夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

バイデンの「民主主義の勝利」は、「誇大広告」である。

2021-01-29 17:48:59 | 政治
 ジョー・バイデンは「ペテン師」を破り、第46代大統領に就任した。「ペテン師」とは、勿論、トランプのことである。あれだけの嘘で人びと惹きつけ、投票した人々を実際には困窮させるのだから、右派ポピュリストというより、「ペテン師」と呼ぶのが適切だ。事実、トランプの支持の白人労働者の賃金を上げたわけでもない。トランプは本人がそうであるとおり、トランプは富裕層の味方なのである。その意味では、はるかにましな大統領が誕生したのは間違いない。しかし、「民主主義の勝利」とは、実際に「民主主義」の何がどう「勝利」したのだろうか?
 トランプ支持者が選挙結果による議会の大統領認定を覆そうと議事堂を襲撃し、それを排除して、バイデンが大統領に正式に就任できたことが「民主主義の勝利」と言いたいのかもしれない。議事堂襲撃事件をクーデターと呼ぶ者もいる。しかし、クーデターは、実際に行われたタイのように、軍部以外に実行することなどできない。襲撃事件は、単に警備当局の甘さとトランプ支持者が警備側にもいたから起きたに過ぎない。それは暴徒rioterによるもので、権力奪取などあり得ず、すぐに鎮圧されるものだった。遅かれ早かれ、トランプ支持者はトランプ再選をあきらめざるを得なかったのだ。
 トランプ本人だけでなく、支持者のQアノンなどの陰謀論者や人種差別主義者を含む総じて極右勢力が、SNSを通じて「フェイク」を乱発し、選挙結果を信じない人々を大量に生み出した。そして、民主主義の基本的ルールである政権の平和移行を妨害した。その勢力に勝ったのだから、その分だけ「民主主義の勝利」と言えるのは確かだ。しかし、実際の選挙戦は、民主・共和に「分断」したメディアでの情報戦に辛勝したに過ぎない。
 
 民主主義を口にするなら、まず、アメリカの選挙制度を問題にすべきだ。アメリカの大統領選が、フランスなど他の国で当たり前のこととして行われているように、全体の選挙投票数が多い方が当選するという制度ならば、2016年にもトランプは敗北していたのだ。アメリカでは、2016年だけでなく、国民全体の投票数が少ない方が当選するという奇妙なことが何度かあるのだ。また、大統領選と同時に行われた上下両院選の小選挙区制という、第3党の進出を阻む民主・共和の政治エリートに有利な制度や、一票の格差が甚だしい(上院は50倍に達する)ことを民主主義の欠陥として問題にすべきだろう。
 他の民主主義を標榜する国々ではあり得ない巨大企業の合法的ロビイストが実際の政策決定に強い影響力を持つことも重要な問題だ。直接アメリカの大統領選にも絡む民主主義の問題としては、政治献金では「スーパーPAC(特別政治活動委員会)」という資金管理団体を通して、事実上無制限の資金が民主・共和両党に流れ込む。これは、ウオール街や大企業、富裕層のカネが自分たちに有利に政治を動かすために提供されるものだ。勿論、「自由民主主義」なので、労働組合からや、一般市民からの少額献金も積もり積もって多額にはなる。しかし、政治家側は、少数の莫大な資金提供者の意向に逆らえない。意向に逆らえば、莫大な資金を失うことになるからだ。(因みに、サンダース派は多くを大勢の人からなる少額献金者に頼っている。)グレッグ・パラストがブッシュ時代の状況を「金で買える民主主義」と書き、デヴィッド・ハーヴェイが「名ばかりの民主主義」と著書「新自由主義」で書いたが、その状況は今でもほとんど変わってはいないのだ。明らかに、バイデンは「誇大広告」のバルーンを挙げたのだ。
 日本の新聞は、バイデンの大統領就任演説を全文載せた。ご丁寧に朝日新聞は英文まで載せている。こんな扱いをするのは、アメリカの大統領だけであり(トランプの時は、抄訳だった。)、そこには「アメリカ民主主義」への、批判的精神を投げ捨てた危険な「絶対視」がある。これでは、今後のバイデンの日本への要求はすべて正しいということになりかねない。
 
 アメリカでは、「ニューヨーク・タイムズ紙を情報源として読んでいる人たちの91パーセントは民主党支持であり、フォックス・ニュースを見ている人の93パーセントは共和党支持 」(ル・モンド ディプロマティーク)というデータが示すとおり、マスメディアの民主・共和の棲み分けははっきりしている。最も激しいのがニュース専門テレビで、MSNBC(マイクロソフトと大手テレビ局NBCが共同設立)が民主党、ブレイドバート・ニュースが共和党で、互いに相手を罵っているほどである。それらは「分断」と言われる事実を表している。
 勿論、両党支持者には、両者ともに、どの社会的カテゴリーに属するかが、最もその決め手となる。比較的低学歴の白人労働者に熱狂的トランプ支持者が多いことなどがその典型例である。彼ら白人労働者にとっては、「フェイク」を信じてしまうだけの理由、それだけの現実の困窮があるのだ。民主・共和両党の政治エリートが自分たちをないがしろにしていると思うだけの理由があるのだ。だから、共和党でも主流派ではない、トランプを信じるのだ。いくら「fakeフェイク」を批判しても、それを信じたくなる彼らを取り囲む現実はfact事実であり、authentic,genuine本物なのである。
 バーニー・サンダースは、それを解決するためには、民主党が真に労働者の党となることが必要だと言う。本当にそれを実現させた時には、バイデンは真の意味で「民主主義の勝利」と言っていい資格がある。

 


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする