夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

香港の憂鬱(1) ~抗議デモはどう報道されているか~

2019-11-04 16:14:08 | 政治
 香港の若者を中心とする抗議デモのは収束する気配を見せない。11月2日にもデモ隊は中国の通信社新華社の香港支社を破壊したというニュースが配信されている。
 香港以外でも、世界中で抗議デモは頻繁に起きており、フランスの「黄色いベスト」から気候変動危機に対する「絶望への反逆」、最近ではチリ、レバノン、チュニジア、イラク等いたるところで行われている。しかし、これらのデモと香港のそれとは大きく異なる点が二つある。ひとつは欧米メディアの報道姿勢が他の地域のデモと大きく異なることだ。(日本メディアは欧米メディアのものを転載しているだけである)欧米メディアは香港デモには極めて好意的なのだ。他の地域のデモでは、破壊・暴力行為を厳しい姿勢で報道するが、香港ではむしろ警察の暴力的取締りの映像の方が頻繁に流されるのだ。それらのことは「文春オンライン 2019.9.5現地ルポ デモ隊の”醜い真実”をあえて書く」でも詳しく描かれているし、「黄色いベスト」の場合に先鋭化したグループの繁華街での破壊行為の映像を何度も流したことと比べれば、明らかである。
 勿論、政庁・警察側も覆面禁止やデモ許可地域を極端に狭め、違反者を殴る蹴る、催涙ガスを至近距離で吹き付ける、挙句の果ては実弾を使うなど、他の先進国ではあり得ない香港警察の「弾圧ぶり」は事実であると思われる。しかしそれでも、他の地域におけるデモとの扱いが明らかに違うのは、デモを報道する頻度である。米ニューヨークタイムズ、CNN,BBC,英ガーディアン、仏ルモンド等Web版で、どれをとっても香港デモの記事が書かれていない日はない。デモンストレーションは他の人びとに訴えるのが主眼であり、メディアに掲載されること自体がひとつの目的でもある。逆に言えば、そのデモを扱うこと自体が好意的であるとも言えるのだ。日本において安倍政権に反対するデモを、政権に近い産経、読売新聞が無視し、毎日、朝日、東京新聞が報道するのも安倍政権に対する見解の違いの反映であることを考えると理解しやすい。
 もうひとつの香港デモと他の地域での違いは、例えば、「黄色いベスト」、「絶望への反逆」、チリ、レバノン、イラク等多くのデモは、エリート層、富裕層に対する不平等への怒りが根底にあるのだが、(「絶望への反逆」は本質的には資本主義システムによる地球環境破壊に対する抗議という意味を持つ)香港デモは5大要求でも分かるとおり、純粋に民主主義制度だけを問題にしている点である。したがって、他の地域のデモには必ず左派が部分的にも参加しているのだが、香港デモでには左派は皆無である。それは、「黄色いベスト」をhard left(確固たる左派)のメランションが全面支持を表明しているが、香港デモを全面支持しているのはトランプ政権であることからも明らかである。
 誤解を招かないように書かねばならないが、香港デモ隊が敵視する中国政府はもはや左派政権とは言い難い。ナショナリズム、自国資本の擁護、覇権主義、authoritarianism( 権威主義)に凝り固まった政権を左派と呼ぶわけにはいかないのだ。また、純粋な民主主義制度の要求は人民の正当な権利であり、正義でもある。
 
 そのような事情があるにしても、敵が「一党独裁」の中国であり、左派色がないことが、右派メディアから中道左派メディアまで欧米メディアが一色になって好意的な理由であると考えられる。



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