ただ今から全ての電子機器がご使用になれます...
機内アナウンスが終わると同時に隣の男性が通話を始めた。
え、都市高も止まってる?
福岡都市高速あるいは北九州都市高速がストップしたらしい。やはり、昨日のうちから動いていて正解だった...
自分の「選択」は正しかった、そう思いたかった。女は自分を肯定する何かを求めていた。
東京はよく晴れていて富士山がハッキリ見えた。そこから電車に乗って目的地に着く。
早く着きすぎたので、広い敷地内のフードコートに立ち寄り、ホテルに行く。クロークで荷物を預けようとして、その時初めて女は自分のセカンドバッグが無い事に気付いた。
実はこれが初めてではない。ちょうど一年前、博多駅のホームから改札口を抜けたところで、車内に置き忘れて来た事に気付いた。
慌ててホームをかけ上がったけれど、折り返しとなる電車は、無惨にも女を置いて姿を消していた。セカンドバッグと共に。
だが、あの時は親切な拾い主がその一つ先の駅から乗り込んで、届けてくれた。
それにしても、いつ、何処で置き忘れたのか?まさかスリに遭ったとは思いたくなかった。
前回の置き忘れから、セカンドバッグに付属品の紐を付けるようにした。でも、その紐が切れ、今回、また何処かに置き忘れて?しまったのだ。
しかも、前回と同様、中には紙幣と銀行カード、キャッシュカードの入った財布と家の鍵、そして出発地の空港まで車を運転してきたので免許証と車の鍵、免許証の中には保険証...
生きていくのに命の次に大切な全てを入れていた。
相変わらず学習しない自分に腹が立つどころか、新年早々なんてついていない自分...と女は自身を憐れんだ。
都会に近いこの場所で、外国人観光客の多いこの場所で今回も完全無欠な状態で出てくる、という確信はなかった。
それでも、女は落ち着きを取り戻し、いざとなれば、ここで働く事を考え始めた。
派遣会社を通じて一時的に得た数々の仕事を経験し、女はやろうと思えばなんだって出来ると思った。
でも、自宅の鍵や免許証は出て来ないと後々面倒になる、早く見つけ出したい、そう思ってカートを引きながら今来た道を走り出す。
電車を降りてからここまでに足を止めた場所は、駅の待合室と敷地内のフードコートしか無い。
まずは、フードコートに入る。
体力に自信はあったけど、緊張からか多少、息が切れていた。
何人かの外国人観光客とすれ違う。
置いたと思われるシートに近づいた。
ちょうど清掃の若い女性がいたので、声をかける。
すみません、ここに白いセカンドバッグを...
そう言いかけて女は清掃の若い女性の先にある自分のセカンドバッグを見た。
あぁ、良かった。30分前から気になって見ていたんですけど、どうしたものかと思って...
その場で中身をあける。
財布もスマホも免許証も全て無事だ。
ありがとうございます、ありがとうございます。
女は若い女性に何度も礼を言った。
ちゃんと「見守って」くれる人がいる、女はそう思った。
その日の午後から半日のセミナーと懇親会で、女は自分と同じような境遇の人々と出会った。
サラリーマンやOLだけど、近く独立・起業を考えている人、会社を止めたけど、結局、稼げずに派遣会社数社に登録して仕事を貰っている人...
日本社会は正規雇用の枠から外れようとする者には無慈悲なのか?
自分の時間と体を組織の為に奴隷のように差し出し、これは違う、と抜け出すと生きていけない...そういう仕組みになっているのか?
そうは思いたくなかった。
ただ、今の自分に言えるのは、独立・起業を考えている彼ら彼女らに対して、固定的な給料のある今のうちに、独立・起業後の収入を得られる筋道をしっかり立てる事だ。それが、この女からのアドバイスだった。
そして、私は何処へ行こうとしているのだろう?早く答えを探さないといけない。
絶対に残り2日で見つけ出したい、女はそう思った。
#welovegoo
#派遣の女
機内アナウンスが終わると同時に隣の男性が通話を始めた。
え、都市高も止まってる?
福岡都市高速あるいは北九州都市高速がストップしたらしい。やはり、昨日のうちから動いていて正解だった...
自分の「選択」は正しかった、そう思いたかった。女は自分を肯定する何かを求めていた。
東京はよく晴れていて富士山がハッキリ見えた。そこから電車に乗って目的地に着く。
早く着きすぎたので、広い敷地内のフードコートに立ち寄り、ホテルに行く。クロークで荷物を預けようとして、その時初めて女は自分のセカンドバッグが無い事に気付いた。
実はこれが初めてではない。ちょうど一年前、博多駅のホームから改札口を抜けたところで、車内に置き忘れて来た事に気付いた。
慌ててホームをかけ上がったけれど、折り返しとなる電車は、無惨にも女を置いて姿を消していた。セカンドバッグと共に。
だが、あの時は親切な拾い主がその一つ先の駅から乗り込んで、届けてくれた。
それにしても、いつ、何処で置き忘れたのか?まさかスリに遭ったとは思いたくなかった。
前回の置き忘れから、セカンドバッグに付属品の紐を付けるようにした。でも、その紐が切れ、今回、また何処かに置き忘れて?しまったのだ。
しかも、前回と同様、中には紙幣と銀行カード、キャッシュカードの入った財布と家の鍵、そして出発地の空港まで車を運転してきたので免許証と車の鍵、免許証の中には保険証...
生きていくのに命の次に大切な全てを入れていた。
相変わらず学習しない自分に腹が立つどころか、新年早々なんてついていない自分...と女は自身を憐れんだ。
都会に近いこの場所で、外国人観光客の多いこの場所で今回も完全無欠な状態で出てくる、という確信はなかった。
それでも、女は落ち着きを取り戻し、いざとなれば、ここで働く事を考え始めた。
派遣会社を通じて一時的に得た数々の仕事を経験し、女はやろうと思えばなんだって出来ると思った。
でも、自宅の鍵や免許証は出て来ないと後々面倒になる、早く見つけ出したい、そう思ってカートを引きながら今来た道を走り出す。
電車を降りてからここまでに足を止めた場所は、駅の待合室と敷地内のフードコートしか無い。
まずは、フードコートに入る。
体力に自信はあったけど、緊張からか多少、息が切れていた。
何人かの外国人観光客とすれ違う。
置いたと思われるシートに近づいた。
ちょうど清掃の若い女性がいたので、声をかける。
すみません、ここに白いセカンドバッグを...
そう言いかけて女は清掃の若い女性の先にある自分のセカンドバッグを見た。
あぁ、良かった。30分前から気になって見ていたんですけど、どうしたものかと思って...
その場で中身をあける。
財布もスマホも免許証も全て無事だ。
ありがとうございます、ありがとうございます。
女は若い女性に何度も礼を言った。
ちゃんと「見守って」くれる人がいる、女はそう思った。
その日の午後から半日のセミナーと懇親会で、女は自分と同じような境遇の人々と出会った。
サラリーマンやOLだけど、近く独立・起業を考えている人、会社を止めたけど、結局、稼げずに派遣会社数社に登録して仕事を貰っている人...
日本社会は正規雇用の枠から外れようとする者には無慈悲なのか?
自分の時間と体を組織の為に奴隷のように差し出し、これは違う、と抜け出すと生きていけない...そういう仕組みになっているのか?
そうは思いたくなかった。
ただ、今の自分に言えるのは、独立・起業を考えている彼ら彼女らに対して、固定的な給料のある今のうちに、独立・起業後の収入を得られる筋道をしっかり立てる事だ。それが、この女からのアドバイスだった。
そして、私は何処へ行こうとしているのだろう?早く答えを探さないといけない。
絶対に残り2日で見つけ出したい、女はそう思った。
#welovegoo
#派遣の女