よう、読者諸賢、調子は如何?ハウリンメガネである。
スカッと気持ちよく晴れた日が増えてきた。
人と接触しない程度に筆者もサイクリングなんか楽しんでいたのだが、おい、もう梅雨入りかい!?
ジメジメとした空気も相まって鬱陶しいマスクなんか外してしまいたい!ところだが、こればかりはまあ、まだしばらくは致し方あるまい。ただ、熱中症にはご注意を。今回は私には珍しく新譜のご紹介。
つい先2〜3ヶ月前のことである。
皆もご存知だろうが、スマホ(筆者はアンドロイドユーザ)ってやつはユーザの検索履歴からその人が興味をもちそうなニュースを送ってくる機能がある。
(個人的にはこの機能、便利ではあるが、視野狭窄に陥るような気がして根本的には好きではない。
情報を手に入れる面白さというのはもっとこう、乱雑にぶち撒けられた情報を自分なりに整理していくところにあると思うのだ。まあ、付き合い方の問題だが。閑話休題)
筆者のスマホも普段の調べもののせいか、音楽絡みのニュースがよく表示されるのだがふと見た時に『イーノ』の文字が目に入った。
「おっ。イーノがなんか出したのかな?あ、でも最近アプリの開発とかしてるしな。そっちかな?」と画面を確認すると『ロジャー……』という見出しが見える。
「ん〜?ボウイとプレイした時のインタビューか何かかな?」と記事をタップした私。
『ロジャー・イーノ&ブライアン・イーノ、アルバムをリリース』
「あ!そっち!?」
そう!ロジャーはロジャーでも、イーノ弟の方のロジャー!
ロジャー&ブライアンのイーノ兄弟によるアルバム「ミキシング・カラーズ」がドイツの超名門クラシックレーベル!グラモフォンから発売されたのである!(意外にもロジャー&ブライアン名義では初アルバム。共作自体は過去にもブライアンのアポロ(ダニエル・ラノワも参加)などでやっている)
即座にLPが出ているか確認。ありがたいことにちゃんと在庫があるのを確認し、いそいそと発注をかけた私なのであった……
ブライアン同様、アンビエント畑で活躍しているロジャー。兄の存在感が強いせいか、あまりメディアで目立つ人ではないのだが、兄と違い、ピアノを筆頭に様々な楽器を操るマルチプレイヤーとして活躍。
今作はそんなロジャーが自宅で録音していたピアノのフレーズにブライアンがシンセを足し、ミックスして生まれたそうなのだが、なんとその制作期間、足かけ15年!
というのも、この作品、そもそもアルバムを作る云々という話から始まったものではなく、ロジャーとブライアンの兄弟仲の良さから生まれた作品なのだ。
日頃から自宅で録音した音声ファイルを「これどうかな?」とブライアンに送っていたロジャー。
それに対し「ああ、いいんじゃないかな。私だったらこうミックスするかな」とロジャーへ返すブライアン。
時にはメールで、時にはロジャーの自宅で夕食を摂りながらそんなやり取りを日常的に行っていたイーノ兄弟(割と近所に住んでるらしい。仲いいな)。
ある日、ブライアンがふと気づいた。
「これ、アルバムにまとめたら面白いんじゃないかな?どうだいロジャー?」
「そうかい?兄さんがそう思うならやってみようか?」
そう!このアルバム、イーノ兄弟の日頃のやり取りから生まれた作品なのだ!
日付もバラバラに録音されたロジャーのフレーズをブライアンがまとめ、トリートし、一つの作品にまとめ上げたこの作品は確かにイーノ兄弟名義で初めて発売されるに相応しい。
肝心の中身の話に移ろう。
先述の通り、主体になっているのはロジャーのピアノフレーズ。
この人が面白いのは兄よりメロディアスな要素が強いことだ。
ブライアンの作品を聴いたことがある人ならわかるだろうが、ブライアンは基本的にメロディを繋げない。つまり、メロディに叙情性を持たせないのだ(ただ、メロディ自体はリリカルなのが面白い)。
それに比べるとロジャーのプレイはもう少し、メロディックで、映画音楽のように情緒のあるメロディが頻出する。
このメロディを「ただエモーショナルなもの」としてではなく、「アンビエントミュージック(環境音楽)」として仕上げているのはやはりイーノ兄の力!
多分、ロジャーのピアノだけを抜き出したらこのアルバムは「いいピアノインスト作品」になると思う(それはそれでいいと思うが)。
ところが、これにイーノ兄のあの反復的メロディのシンセや、パッと聴きではわかり難いが確かに効いている「空間処理」が入ることで、「極上の叙情的アンビエントアルバム」に仕上がっているのだなぁ。
普段アンビエントミュージックを聴かない人にいきなりブライアンのアルバムを聴かせても取っ付きにくいと思うのだが、このアルバムからなら入りやすいのではなかろうか。
(ちなみにこのアルバム、タイトル通り、曲名は全て「オブシダン」や「ローズクォーツ」など、色の名前がつけられている。この辺も曲名が記号だったりするブライアンのアルバムより取っつきやすいかと。ただ、この曲名をつけたのもブライアンなんだよなぁ(笑)。そうそう、初めて知ったのだが、イーノ兄は調香師の資格持ちだそうで、このアルバムの各曲に合わせた香水の販売も企画中らしい。筆者は香水には詳しくないが、ちょっと興味出ちゃうなぁ)
グラモフォンから出るのも納得のメロディの良さとアンビエントの美しさが融合したこの作品、まだ在庫はあるようなので、ぜひアナログで聴いてみてほしい。
筆者がアナログで聴いた感じ、このアルバムは区切りが入ったほうが絶対いい。おそらくCDで聴くと曲全部が連続して流れてしまうのでスーッと聴けてしまう(それがアンビエントミュージックの機能性ではあるけれど)と思うのだが、盤面を返す区切りがあるほうがロジャーのピアノの美しさがより際立つように思う。
というわけで、長々と書いてしまったが、やはりイーノはブライアンだけでなく、ロジャーも素晴らしい!
さあ、諸君!買えるときに買え!聴けるときに聴け!
イーノ?良〜の?兄も弟もサイコーよ!
《ハウリンメガネ 筆》