水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

驚くユーモア短編集 (35)横切る

2023年12月27日 00時00分00秒 | #小説

 予期せず、突然、自分の前を横切る者がいれば、誰しも驚くだろう。まあ、そんな場合が起きても、驚く個人差は当然、あるに違いない。勝手に私の前を…と、怒る人もいれば、何も感ぜず、ただ遣(や)り過ごす人もいる訳だ。どちらがいい悪いは別として、そういう場が存在するのも人の世・・ということは言える。
 とある田舎(いなか)の小道を一人の男が我が家へと帰路を急いでいる。残暑が男を照らしているが、真夏のギラついた日射しは既(すで)にない。時折り、道の左右に広がる田畑に赤トンボが飛び交っている。男はいつもの家路をいつもの速度で歩いていた。すると、十字路に差し掛かったそのときである。通ることなどまずない一台の乗用車が、突然、男の前を猛スピードで掠(かす)め去った。男が驚くことはまずなかったが、このときばかりは驚いた。この日に限って…と、男には思えた。続けて、何ごとだっ! と、また思えた。しかし、その後は事もなく、男は自宅まであと五分の所まで近づいていた。男が十字路を曲がろうとしたそのときである。また、一匹の豚が猛スピードで男の前を駆け抜けていった。男は、今日は俺の前を横切る物体が多いな…と、驚くことなく漠然(ばくぜん)と思った。
 突然、横切る第三者、第三物があったとしても、驚くことなどないのです。冷静に遣り過ごせばいいのです。これが修羅場を作らず、円滑(えんかつ)に物事を運ぶ、世の定理となっているのです。^^

                   完


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする