市役所で春の人事異動が発令された。
「ははは…僕がっ!? んっな訳、ないだろ…」
「いや、本当なんですって、白富士(しろふじ)さんっ!」
裾野(すその)はエントランスの掲示板に貼られた発令書を見て、白富士が課長に昇格した事実を知ったのである。
「ははははは…またまたまたっ! 裾野君、今日は四月一日じゃないぜっ!」
白富士とすれば、万年係長の俺が、課長補佐を飛び越えて二階級も昇進!? そんな訳がない…と思えていたから、暗にエーブリル・フール[四月馬鹿]を引き合いに出したのだ。
「本当ですって! エントランスの掲示板を見て下さいよっ!」
「嘘(うそ)だろっ!?」
人事異動があれば、先んじて暗黙の内示があるのが通例となっていたから、白富士とすれば、内示がなかったことから余計に信じられなかったのである。
「僕が嘘を言いますかっ!?」
裾野は、少し怒り口調で断言した。白富士は、まだ信じられなかったが、そこまで言われれば…と、掲示板が設置されたエントランスへと向かった。そして、白富士が目にしたものは、自分の名が書かれた人事異動の発令書だった。
━ 白富士雪男 右の者、健康福祉課係長の任を解き 商工観光課課長を命ず ━
掲示板の発令書を見た白富士は内心で仰天するほど驚いたが、表面上は驚く素振りも見せず平静な態度で課へ戻っていった。ただ、両足だけが、いつの間にかスキップを踏んでいたのを本人は知らない。課長候補一番手の宝永(たからなが)を逆転して課長になった無上の喜びが噴き出した形だ。
逆転するような嬉(うれ)しい出来事で驚くと、どうも気持が隠せないようです。^^
※ 逆転したとはいえ、人事考課の点からか、相互の摩擦を避けるために同じ課での異動は少なく、別の課への配転[配置転換]による昇格人事が一般的なようです。白富士さんとしても、宝永さんに噴火されては困りますからね。^^
完