夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

2024年 アメリカの内乱と没落(1)

2024-01-28 10:49:31 | 社会
2021年 トランプ派による議事堂襲撃

「アメリカは内戦に向かうのか」
 2022年1月にアメリカで"How Civil Wars Start: And How to Stop Them"(内戦の始まり方:それらの止め方)と題した本が出版された。著者は政治学者のバーバラ・F.ウォルターである。日本では2023年に邦訳され「アメリカは内戦に向かうのか」と題され刊行された。
 ウォルターは、内戦と関連する指標として、その国がどの程度民主的か、専制的かを表す指標ポリティ・インデックスがあるといい、それは、その国の位置づけを「完全な民主主義国家」と 「専制国家」 の間で数字化したものである。勿論、これはアメリカ流のあるいは西側先進国の「自由民主主義」による考え方(イデオロギーと言っていい。)に即したもので、当然のことながら異論は存在する。
 このポリティ・インデックスの中間に位置する国を「アノクラシー(anoracy)」と 呼んでいる。そして、その国が「アノクラシー・ゾーン」に入ったときに、最も内戦リスクは高まると言うのである。その国が「完全な民主主義国家」でも完全な「専制国家」でも、内戦は起きにくい。それよりはむしろ政体が流動化したときに内戦は起きると言うのである。それは「内戦リスクの最も高い国は、最貧国でも不平等国でもなかった(...)。民族的・宗教的に多様な国でも、抑圧度の高い国でもなかった。むしろ部分的民主主義の政治社会において、市民は銃を手にし、戦闘に手を染める危険性が高かった」という研究結果に基づいている。 
 重要なのはアメリカの位置づけなのだが、2021年1月の連邦議事堂へのトランプ派の襲撃事件によって、ポリティ・インデックスが下降し、 ウォルターによれば「アメリカは2世紀ぶりにアノクラシー国家へと変貌した 」のである。つまり、アメリカは内戦リスクの高い国になった、ということである。勿論、その理由は議事堂襲撃事件一つではなく、この事件が象徴するように、アメリカ内部の亀裂であり、もはや武力衝突が起きかねないほどの抜き差しならない対立である。

トランプの勝利の大統領選
 11月の大統領選本選に向けて、共和党ではトランプが予想どおりアイオワ州、 ニューハンプシャー州 の予備選で勝利し、共和党大統領候補へ順調な歩みを進めている。
 民主党大統領候補では、現職のバイデン以外に、前回のサンダースのような有力な候補者は見当たらず、前回どおりの二人の争いが確実な模様だ。
 2023年11月のロイター/イプソスの世論調査 では、トランプの支持率が40%、バイデンが34%となっており、また、ブルームバーグと調査会社モーニング・コンサルトは12月の調査では、大統領選挙の激戦州 (アメリカは州によって共和・民主の支持が固定しており、固定していない州が激戦州 である。)7州で、「バイデンかトランプのどちらに投票するか?」で、トランプがバイデンを上回っている。他の世論調査でも同様な傾向にあり、最近の世論調査ではいずれもトランプが優勢となっている。
 さらに、これらの調査は、バイデン政権がガザに対するイスラエルの攻撃の「全面支持」を表明する前に行われており、若年層が多いジェノサイド反対デモで見られた標語「バイデンには投票しない」のように、民主党支持者の中の若年層は著しく「バイデン離れ」を起こしている。
 それらを重ね合わせれば、トランプの勝利はもはやよほどのことが起こらない限り、確実と言っていい。

トランプ大統領の再登場
トランプ派による司法機関襲撃
 1月27日に、トランプによる性的暴行に関係する名誉棄損で8330万ドルの賠償判決が下されたが、トランプはそれ以外にも大統領選挙手続き妨害、機密文書を自宅で不正保管、ジョージア州の選挙結果を覆そうと州政府に圧力等多くの裁判を抱えている。その度にトランプは、「バイデン政権の不当な政治的弾圧」だと訴えている。これらの裁判は本選まで続くが、トランプが共和党の候補として確定した時点で、トランプに不利な判決が出れば、トランプは「不当弾圧」を叫び、それに呼応してトランプ派が裁判を襲撃するのは間違いないと思われる。

トランプの報復
 ロイター(2023.12.27)によれば、トランプは「自身が創設したSNSで 、自身が再選された場合に有権者が最も連想する言葉が『復讐』(revenge)だったことを強調した 。」「トランプ氏自身、再選を果たせば政敵に「報復」(retrubution)すると繰り返し約束して おり」、「捜査や投獄、その他の方法で政敵に復讐すると約束している。 」
 保守系シンクタンク、ヘリテージ財団はトランプ政権元高官と共同で、民主党から共和党への政権移行を前提とした計画書「プロジェクト2025」をまとめた。
 「900ページを超える同書は、「左派分子の戦闘員たち」から米国を救う名目で、次期政権の政策実現に障害となる連邦職員を大量解雇し、保守的な職員と入れ替えることを提案、職員解雇手続きの法的措置についても解説している。」 (共同通信編集委員 半沢隆実2024.1.25) 
 
 トランプは前大統領選で敗北し、度重なる司法からの追求など苦渋の4年間を味わった。そして、その前大統領選も民主党の陰謀だとして敗北そのものを認めていない。それは多くのトランプ支持者も同調している。その怒りは再登場によって、民主党に代表される連邦中央や司法、行政組織に向けられ、それらに対して徹底した攻撃を加えるのは目に見えている。
 
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北「ミサイル発射」 軍事力優先のアメリカがもたらす悪循環

2024-01-19 12:11:47 | 社会

 2024年1月14日、防衛相は北朝鮮が「弾道ミサイルの可能性あるものを発射した」と発表し、15日には北朝鮮は、それが「極超音速ミサイル」だと発表した。とは言っても、正確には「発射」ではなく、試射または、発射実験(英語ではtest launch)であり、海外メディアはほとんど必ず、この表現を使用している。ミサイル発射と言えば、核または通常弾頭の(例えば、ロシアがウクライナに行っている)ミサイル攻撃のことだからである。

 北朝鮮は、2022年頃から長距離ミサイルの試射回数を増加させ、防衛省によれば、2022年に31回、2023年には18回にのぼったという。その度に日本政府は、今回は見送られらたが、全国瞬時警報システム(Jアラート)など を発動して警戒にあたっている。
 しかし、この「弾道ミサイルの可能性あるもの」は、飛行能力は1000キロ以上であることから、隣接する韓国や日本を攻撃するためのものではないのは、誰が考えても明らかである。そして勿論、攻撃対象はアメリカなのである。
 1月15日、北朝鮮のキム・ジョンウン総書記は、韓国との統一はもはや不可能であり、憲法を改正して韓国を「第1の敵国」に定めるべきだと主張した。これは、韓国の現右派政権が強度のタカ派であり、アメリカとの軍事協力を強力に推し進めていることから、交渉する余地はないと判断していることを表しているが、交渉するとすれば、やはり相手はアメリカなのである。
 
世界の軍事衝突には殆ど必ずアメリカが絡む
 近年の大きな軍事衝突は、2022年からのロシア・ウクライナ戦争、昨年にはイスラエル・パレスチナ戦争と、現在も継続し、この両方にアメリカが深く関与している。
 ロシアがウクライナへ侵攻した理由の一つに、アメリカ主導のNATOの東方拡大があり、ウクライナへの軍事支援はアメリカが圧倒的に大量に行っている。また、イスラエルのガザ地区への攻撃をアメリカは「全面支持」し、イスラエルへの武器弾薬供給により、大量殺戮を続けるイスラエルの兵器は多くはアメリカ製である。さらに今年になって、イスラエルの大量殺戮をやめさるためとするイエメンのフーシ派の紅海での商船拿捕に対し、アメリカは英国を従え、イエメン空爆を行った。
 また、アメリカは「悪の枢軸」とイラン、イラク、北朝鮮を名指しし、その中のイラクには、2003年に明らかな虚偽である「大量破壊兵器の保有」を根拠に軍事侵攻を行った。さらに、アメリカ政府は「ならず者国家」といいう言葉を度々使用するが、その中には必ず北朝鮮が含まれている。
 
インド太平洋軍
 そのアメリカは、アジア地域には、2018年にインド太平洋軍と名称変更した陸海空軍、および海兵隊に属する約30万人の統合軍を展開している。司令部はハワイにあり、基地はハワイ、グアム等のアメリカ領土を始め、在韓、在日に置かれているが、世界最強の軍隊である米軍の中でも、対中国・北朝鮮を念頭に北東アジアに兵力を集中させ、核兵器使用も辞さない(アメリカ政府は核先制使用を否定したことは一度もない。)常時臨戦態勢にある即応体制を整えた強大な部隊であるのは言うまでもない。
 
 このアメリカの軍事的プレゼンスに、米日韓の軍事同盟がそれを補強する。2022年8月にキャンプデービッドで行われた米日韓の首脳会合で、日本の外務省は「日米同盟と米韓同盟との間の連携を強化し、日韓米安保協力を新たな高みに引き上げるとの画期的な成果をもたらした」と誇らしげに喧伝した。
 さらに、同年10月の日豪首脳による「安全保障協力に関する日豪共同宣言」は、「緊急事態に際して、相互に協議し、対応措置を検討する」としており、防衛省は「日豪防衛協力は、日米防衛協力に次ぐ緊密な協力関係を構築」 した」と言う。これには、東大の藤原喜一ですら、米日韓豪の「東アジア版NATOの構築」と評している(2022.10.23朝日新聞)。

北朝鮮から見れば
 このような明らかに中国・北朝鮮を敵視したアメリカ主導の軍事同盟は、中国のみならず、北朝鮮にとっても国家存続の脅威と北朝鮮当局が認識するのは、極めて自然である。アメリカはソ連のキューバへの核兵器移送を重大な危機と対応したが、中国・北朝鮮に対しては、核兵器を含む大量破壊兵器で周囲を完全に取り囲んでいるのである。
 アメリカは、実際に「悪の枢軸」のイラクに、イラク側からの攻撃もないにもかかわらず、一方的に軍事侵攻を行った。そして、フセイン政権を倒し、フセインは処刑されている。それを北朝鮮に置き換えれば、北朝鮮のキム・ジョンウンが、国家存続の危機と捉えても、何ら不思議ではない。

軍事力拡大の悪循環
 今回のミサイル試射にも、南山大学平岩俊司は、「アメリカに攻撃力を誇示する狙い」があり、「3月から予定されている米韓合同軍事演習に、ひるむことなく対処していく」(NHK1月14日)ことを見せつけるためだと言う。要するに、アメリカの強大な武力に対する北朝鮮なりの自衛策という見方もできる。
 しかし、この武力には武力で対抗する姿勢が適切なものかと言えば、逆である。武力に武力で対抗すれば、現実の危機はますます増大するからである。
 
 世界にはアメリカに敵視されている国はいくつもあるが、例えば、キューバを例に挙げれば、強大なアメリカの軍事力に武力で対抗する姿勢はまったくない。キューバは、アメリカによるカストロ暗殺未遂を始め、現在でも経済制裁を受けており(アメリカのオバマ政権は経済制裁停止の意向を見せたが、トランプ政権で否定され、外交はタカ派のバイデン政権はそのまま制裁を継続している。)、アメリカからは、完全に敵視されているが、中南米で突出した軍事力は有していない。恐らくは、軍事力でアメリカに対抗すれば、全面戦争というとてつもない大惨事を招きかねないことを「キューバ危機」の教訓から学んだせいもあるのだろう。
 勿論、軍事力で中程度の国のキューバに、アメリカは軍事侵攻する意向は見られない。それは、当然なのだが、キューバがアメリカが安全保障上の脅威ではないからである。
 国際的なの視座から言えば、キューバに対するアメリカの敵視政策は不当なものだと見なされている。2021年には、国連総会で対キューバ制裁の解除を求める決議が日本を含む184か国の賛成多数で採択されていることが、それを裏付けている。このことも、軍事力で対抗しないキューバが、友好国を増加させ、脅威と見なされることはないことを証明している。

 北朝鮮は、アメリカの軍事的脅威に軍事力で対抗する道を選択している。現在では大陸間弾道弾ICBMも所有し、核兵器までも保有している。アメリカはそれに対し、対中国と併せて、日韓豪フィリピン等の周辺国を含めた強大な軍事同盟で対抗している。互いに、相手方の軍事力に対抗して、さらなる軍事力の拡大に突き進んでいる。ここでは、どちらが先に軍拡に走ったかは問題ではない。両者ともに軍拡に走り、戦争への危機を増大させる悪循環に陥っているのである。そしてともに、莫大な軍事費から、国民生活を圧迫している。報道からは飢餓も伝えられる北朝鮮は言うまでもなく、アメリカも社会保障政策では先進国の中で最悪である。
 
 これらの互いに軍事力を誇示した対決が終わるとすれば、北朝鮮の政権崩壊か、アメリカの政策転換である。北朝鮮は、中国にとってはアメリカへの盾となっている役割があり、中国は政権崩壊を望まないので、政権維持政策を採っている。アメリカの方は、民主党左派などが政権につかない限り、強大な軍事力で自国を守るという方針が変わることはない。そしてそれも極めて望み薄である。また、アメリカの軍事力を補強する日本、韓国も、その政策を推し進める右派政権が終わる見通しはない。直接の武力衝突がないだけ、まだましだ、と思うしかない。

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イスラエル・パレスチナ戦争 No.3「あからさまになった米欧の二重基準」

2023-12-09 14:10:52 | 社会

 イスラエル軍の攻撃を受け、病院で泣き叫ぶ子供たち アルジャジーラより

 12月2日、束の間休戦が明け、イスラエル軍による大量殺戮が再開した。その状況をアルジャジーラは「地上の地獄」と表現した。
 攻撃の再開から数日で、子どもを含むパレスチナ人が200人以上殺害されたのだから、この「地上の地獄」という表現は決して誇張ではない。まさに、パレスチナ人を全部または一部抹消するという意味でのジェノサイドが実行されているのである。そして「地上の地獄」を創り出しているのはイスラエル政府であり、それを容認しているのがアメリカを筆頭とするヨーロッパ諸国政府である。

主要メディアもガザの「地獄」を報道する
 束の間休戦前の11月21日に、米紙POLITICOは、アメリカ政府内に、「停戦になれば、ガザ地区にジャーナリストが大量に入り、イスラエル軍による破壊と殺戮の痕が暴露されることを懸念する」動きがあったと伝えている。Biden admin officials see proof their strategy is working in hostage deal
 イスラエル政府を全面支持するバイデン政権にとっては、イスラエル軍の残虐性は隠したいことだからである。
 ロシア・ウクライナ戦争では、西側主要メディアは米欧政府に歩調を合わせ、ウクライナに都合が悪い情報を記事にするのをしないか、するとしても小さく扱うという報道姿勢を貫いている。ロシアの侵攻前は、ネオナチの武装勢力アゾフ連隊の記事は多数報道されていたが、侵攻以降そのような記事は一切抹消され、アゾフはいつの間にか、ロシアと戦う「英雄」と報道されているのである。ロシア側はNATOの東方拡大を侵攻理由に挙げているため、それに関係する侵攻直前の、東欧でのNATOの大規模演習も記事にされなくなった。ノルドストリーム2を破壊したのはウクライナなのだが、それも紙面の片隅でしか報道されていない。さらに、ウクライナに都合が悪い情報を挙げるのはすべて、ロシアのプロパガンダと決めつけている。このように、西側主要メディアは米欧政府に完全に歩調を合わせているのである。
 しかし、イスラエル軍の暴虐ぶりはあまりにひどく、イスラエル支持を掲げる米欧政府に忖度しようにも、暴虐ぶりはは隠しようがない。西側主要メディアは、パレスチナ人の悲惨な状況を数多く報道せざるを得ないのである。
 11月25日ニューヨーク・タイムズは、「ガザの民間人は、イスラエルの集中砲火で歴史的なペースで殺されている」という記事を挙げた。Gaza Civilians, Under Israeli Barrage, Are Being Killed at Historic Pace
 この記事は、アルジャジーラと同様にイスラエルによる大虐殺を、アメリカ政府に忖度することなく、そのまま現実として書かれている。記事中の、この期間にイスラエル軍により殺されたパレスチナ人の女性と子どもは、ロシアが侵攻後の21か月で殺害したウクライナ人の女性と子どもの数を上回るというのが、その象徴と言える。
 また、10月7日の戦闘後、ガザだけでなく、ヨルダン川西岸地区でも、武装したイスラエル入植者が、パレスティナ人居住者を追い出し、抵抗する者を殺害していることが増加したことも複数のメディアが報道している。

 10月7日のハマスによる1200人の殺害と数百人の拘束に、西側主要メディアはその非人道的残虐性を最大限強調する報道を行った。それでもその後は、現実に起きているイスラエルによる大量殺戮を報道せざるを得なくなったのである。イスラエル全面支持のバイデンが、ガザのガザ地区のハマスが事実上運営している保健省が公表するパレスチナ人死者数が、多すぎるという意味の「確信できない」と言った後も、むしろ、公表数字よりも実際の死者数は多い可能性を主要メディアは指摘した。また、ハマスが襲撃の際に、赤ん坊の首を切り落としたと言ったのも、まったくのフェイクだったことも報道した。

 バイデン政権のあまりに偏向したイスラエル支持は、異常と言っていい。アメリカ政府国務省内部でも、バイデンのイスラエル全面支持の方針は中東全域を敵に回す恐れがあり、支持できないという100人以上の職員が署名した書簡がバイデンに提出されたという記事も複数のメディアで報道されている。
 世界中で、パレスチナに対する支持と即時停戦を呼びかけるデモが頻発し、イスラエル支持の米欧政府以外は、中東だけでなく、特にグローバルサウスの南米諸国政府のイスラエルを非難する声明で溢れている。さらには、アメリカ国内でも世論調査で、即時かつ恒久停戦を支持する意見が過半数を超えている。Voters Want the U.S. to Call for a Permanent Ceasefire in Gaza and to Prioritize Diplomacy
 
 このような動きに慌てたバイデンは、当初の「全面支持」を表に出さず、人道を口にするようになり、民間人犠牲者を減らすようイスラエルに要望するようになった。しかし、犠牲者を出さないようにするためには、イスラエルの攻撃をやめさればいいだけなのだが、バイデン政権は口とは裏腹にイスラエルの大量殺戮支援をやめようとはしない。

スラエルよりむしろ、アメリカ政府に「殺戮をやめろ」と言うべき
 ウォールストリート・ジャーナルは、10月7日以降、アメリカ政府からのイスラエル武器送付が、15000発の爆弾と57000発の砲弾を含め、急増したと報じている。WSJ News Exclusive | U.S. Sends Israel 2,000-Pound Bunker Buster Bombs for Gaza War
 
 ガーディアンは、12月7日に「なぜ米国は、無条件でイスラエルに際限なく武器を供給し続けるのか?」というオピニオンを掲載した。その中で、アメリカは軍事援助が「人権侵害や戦争犯罪に軍事援助を利用する国への軍事援助を監視し、打ち切ることを義務付ける法が法律が複数あるが、 」「イスラエルに対しては、米国が多大な軍事援助を提供しているため、個々の部隊を追跡することは不可能になっている。したがって、法律で義務付けられているように、イスラエルへの軍事援助を提供する前に審査は実際には行われない。」と指摘している。要するに、アメリカ政府は極めて多大な軍事援助をイスラエルに与えているため、その使用がいかに「重大な人権侵害」であろうとも、おかまいなし、ということである。Why is the US still sending an endless supply of arms to Israel without conditions? | Michael Schaeffer Omer-Man

 これらのことは、子どもを含むパレスチナ人に対する大量殺戮の多くは、アメリカが提供する武器・弾薬で行われていることを意味している。つまり、アメリカが軍事援助をやめれば、イスラエルはパレスチナ人大量虐殺ができないということである。まさに、イスラエル政府よりむしろ、アメリカ政府に「殺戮をやめろ」と言うべきなのである。

親密な関係を強調するバイデンとイスラエルのネタヤエフ 

米欧主要メディアも「西側の二重基準」を認める
 かねてから、西側、すなわちアメリカとその同盟国の「二重基準」批判は、アラブ諸国やグローバルサウスからのものだった。「二重基準」とは、西側と敵対する国や勢力には人権抑圧、国際法違反と徹底して批判するが、西側同盟国には同様な行為もそのような批判は一切しない、というものだが、それを西側主要メディアは、「自分たちはそうは考えないが、アラブ諸国やグローバルサウスでは、そのような批判がある」という言外の趣旨で報道してきた。しかし、今回のイスラエルの大量殺戮は、その「二重基準」鮮明にし、西側内部からも、その批判が沸き起こっている。
 ガーディアンは11月27日に「ガザでの戦争は西側の偽善に対する強烈な教訓となった。忘れられない。」というオピニオンを掲載した。The war in Gaza has been an intense lesson in western hypocrisy. It won’t be forgotten | Nesrine Malik
 この中で「(西側諸国では)人権は普遍的なものではなく、国際法は恣意的に適用される。」 「西側諸国は、自分たちが支持する何らかの世界的なルールがあるかのような、信頼できるふりをすることはできない (直訳)」と書いている。要するに、もはや西側諸国の言う「世界的なルール」など信用できない、ということである。
 国際法など多くの人権や人道に基づく世界的なルールは、西側諸国が中心になって創り上げられたものである。そのルールを西側諸国自身が守っていないい。その偽善は、今回のイスラエル・パレスチナ戦争で、より鮮明なかたちであからさまになったのである。

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イスラエル・パレスチナ戦争 No2「アメリカの戦争依存症Addicted to War」

2023-11-25 15:53:53 | 社会

イスラエルによる空爆

アメリカの戦争依存症Addicted to War
 2002年に、『Addicted to War: Why The US Can't Kick Militarism』 (「戦争依存症(中毒):アメリカはなぜ軍国主義から抜け出せないのか?」という本が出版されている。これは、アメリカの作家でありジョンズ・ホプキンス大学のジョエル・アンドレアスによって、漫画形式でアメリカの対外戦争の歴史を語ったものである。英語版Wikipediaによれば、「161の参考文献を含むこの本の目的は、なぜ米国が近年他のどの国よりも多くの戦争に巻き込まれたのかを実証し、これらの軍事的冒険から誰が利益を得て、誰が金を払い、誰が死ぬのかを説明することである」と説明されている。
  それは今日、バイデンがイスラエルのパレスチナ人への大量殺戮を「自衛」として擁護する姿にも、「戦争依存症」の症状は明白に表れている。
 バイデンは、いくら何でも、子ども4千人を含む1万人以上のパレスチナ人がイスラエル軍に殺されても、何の問題もない、とは考えないだろう。だから、人道上の一時休戦を言い出したり(これは、多分に即時停戦を求める多数世論に押されて、しぶしぶ言い出したのだが)するのだ。しかし、1万人以上の市民が殺されるのが良くないことと考えても、それを止める行動は、決してできない。なぜなら、戦争依存症だからである。人が大量に殺されると分かっていても、それを止められない、麻薬が悪いと分かっていても、それをやめられない。両者は依存症であり、同じ作用が起きているのである。

敵はテロリストだから,みんな殺せ
 アメリカ政府とそれに追随するヨーロッパ諸国政府は、ハマスはテロリストであり、テロリストを攻撃し、殺害するのは正義だとして、イスラエル政府のガザ市民への攻撃を支持している。しかし、テロリズムの社会科学上の定義など存在せず、テロリストと断定するのは、単に自分たちの敵とする勢力を非難するための便宜上の言葉でしかない。テロリストと断定すれば、その対象とその属する集団を殺戮するのは正義だと主張するための都合のいい言葉として使っているだけである。
 例を挙げれば、ロシアのプーチンもウクライナが自国の民間人を殺害すれば、テロ行為だと非難する。ロシア側がミサイル攻撃で多数のウクライナの民間人を殺害しているにもかかわらず、である。
 英国BBCも、ハマスをテロリストと呼ばないが、そのことで、政権与党と野党労働党右派の主流派から非難されている。それに対するBBCの答えは「『テロリズム』とは、人々が倫理的に認めない集団に対して使う、意図が込められたことばだ。誰を支持し、誰を非難すべきかを伝えるのはBBCの役割ではない」 (シンプソン記者)「『 テロリスト』ということばは、理解の助けよりも妨げになる可能性がある。 …われわれの責任は客観性を保ち、誰が誰に対して何をしているのかを視聴者がみずから判断できるように報道することだ」 (BBC編集ガイドライン、いずれもNHKから)というものだ。BBCは「テロリズム」の意味を正確に理解している。BBCも日本のNHK同様、保守党の権力側から圧力を受けており、フランス公共放送フランス2比べれば、欧米よりの報道が目立つが、最低限のジャーナリズムは死守したい意向が感じられる。
 
 アメリカも、テロとの戦いと称し、イスラムジハード主義者をその付近にいる一般人も空爆で大量に殺害する手法を何度も繰り返しているが、それも正義と主張するのである。そこで殺される一般人は、テロリストの所属する国の人びとである。アメリカ軍が、アラブ人やアフガニスタン人の結婚式や葬列をも空爆し、大量殺害することが度々あるが、それも「テロリスト」が紛れていると言えば、正義なのである。勿論、欧米人の中に「テロリスト」が紛れていれば、欧米人も殺害する空爆などは絶対に行わない。そこには、「テロリスト」と呼ぶのは必ず欧米人以外という人種差別主義が隠れている。「テロリスト」は大量殺戮しても正義なので、欧米人を大量殺戮するわけにはいかないからである。
 バイデンは、「テロリスト」の攻撃からイスラエルの「自衛権を全面支持する」と言って、ガザへの攻撃を容認した。(その後EUのデア・ライエンも追随して、同様のことを公言した。)それは、イスラエル軍がパレスチナ人を大量殺戮しても、ハマスという「テロリスト」がパレスチナ人の間に紛れこんでいるので、一般の民間人を何人殺そうと、ガザへの攻撃はイスラエルの「自衛権」であり、正義という理屈である。民間人を1400人殺害し、100人以上を拘束したことで「テロリスト」というのなら、子どもを4000千人を含むパレスチナ人を殺害したイスラエルも「テロリスト」国家だと考えるのが合理的だが、バイデンにはそういった正常で理性的な論理は通用しない。なぜなら、間違っていると分かっていてもやめられないアメリカの戦争依存症が、アメリカの大統領として、理性を働かせないように作用するからである。
 
軍事優先国家としてのアメリカ
 1970年以降のアメリカの外交政策に大きく影響したネオコンの代表的論客であるロバート・ケーガンは、文化や政策的魅力によって交流を推進する国家の「ソフトパワーには限界があり、」軍事力を背景とする「ハードパワーを無視すれば世界を見誤る」として、国際問題の解決に軍事力を優先することを強調した。2001年以降のブッシュ政権は、ネオコンのチェイニーやウォルフォウィッツを起用し、明らかな誤情報によってイラク戦争を開始したが、国際紛争の解決に対する軍事力優先志向が如実に表れている。
 実際には、その軍事力優先志向は、アメリカ社会構造自体に染みついていると言っていい。世界最強の軍隊を持つアメリカの軍事費は、ストックホルム国際平和研究所SIPRIによれば、2022年で8760億ドルでGDPの3.5%に相当し、世界中の軍事費の39%を占める。2位の中国は、2910億ドルでGDP比1.6%であり、アメリカの軍事力は群を抜いている。
 また、アメリカの商取引での武器輸出額は、世銀データによれば、2022年145億ドルで世界1位であり、2位のフランスの30億ドルを大きく上回っている。ここには、例えばウクライナへの兵器供与などの軍事支援は含まれておらず、それらは年間数千億ドルにもなる。
 
 アメリカは第二次世界大戦後、圧倒的に数多くの世界中の戦争に関わっている。それは朝鮮戦争、ベトナム戦争を始め、枚挙にいとまがない。それに伴って軍事産業だけは、他の産業の衰退とは逆に、最強・最大の繁栄を誇っている。それは、雇用を軍事産業が保証し、その増大を図る「軍事ケインズ主義」と呼ばれる社会構造を形成している。
 ロシアのウクライナ侵略戦争は、ウクライナへの軍事支援で、アメリカの軍事産業は空前の利益を得ている。戦争開始当初の2022年3月には、和平の兆しがあり、ゼレンシキー政権はロシアとの交渉に前向きだったという報道がなされている。そしてそれに強く反対したのは、バイデン政権だったという報道もなされている。
  ロシア・ウクライナ戦争は、ウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官が英誌エコノミストに、ロシア側に有利な「膠着状態にある」と正直に認めたように、実際は「ウクライナは勝てない」状況である。ゼレンスキーがいくら叱咤激励しても、ウクライナ兵の死体の山はうず高くなり、これまでに徴兵逃れのためにウクライナから逃亡した成人男性は2万人を超える(仏公共放送フランス2)。ザルジニーが言うように、「兵器はあっても人間も弾も足りない」状況で、ウクライナ人の死傷者だけが増えていくのが現状である。
 それでも、西側、特にバイデン政権は、戦争続行の意思を変えず、さらなる軍事支援を強化しようとしている。それは、ロシア側だけでなく、アメリカの軍事産業にとっても、「有利」であることは明らかである。
 要するに、アメリカの社会構造そのものが、軍事力優先、いつでも戦争ができる国、同盟国への最大軍事支援国と化しているのである。
 
アメリカのイスラエルへの軍事支援
 アメリカはイスラエルの建国以来、これまでで1580憶ドルの軍事・財政支援をししている(NHK10/30)が、2009年以降はすべて軍事支援であり、今年度は38億ドルである(BBC10/25)。さらに現在の紛争後10月に、バイデンは143億ドルの追加軍事支援予算を計上している。このことは、2022年のイスラエルの軍事費は230億ドル(SIPRI)であるので、またそのようなイスラエル支援をしている国は他にはなく、アメリカの軍事支援がかなりの割合を占めていることを表している。
 実際のイスラエルの軍がガザを攻撃している兵器は、今回の空爆で使用されている戦闘機も、精密誘導兵器のほとんども 、イスラエルの防空システム「アイアンドーム」が使う迎撃ミサイルの一部も、やはりアメリカ製である(BBC10/25)。言い換えれば、アメリカの軍事支援がなければ、イスラエルはガザへの攻撃、大量殺戮はできないのである

アメリカの戦争依存症が引き起こす大量殺戮
 イスラエル対パレスチナの戦争は、今回始まったわけではない。国連人道問題調整事務所OCHAによれば、2008年から2023年9月までで、紛争によるパレスチナ人の死者は6621人にのぼり、その内、イスラエルの空爆による死者は3222人である。それに対し、同時期のイスラエル人の死者は311人である。特に、2014年のイスラエル軍のガザ侵攻時には、パレスチナ人は2329人が死亡している。

 バイデンは当初、自衛の名のもとのに大量殺戮を行うイスラエルへの全面支持を公言していたが、人道支援や一時停戦を口にし始めた。イスラエルの攻撃に、世界中で即時停戦の世論が巻き起こっている。アメリカ内部でも特に若年層が「Ceasefire Now 」「No Vote」(即時停戦 大統領選でバイデンには投票するな)というデモが続出し、アメリカ国務省内部でも100人を超える職員がバイデンの外交方針に反対の書簡を送るなど、イスラエル軍の攻撃に反対する世論が大きくなったためである。
 バイデンは、人道を口にするが、戦争犯罪とも言える大量殺戮はイスラエルの攻撃が引き起こしているのであり、その攻撃を「自衛」だからと支持する行為は、大量殺戮を支持することとまったく同じことである。それは、1+1=2と同じくらい誰でも理解できる理屈である。人道を口にするなら、イスラエル軍の攻撃をやめさせればいいのである。そして、アメリカの軍事支援がなければ、イスラエル軍は、圧倒な軍事力によるガザ攻撃ができないのだから、バイデンはやめさせることは可能だ。そうしないのは、やはり、アメリカ政府が戦争依存症に侵されており、軍事力優先志向から逃れられないからである。それ以外に説明がつく合理的な理由は見当たらない。
 
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イスラエル・パレスチナ戦争 No1「パレスチナへの抑圧がテロとの闘いにすり替えられている」

2023-10-21 14:09:41 | 社会

イスラエルの空爆後のガザ

起きているのはイスラエル・パレスチナ戦争
 多くの西側主要メディアは、イスラエル・パレスティナ戦争を「イスラエル・ハマス戦争」と表現している。BBCもCNNもガーディアンもニューヨークタイムズも南ドイツ新聞も、そのように表現している。
 確かに、10月7日に、突然ハマスがイスラエル領内にロケット弾を撃ち込むと同時に侵入攻撃を加え、それに対しイスラエル側の反撃が開始された。そこだけを捉えれば「イスラエル・ハマス戦争」に違いない。しかし、それは第二次大戦後のイスラエル建国に伴うイスラエル対パレスチナとの対立が現在でも続いていることを完全に無視した歴史的健忘症とも言うべき表現である。イスラエル建国以来、75年にわたり、数百万人のパレスティナ人を排除し、抑圧してきたイスラエルに対するパレスティナ人の抵抗抵抗運動が、永続的に続いている現実を見れば、イスラエル・パレスチナ戦争と表記するのが適切なのは明らかだろう。
 この「イスラエル・ハマス戦争」という表現は、アメリカのバイデンが、「ハマスとパレスチナを明確に区別し、……イスラエルへの全面支持を表明し」(朝日新聞10月11日)ていることと符合している。バイデンが、あたかもパレスティナ人を敵視しているのではなく、敵はテロリストのハマスだけだと言っていることとと符合しているのである。
 この表現がいかに馬鹿げているかは、バイデンが支持するイスラエルがハマスの殲滅と言いながら、ガザの200万人のパレスティナ人を標的に爆撃をしていることを見れば、すぐに分かる。そして、ガザへの地上侵攻すら準備しているのである。現に、イスラエルが敵として殺害しているのは、ハマスに限らず、全パレスチナ人なのである。バイデンは、イスラエルに軍事支援の強化も表明したが、アメリカが供与した兵器で殺されているのは、全パレスチナ人なのである。
 2000年以降に限っても、2001年にシャロン右派政権が誕生すると 、パレスチナ両地区にイスラエルは軍事侵攻し、パレスティナ・イスラエル双方の多数の非武装の市民が殺害されている(パレスチナ側の犠牲者数はイスラエルの3倍)。また、イスラエル極右政権が入植を強行し、それに非武装で抗議するパレスティナ人の射殺は、日常茶飯事とさえなっている。さらには、2023年7月に、イスラエルはヨルダン川西岸地区の難民キャンプを空爆し、多数の難民を虐殺している。

 明白にしなければならないのは、現実には、数十年に及ぶイスラエルのパレスティナ人居住地の占領と抑圧に対するパレスティナ人とイスラエルの戦争なのである。それを矮小化するために、バイデンはイスラエルとハマスだけの戦争のように描きたいのである。バイデンは、イスラエルとテロリストであるハマスの戦争であり、イスラエルには自衛権があり、アメリカはイスラエルを全面支持するという理屈を振りかざしているのである。この理屈は、イスラエル政府のパレスチナに対する抑圧政策から目を背けさせる。イスラエルの抑圧政策がなければ、パレスチナ人の抵抗の一つの形であるハマスの武力闘争もあり得ないことを忘れさせる。だからバイデンは、パレスチナにイスラエルが何をしているのかに関しては、一言も言及しないのである。
 それを西側主要メディアは、バイデンを手助けするかのような表現で記事にしている。さらには、主要メディアは、ブリンケンが即座に、ハマスの攻撃にイランの関与を示唆したことを報じたが、これも別の要素であるイランとの対立を強調し、イスラエル対パレスティナの問題から目をそらさせる役割をしている。

