夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

トランプ2.0は、どうなるか分からないが、「黄金時代」が来ないことだけは、確か

2025-01-25 11:39:43 | 社会

「黄金時代」を約束し、聴衆にペンを投げる(ロイター)

 「偉大なアメリカを再び」と何度も繰り返していたトランプは、大統領就任演説では、「黄金時代が今から始まる」と言った。しかし、その言葉とは裏腹に、「何をしですか分からない」「予想困難な」トランプが、アメリカに「黄金時代」をもたらすことができないことだけは、確かだ。

トランプの政策は、アメリカの「悪あがき」に過ぎない
 トランプの言う「黄金時代」が何を意味するのかは、必ずしも明白ではないが、トランプは次のことをやろうとしている。それは主に、移民の排斥、人種的、性的マイノリティを認めないなどの多様性・公平性の否定、パリ協定の離脱など環境・エネルギー政策の逆行、そして外交では、WHO脱退といった国連軽視、国際協調の拒否、そして高関税を武器に、敵視する中国に止まらず、今までの友好国に対しても脅しをかけ、貿易などの「アメリカファースト」の条件を強要するというものである。しかし、これらの政策を実施したところで、アメリカ国民の半分に相当するトランプ支持者の生活が向上するわけでもなく、アメリカ社会が悪くなることはあっても、良くなることは、決してならない。
 
 アメリカ国内には、既に人口の13.6%、4000万人の移民が居住し、毎年100万人も流入している(財務省広報誌「ファイナンス」 )。不法といっても、現にアメリカに居住し、雇用されている「不法移民」は、数百万人に上る。その人びとに強権で臨めば、反発されるだけであり、それを取り締まる軍・警察の人員・経費は莫大になる。また、その人びとが生計を保つための合法的手段を失えば、犯罪以外に生計は不可能となり、治安悪化は目に見えている。
 
 トランプは「性別は男と女だけ」と言い、 「多様性・公平性・包括性DEI:Diversity, Equity & Inclusion 」の推進を停止する意向も表明したが、現に性的であれ、人種的であれさまざまな人々が共存する社会で、それを否定しても、さらなる分断の亀裂を深めるだけであり、異なるカテゴリーに属する人々の間の対立を加速させ、分断から敵対関係へと進まざるを得ない。それは、人がどのカテゴリーに属していようと、例え多数派に属していたとしても、生きづらさはますます増大するだけである。

 トランプは、就任演説で相手国や関税率などに関する具体的な言及はなかった ものの、「自国民を富ませるために他国に課税する」 と述べた。トランプは、高関税を武器に相手国を脅し、アメリカに輸出したければ、アメリカ製品をもっと輸入しろとディール(取引)を行おうとしている。
 トランプは、課した関税を通じてアメリカは「中国から数千億ドルを受け取った」と述べたが、 そもそも関税は、相手国が負担するものではなく、ほとんどがアメリカ企業である輸入業者が負担するものである。正確には、「数千憶ドル」は、中国でなく、アメリカ企業が支払ったのである。
 トランプの1期目の2016年から2020年でも、関税を上げ、全輸入品に対する米国の関税率はを加重平均で1.4%から3.0%へと上昇させた。しかし、それでも貿易収支の年ごとの赤字の上昇は解消されていない。
 CEIEグローバル市場経済統計データによれば、個人消費のGDPに占める割合は、アメリカ67~68%、EU53%、日本55%、中国39%と、アメリカが著しく高い。アメリカは世界的には異常な消費大国であり、それが経済成長とアメリカの「豊かさ」を実現させてきたのである。それは、第二次世界大戦以降、アメリカが自由貿易体制を推進し、旺盛な輸入政策を採り、アメリカ資本の対外直接投資と生産拠点の海外シフトを進めてきたことによる。
 この政策は、資本活動に対する規制を最小限にする自由経済体制を基本としている。それは、弱肉強食であり、経済の不平等を加速させ、弱い産業は当然衰退する。その対外的には相対的に弱い産業がラストベルトに代表される工業生産なのである。
 アメリカは、軍事産業とIT関連産業を除いた工業生産力は、資本力、技術力で日本も含めた一定の経済力のある国に、特に、中国に太刀打ちできない。
 中国を含めて、貿易相手国は多少の譲歩はするだろう。アメリカからの輸入を少しは増やすかもしれない。しかし、それは大きく遅れた技術力を取り戻すことにはならず、相手国は輸入を拡大しようにも、価格と品質で魅力のあるアメリカ製工業製品は少ないのである。
 アメリカで売りたければ、アメリカ国内で作れと言われても、外国企業はアメリカの高賃金に見合う製品は、IT関連と軍事物資しかない。土台、無理な要求なのである。
 高関税によって輸入品価格が上昇すれば、消費者であるアメリカ国民は、物価高に悩むだけである。

 国際協調を拒否する姿勢は、今までの友好国も敵に回す。尻尾を振ってくるのは、イタリアやハンガリー、アルゼンチンなどの極右政治家だけである。大統領就任式で、閣僚任命候補のイーロン・マスクは、手のひらを下向きにするしぐさをすると、すぐさまマスメディアは、「ナチス式敬礼」と報道したが、これも、世界的にトランプが差別主義者、民主主義の否定者と見做され、そのファッショ的傾向を警戒していることの表れである。そこには、友好国からも軽蔑されるアメリカがある。
 
 熱烈なトランプ支持者は、嫌悪する性的マイノリティや貧しい移民をやっつけてやった、と喜ぶのかもしれない。しかし、生活の向上などは期待すべくもなく、衰退しつつあるアメリカそのものであり、「黄金時代」などとはほど遠い時代がやってくるだけなのである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする