夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

コロナ危機「医療逼迫 民間病院の患者受け入れが少ないのは、民間病院が”ずるい”からか?」

2021-01-19 18:44:27 | 政治
 最近のメディアで、コロナ危機による医療の逼迫について、民間病院の患者受け入れが少ないとの報道が頻繁になされている。東京新聞、1月14日「病床は世界最多、感染は欧米より少ないのに…なぜ医療逼迫?」、朝日新聞、1月16日「揺れる『ベッド大国』日本 医療逼迫は民間病院のせいか 」と、日本の病床数が多いにもかかわらず、逼迫している現状に、公的病院と民間病院の患者受け入れの大きな差があることを指摘している。では、実際の欧米と比較したデータはどうなっているのか?
 
 実際の各国との比較
日本の病床数当りの医師数はかなり少ない
 厚生労働省が出している「医療分野についての国際比較(2015年)」を見ると、日本の人口千人当りの病床数は13.2で、英国2.6、ドイツ8.1、フランス6.1、米国2.8となっており、かなり多いことが分かる。病床数だけを見れば、欧米の10分の1以下の患者数の日本が「逼迫」ならば、欧米は「壊滅」していることになる。しかし、日本の千人当たりの臨床医師数は2.4人、英国2.8人、ドイツ4.1人、フランス3.3人、米国2.6人である。さらに、百病床当りの医師数が日本では17.9人、英国106.9人、ドイツ50.9人、フランス50.9人、米国90.9人で、同看護師数も日本83.0人、英国302.7人、ドイツ164.1人、フランス161.8人、米国394.5人となっている。これは、何を意味するかと言えば、病床数は飛びぬけて多いが、病床に携わる医師、看護師は各段に少ないのである。患者を受け入れるベッドは多いが、それに見合う医師・看護師は圧倒的不足しているという現状を表している。コロナ危機以前から、大病院の医師・看護師の過酷な勤務実態が報道されていたが、このことはそれを裏付けている。
日本の病院は民間が多い
 厚生労働省は「 医療提供者の所有形態(2015年) 」では、日本は病院の民間が約80%、公的20%に対し、英国大半が公的、ドイツ民間50%、フランス大半公的(キャパシティで67%)、米国純粋民間営利15%、公的15%(米国はキリスト教関係の特殊形態が多く、公私が判然としない)となっており、日本での公的病院の少なさが際立つ。
 東京新聞では、「公立病院は7割、公的病院は8割がコロナ患者を受け入れているが、民間病院は2割ほど」としているが、そもそも規模も小さく、設備・人員とも足りない民間病院の方が、受け入れが難しいのは当然である。仮に受け入れれば、多額の赤字を覚悟しなけれなならない。それでなくとも、慢性的な赤字に悩む病院は多い。公的な病院は、国や地方自治体からの公的支援を期待できるが、民間病院にはそれがないのである。実態として、コロナ患者は公的・民間高度病院に集中し、そこでは「逼迫」する。それに反し、多くの民間病院では「逼迫」どころか、他の患者も減少しているので、「閑古鳥が鳴く」状態で、それはそれで、赤字経営を余儀なくされるという奇妙な現実が出現しているのである。
 そもそも、日本の病院数は、1990年が10,096とピークで、2017年には8,412と減少している。内訳は、1990年国立・公的が1,770、民間8326,2017年国立・公的1,538、民間6,874である。(以上、「厚生労働白書」より)これは、医療の慢性的赤字体質が原因による自然減という要因もあるが、公的病院の赤字が著しく大きいことを問題にしている厚生労働省が公立病院の再編・統合を目論んでいることも影響している。

 こうして見ると、欧米、特にヨーロッパ諸国は、公的病院が多く、患者受け入れは多くの病院で行われているが、受け入れが難しい民間病院が多い日本で、この状況をそのままにすれば、患者数が相対的に少なくても「医療逼迫」が起こるのは、むしろ当然と言える。厚生労働省は前述したデータを作成しており、COVID-19患者が、国立・公的病院、または、私大病院など大規模かつ高度な民間病院に集中し、逼迫するのは、誰の目にも明らかで、予見可能なのである。
 「医療逼迫」が予見可能で、昨年来、政府は何をしたのかと言えば、何もしなかったのである。力を入れたのは、感染予防策どころか、GoTo諸作の感染拡大策である。今年の1月になってようやく、都立3病院を専門病院にすると決めたぐらいである。また、民間病院の受け入れを増やすために、今期の国会で感染症法を改正し、医師・医療機関に「協力を求めることができる」から、「勧告」に強化し、応じなければ機関名を公表するという方針を示している。これは明らかに、本末転倒である。民間病院の多くは、患者を受け入れたくても、設備的に、人的に、特に財政的に困難なのである。それを法による脅しで強制しようとしているのである。政府のやるべきことは、まず設備の支援、財政の支援のはずだ。そうすれば、受け入れはもっと進むのである。
 また、新潮社系の一部右派系メディアが、「経済再開」のために、ウイルスの危険性を軽視させる目的で、感染症分類を季節性インフルエンザと同様の5類にすれば、民間病院でも受け入れやすいなど主張しているが、医療現場能力を無視した暴論と言って良い。
 中国のように、建物から新しく専門病院を作るなどは無理にしても、医療現場での人的交流、つまり昨年6月以降、専門の研修を受けてもらえば、民間の医療スタッフを公的病院への支援に行ってもらうことぐらいできたはずである。政府の無策という結果がすべてであり、「医療逼迫」は起こるべきして起きたのである。
 
 
 
 
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする