暑い夏が今年もやってきた。年々、暑くなると感じるのは私だけではないだろう。とくに日中の熱波は肌を焦(こ)がし、焼き尽くすほど強烈になったのには驚く。
危険な熱波に外へは出られず、家内で身を潜(ひそ)めるお年寄り二人が将棋を指している。
「いやはや、近年の熱波には驚かされますな…大手っ!」
「うっ! …そう来ましたか。確かに近年の気候には、驚くことが多いですなっ! では、こう逃げてと…」
「そちらへ逃げますか…。うむ…。では、桂成りで…」
「それでいいんですか? では、こちらは詰めろの歩成りとっ!」
「う~むっ! その手は…」
「どうされました?」
「いや…。暑いですなっ!」
「いや、熱波は外です。ここはクーラーが効いて涼しいですぞ」
「はあ、まあ…。どうも、いけません。熱波にやられたようですな、ははは…」
詰めろの驚く手を指されたご隠居は、静かに持ち駒を盤上に置いて負けを認めた。
驚くような熱波に、人類は手も足も出ないようです。^^
完
確かにあった物が無(な)いとき、大小の違いはあっても驚くことに変わりはない。
とある家の庭である。その庭の垣根越しに、お隣のご隠居と、この家のご隠居が話をしている。
「…確か、その隅(すみ)に樹が植えられてませんでしたか? 無くなっとるんですが…。昨日(きのう)はお見かけしたと思っとったんですがな。無いもので…」
「ああ、確かに昨日まではありました。ありましたが、横の樹と取り合いになっとりまして、横の樹が枯れてきたもので…」
「はあ、それで…」
「遠慮をしてもらいました…」
「と、言いますと?」
「景色から消えてもらいました…」
「ははは…消えてもらいましたか?」
「はい、消えてもらいました。元々、枯れかけておった樹で、それを世話して育てたんですが、隣の樹を枯れさせよ、とは言っとりませんでしたからな、ははは…」
「言われませんでしたか。今の世界情勢と同じですな、ははは…」
「はい、同じですなあ…」
「ははは…まあ、無いからといって驚くほどではございませんでしたが、やはり景色が変わりますと気になります」
「申し訳ございません」
「いやいや、お宅の庭を借景(しゃっけい)で愛(め)でさせてもらっておったものですから、文句が言える筋合いではございませんが…」
「いやいや、お気疲れをさせました。今後は無いのもなんですから、有るように心がけます」
「ははは…増える方向ですな」
「さよう、増える方向です。ははは…」
二人のご隠居は笑顔で軽く一礼し、互いの家の中へと戻(もど)っていった。
無いよりは有る方で驚くのが、暮らし向きにはいいようです。^^
※ いつやらの短編集にも登場していただいたご隠居の方々です。どの短編集だったか? お気になられる方は暇(ひま)つぶしに探して下さい。^^
完
結末が、どんでん返しでひっくり返れば誰もが驚くだろう。例えば競馬の万馬券、大相撲の予想外の結果…など、考えるだけでも多く、枚挙に暇(いとま)がない。それだけ社会や私達の身近で起こる諸事は流動的で不安定ということになる。当然、その結末に驚くことは増えてしまう。
とある喫茶店である。猛暑を避けようと店へ飛び込んだ二人の営業サラリーマンがアイス・コーヒーを飲みながら話している。
「参ったよ、今回の異動は…」
「いや、俺も驚いたよ。なにせ監査役の蚊取さんが社長だろ?」
「ああ、そうそう。常務の陀児尾(だにお)さんだと思ってたのにな」
「派閥の結末が、これじゃ…」
「聞くところによると、CIAらしいぜ」
「会長直属の人事部、秘密調査課か?」
「ああ。どうも陀児尾派のよからぬ情報が会長に流れたらしい…」
「なるほど。…で、その情報が社長にか?」
「ああ。結末が予想外だと、俺達平社員はアタフタするな」
「ははは…結末がこうも違うと驚くな」
「ははは…驚くのは心臓によくない」
「さあ、あと一社だ。行くかっ!?」
「ああ…」
二人は残ったアイス・コーヒーを飲み干し、席を立った。
結末が違っても驚くことがないよう、私達はこの世知辛い世の中で生きていかねばなりません。そのためには、ありとあらゆる可能性を探る必要があります。ああ、嫌だ嫌だっ!!^^
完
夏ともなれば納涼のお化け屋敷が人気となる。むろん、驚くことで涼を求める、あるいは暑さを忘れるための趣向であることは疑う余地がない。お化けなどいない、馬鹿げている…と分かっていても、突然、演技のお化けが現れれることで驚くのは不思議といえば不思議だ。
若い男女の二人連れがお化け屋敷に入場してしばらく経った屋敷の中である。
「…先輩、もう帰りましょうよ!」
怖(こわ)いものはからっきしダメ…とでも言うかのように、OL風の女性は先輩らしきサラリーマン風の男性の肩に縋(すが)りついた。
「あ、ああ…。君がそう言うんなら…」
サラリーマン風の男性としてはコレが主目的だったから、したり顔でニンマリとした。ニヤリという露骨な笑顔ではなく、感情を隠した薄笑いだ。コトの真相を言えば、男性はその女性にホの字だったのである。ホとは、惚(ほ)れる・・のホの意味だ。
二人はお化け屋敷を出ると、近くのファミリーレストランへと向かった。これも男性の描いた想定の行動だった。その後、二人が目出度くゴールインしたかどうかは知らないが、恐らくは効果を超え、手応えぐらいの有効性はあったに違いない。
このように、お化け屋敷は納涼で驚くだけでなく、こうした効果もある訳です。
余談ながら、世界柔道のルールも、やはり効果、有効、技あり、一本の方が分かりよいように思えます。注意三回で反則負けというのは…。^^
完
予想していたより物事が変化した場合、驚くことが多い。ただ、これには個人差があり、なぁ~んだ、変わったのか…くらいの軽い気分で流す人もいれば、ぅぅぅ…パッケージが変わってしまったのか…と、意味なくテンションを下げて深刻になる人もいる訳である。どちらがどうだとは言わないが、驚く変化に対応する性格的な違いだろう。
とあるスーパーマーケットの店内である。
「あの…ここにあった肉饅(にくまん)、ないですか?」
一人の高校生男子が、か弱そうな声で女店員に訊(たず)ねた。
「ありますよ、そこに…」
「えっ!? ああ、ありましたありました…。パッケージが変わったんだ…」
「ひと月ほど前からですよ…」
「そんなに?」
「ええ、そんなに…」
「あっ! そうかっ! 模擬試験対策で来れてなかったんだ…」
高校生は模擬試験の勉強で、このスーパーに寄れなかったのである。それを思い出したのである。世の中は少しの間に変化することをこの高校生は知らされたのである。
今、開催中の大相撲のように、変化しても驚くことなく、軽くいなす技をこれからの世代は身につけなければ、世渡りはダメなようです。^^
完
奇麗に掃除しておいた棚(たな)に、いつの間にか綿埃(わたぼこり)が積もり、驚く。まあ、それだけ不精(ぶしょう)をしていたのか…と考えればそれまでだが、窓は閉ざされていて外気は遮断(しゃだん)されているのに、である。しかも量はふんわりとした綿のような大きさには、もう一度、驚くことになる。
一週間の出張からようやく解放され、自宅マンションへ帰ってきた頬月(ほおづき)は、ドアを閉め玄関へ入った途端、棚に積もった綿埃に驚いた。驚かされることは他にもいろいろあったが、棚の綿埃の大きさに驚くのは頬月にとって初めての出来事だった。というのも、僅(わず)か一週間の間にそんなに積もるか? …と思える大きさだったのである。
「…」
頬月は出張の疲れも忘れ、玄関フロア前の上がり框(かまち)へ腰を落とすと、物思いに耽(ふけ)ってしまった。腕組みをして考えたとき、頬月はふと、気づいた。そうだっ! この前、掃除したのはひと月前だった…と。となれば、それも当然か…と合点し、頬月は悪びれた笑顔で腰を上げ、靴を脱いだ。
綿埃は、掃除を忘れていると、知らず知らずのうちに積もり、驚くことになります。私も含め、綿埃が積もらないうちに掃除するようにしましょう。^^
完
最近の病院は驚くことに出くわすことが多い。まあ、場所柄、ということもあるが、恐らくは新型コロナの関係で神経過敏になっておられるのだろう。今朝の早朝なんかも、面識がないにもかかわらず「どこへ行くの?」と夜間通用口で言われたのには驚くどころか怒れてきた。どうも派遣社員の方らしいのですが、こんなことでは困りますよね。^^
とある地方の八大病院にも入っていない総合病院である。一人の男性が夜間通用口で女性の係員らしき人物に呼び止められた。
「何しに来たの?」
そう言われた男性は、一面識もない女性のタメ口に、『悪いから来てるんだろうがっ!』と、一瞬、ムカついたが、そこはそれ、グッ! と我慢した[偉いっ!^^]。気短な人なら口喧嘩(くちげんか)ぐらいでは済まなかったかも知れない。腹の鬱憤(うっぷん)が治まらないまま、男性は待合室で待っていた。すると、タメ口で話した女性が近づいてきてひと言ふた言ボソボソと言ってきた。男性は益々、腹が立った。というのは、初対面なのに話す口調が横柄(おうへい)だったからである。陰気で驚くことが多い病院で、驚くタメ口は嫌ですよね。患者の皆さんは、少なからず心が敏感になっておられるのですから…。^^
完
楽しかったテレビの新春特別番組にかくし芸大会というのがあった。あのスターがこんなことを…と、観ている視聴者は驚くのだが、プロ同然の芸には、誰もが感心させられた記憶がある。芸能人が、かくし芸の一つや二つ出来ても当然だと考えるのがフツゥ~だが、一般人には出来ない芸当だから、余計に感動させられる訳だ。
とある町の繁華街である。大勢の人の輪が出来ている。大道芸と呼ばれる人達が思い思いに自分達のかくし芸を披露している。前に広げられた布切れの上には人々が投げた貨幣や紙幣が散らばって見える。
「さて、お立合いっ! ここに取り出したるは、当家に伝わる家宝にて五郎入道正宗が鍛(きたえ)し業物(わざもの)っ! この刃先にて…」
講談を語るような流暢(りゅうちょう)さで、ガマの油売りが口上を進める。やがて話が進んだところでクライマックスとなる。
「このようにかすり傷をつけ…」
ガマの油売りが自分の腕にスゥ~っと傷をつけると、ジワリと血が流れ出る。その傷口に口上を語りながらガマの油を塗るガマの油売り。すると、あら不思議! 流れ出ていた血がピタリと止まる。このかくし芸的な大道芸に大勢の人の輪は、割れんばかりの握手を送る。
これが種も仕掛けもない、実演で人々が驚くかくし芸なのです。^^
完
戻(もど)り梅雨(づゆ)とか言うそうだが、ここ最近、そんな気候が続いている。やや涼しく曇(どん)より曇(くも)っていたかと思うと、急に蒸し暑くなりドドド~ッ! という感じで大粒の雨粒が滝のように降り出すのには驚く他はない。全国各地で被害が出ないことを祈るばかりだ。
とあるフツゥ~家庭である。ご隠居が大ガラスのサッシ戸から縁側の庭外を見ながら呟(つぶや)いている。外は豪雨にも似た大雨である。
「古い家だが、まあ被害の心配だけはないから助かる。…それにしても、よく降る」
そこへ、サラリーマンの息子さんが、現れなくてもいいのに現れた。
「戻り梅雨らしいですよ、お父さん」
「やかましいっ!! お前に言われんでも、それくらいのことは分かっておるっ!!」
すると、またそこへ、小学生のお孫さんが現れた。
「じいちゃん、夕方には晴れるそうだよ…」
「おっ! 正也殿か、これはこれは貴重な情報を…」
ご隠居の態度は、驚くことにお孫さんの登場で急変した。
お孫さんが先に現れればよかった訳ですね。登場順で驚く変化となった手順前後のお話でした。^^
※ ご存じ、風景シリーズより、湧水家の方々の友情出演でした。^^
完
最近、頓(とみ)に流行(はや)っている言葉にAIがある。AIとは、言わずと知れた電子頭脳のことだが、いろいろな分野でこのAIが先読みする判断に驚くことも多くなっている。なぜ、それがいいのか…? なぜ、そうなるのか…? と一般の人々が考える内容を、AIは、いとも簡単に示すからである。先の先を読む能力は∞[無限大]のAIだから、人が頼るのは当然なのだろうが、AIのデータを入力し、プログラムを組んだのは人なのだから、その人が神や仏でもない限り、無限大に間違った先読みをする危険性もある訳だ。おお怖(こわ)っ!^^
とある囲碁の対局場である。ここ幽霊の間は、どことなく陰鬱(いんうつ)に打ち沈み、心の落ち着く雰囲気を秘めながら、今にも幽霊が出てきそうな白々とした荘厳(そうごん)さが漂っている。
「先手、10の十七…」
記録係の女性棋士が、いい声で先手が打った碁石の棋譜を読み上げる。別室では男性棋士と聞き手の女性棋士が、招待されたファンを前に大盤解説を行っている。
『これは驚きですよね。大々大桂馬(だいだいだいげいま)と呼ぶんでしょうか?』
『いやぁ~そうは言わないと思います。単なる割り打ちでしょうか…』
男性棋士がシラこい言い方で否定するでなく主張する。
「後手、3の三」
『AIが好きな三々ですね…』
『はあ、まあ好きかどうかは分かりませんが、よく打つ手ではあります…』
ふたたび、男性棋士がシラこい言い方をする。この男性棋士、少し聞き手の女性棋士に恋愛感情を抱いていたから、それを打ち消すかのようにシラこく言った訳である。驚く手を読むAIだが、二人の恋愛感情を読み解く能力があるのか? は定かではありません。^^
※ シラこいは、関西方言で、白々しいという意味らしいです。^^
完