衝突の根源とパレスティナ人の怒り
 この問題の根源が、イスラエル政府のパレスティナに対する抑圧政策であるのは明らかである。NHKですら「パレスチナの地に根を下ろしていた70万人が、イスラエルの建国で故郷を追われた…、いまパレスチナ人が住んでいるのは、ヨルダン川西岸とガザ地区という場所です。国にはなれないまま、イスラエルの占領下におかれている 。…ガザ地区は、日本の種子島ほどの面積に約200万人が住み…『天井のない監獄』とも呼ばれ、…最低限の生活さえできない状況 」(NHK2023/10/11)にあると、報じている。
 また、アムネスティインターナショナルも、「イスラエルによるパレスチナ人へのアパルトヘイト 残虐な支配体制と人道に対する罪」とイスラエルを断罪している。
 国連決議でも「パレスチナ人の自決権とパレスチナ国家独立の権利 」は完全に認められているが、その決議に真っ向から違反する政策をイスラエルは採り続けている。特に、最近のネタニヤフ極右政権は、ユダヤ人入植地の拡大とそれに抵抗するパレスティナ人を弾圧するための軍や警察を増加するするなど、抑圧政策を強化している。
 10月9日には、イスラエルの国防相ヨアヴ・ギャラントは「私たちは人間という動物と戦っている 」とまで言って、ガザに対する「完全包囲」を発表したのだ。 
 このような状況に置かれた人びとのイスラエルに対する怒りが最も先鋭化した、また悲劇的な形で表出したのがハマスのイスラエル攻撃なのは、誰の目にも明らかだろう。そもそもイスラエルの占領と抑圧がなければ、このような両者の衝突は起こりえないのだ。
 それにもかかわらず、アメリカとそれに追随する欧州はイスラエル全面支持を公言してはばからないのである。
 確かに、米欧のイスラエル「全面支持」とは、イスラエルの自衛権を支持したもので、それだけ捉えれば、正当なものに見える。しかし、アムネスティが言うところのイスラエルのパレスティナ人への「アパルトヘイト」には、一言の批判もなく、自衛権だけ「全面支持」を明言すれば、それは実際には、「アパルトヘイト」を容認していることと同じである。イスラエルは「自衛」の名で多くのパレスティナ人を殺害し続けている。それは、勿論、ハマスの戦闘員の周辺には多くの一般パレスティナ人が居住しており、区別することなどできないからである。さらに言えば、パレスティナ人の「自衛権」については、国家でないことからか、無いに等しいと見做しているのだ。

敵はハマスだけという欺瞞のかたまりの論理
 一般論として、目的が正当だとしても、そのすべての手段が正当化されるわけではない。ハマスのイスラエルへの千人以上の一般市民虐殺と数百人の拉致も、同様に正当化することはできない。これは、非難されるべきなのは当然である。また、この残業行為がイスラエルの「自衛権」を正当化し、イスラエルの極右政権だけでなく、一般市民の怒りを生み、米欧の世論を「イスラエル寄り」に導くことを助長する。
 しかしそれでも、ハマスの残虐行為とイスラエルの大量虐殺を同じものだと見做すことはできない。片方は抑圧されている側であり、もう一方は抑圧する側だからだ。イスラエルの軍と警察は、非武装の抵抗するパレスティナ人を殺害している現実があるからである。
 言うなれば、原因がパレスチナ人へのイスラエルの占領と抑圧であり、結果がハマスの攻撃であるのは、誰の目にも明らかなことだ。
 
 現実には、ハマスと一般のパレスチナ人を峻別することなどできない。ハマスは、2006年にガザ自治区選挙で勝利し(それ以降、選挙は行われていない。)、軍事部門だけでなく、衣食住・教育・医療全般にわたるボランティア的活動でガザ地区で完全に根をおろしている。それが、西側メディアが言う「実行支配」の実態なのである。ヨルダン川西岸パレスティナ人自治区でも、この衝突以来、一斉にハマス支持のデモが沸き起こっているのは、パレスティナ人全体でハマス支持の強さを物語っている。
 峻別できないから、イスラエルは一般パレスティナ人を含めて殺害するのである。バイデンが「全面支持」するイスラエルの「自衛」とは、現実には子供や老人を含めた一般パレスティナ人を大量に殺害することなのであり、それを数十年にわたり実行し、これからも実行しようとしていのである。
 バイデンは、口先では人道支援を口にする。しかし、人道支援と言うなら、イスラエルの事実上の無差別攻撃をやめさればいいだけである。これ以上の、イスラエルへの軍事支援はしないと言えばいいのである

孤立するイスラエル・アメリカと追随者
 米欧政府やその追随者以外には、この馬鹿げた主張が欺瞞にかたまりなのは明らかだ。世界各地でイスラエルの「武力占領と大量虐殺をやめろ」と叫ぶデモが、メディアが記事にしたものだけでも、欧州、アメリカ、アラブ各国、トルコ、マーレーシア、中南米起きている。アメリカでは、ユダヤ人の団体が抗議し、参加者は「私自身ユダヤ人であり、ユダヤ人の名において多くのことがなされていることを拒否する。この暴力に対する米国の加担と支援に終止符を打つために、私たちは歩みを止めない。パレスチナが自由になる日まで」と述べている。 
 中露はもとより、南米コロンビアのグスタボ・ペトロ大統領は9日 、イスラエルの抑圧行為をナチスに例えて非難したが、南アのシリル・ラマポーザ大統領は、「イスラエルとパレスチナの民間人悲惨な死は、私たち人類全体にとって衝撃です 」とした上で、「イスラエルの民間人に対する理不尽な攻撃とガザ包囲、そして100万人以上の住民をガザから強制的に追放する決定は、無差別武力行使と相まって、さらなる大規模な苦しみと死の基礎を築いている」と大統領府の公式声明でイスラエルを非難している。 From the desk of the President - Monday, 16 October 2023 | The Presidency
 
 国連安保理では10月18日、「ハマスによるイスラエル攻撃非難」を含み、「戦闘の一時中断」を求めるブラジル案を、日中仏が賛成し、15カ国のうち12カ国が賛成したが、唯一アメリカだけが反対し、拒否権を行使した。そこには、ひたすら、一方的にイスラエルを「全面支持」し、武力によるハマスの殲滅を支援するアメリカ政府の姿勢がにじみ出ている。言うまでもなく、そのような姿勢は、無分別に(差別的用語を敢えて使えば、盲目的に)アメリカに追随する者以外には、絶対に受け入れられるものではない。
 
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