夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

ウクライナ、今そこにある危機「ロシアへの憎悪のあまり、NATOは全面戦争へと突き進む」

2022-04-10 11:25:48 | 社会
 
ウクライナ兵に破壊されたロシア軍戦車が道端に横たわる

長期戦は避けられない
 アメリカのマーク・ミリー統合参謀本部議長は、「4月5日下院軍事委員会の公聴会で、ウクライナの戦闘が数年間に及び、長期化する可能性がある」と言った(朝日新聞4月7日)。恐らく、この見通しは現実になるだろう。
 ロシア軍は、ウクライナ東部地域の占領・支配は、軍事侵攻の最低限の目標としているし、ゼレンスキー政権は、それを絶対に容認しないからだ。ゼレンスキーが容認しないのは、NATO諸国からの軍事支援は今後もさらに増加し、ウクライナ軍は強化される一方で、反撃能力は十分あると見通せるからでもある。プーチンもゼレンスキーも、どちらも絶対に譲れない戦争が起きているのである。
 西側は経済制裁を強化しているが、経済制裁で政権が崩壊したのは、歴史上、南アフリカ共和国だけである。政権が崩壊するのは、それにとって替わる勢力が存在しなければ、不可能なのである。南アには、現政権のANCがアパルトヘイト時代も、かなりの勢力を有し、とって替わりうる勢力として存在していたのである。イランも北朝鮮もキューバも長年政策を受けているが、とって替わる勢力が存在しないので、政権は崩壊しない。ロシアも同様に、「反体制」勢力はナワリヌイなど存在するが、小さすぎて政権を倒すほどではない。制裁によって、逆に、プーチン政権は世論調査で明らかなように、ナショナリズムの高揚から支持を増大させており、政権は崩壊などしないし、戦争遂行の方針を転換することもない。プーチンはかつて、北朝鮮の核ミサイル開発を、どんなに制裁を受けようとも「草を食べてでも」止めることはないだろう、と言ったが、それはロシアも同じことだ。ロシアもウクライナも、自分たちが認める勝利まで、戦争を止めることはない。

 西側メディアは、ロシア軍による民間人殺戮などの「極悪非道ぶり」を強調し、ロシアの軍事侵攻前には報道された、NATOの東方拡大のロシア側の反発への懸念やアゾフ大隊などウクライナ民族主義者によるドンバス地方でのロシア系住民に対する虐殺疑惑(真偽は不明)などは、ほとんど報道されず、報道する場合はすべてロシアのプロパガンダとして扱うようになった。
 停戦交渉は、それらのロシアへの憎悪をかきたてる報道だけが強調されれば、その「極悪非道」のロシアと交渉するという行為は、意味のないものとみなされる。プーチンは今やヒトラーらに例えられているが、ヒトラーと交渉しようなどと考える者はいない。プーチンと何度か直接会談を行ったフランスのマクロンも仲介役のトルコのエルドアンも、ロシアを非難せざるを得ず、中立的立場を放棄することになる。中立的でないものは、仲介に立てないので、停戦交渉など不可能なのである。
 
 上記に挙げたアメリカのミリー統合参謀本部議長は、朝日新聞には掲載されていないが、実は次のことも発言している。
 このインサイダー紙によれば、ミリーは「米軍をウクライナに派遣することが、プーチンの侵略を阻止する唯一の方法である可能性が高い 」と言っている。しかし、「ロシアとの武力紛争のリスクがあるため、そうすることに反対している 」と米軍がロシア軍と直接交戦するの第3次大戦の始まりの恐れがあると言っている。
 つまり、交渉によって戦争が治まることなどあり得ず、軍事力でロシア軍を敗北させない限り、侵略は止められないが、極力、欧米とロシアの直接的交戦はしたくない、ということである。そこで、NATOは、着々とウクライナへの軍事支援だけを行っているのである。したがって、ウクライナ軍はますます強化され、東部の占領のみに方針を変えたロシア軍と互角の戦いを進めることになる。だが、米軍の圧倒的な軍事力は使用できないので、侵攻しているロシア軍を壊滅できず、いつ終わるか分からないに戦争になるということである。
 このロシアの侵略戦争が長期化すればするほど、ロシアの「極悪非道ぶり」は報道されるので、ロシア軍に対する憎悪は極限まで増すことになる。そもそも、世界中どこの軍隊も、他国に侵攻すれば、民間人を殺戮する。国連は、20年間のアフガニスタン戦争で民間人4万6千人が殺害されたと推計している(東京新聞2021年9月29日)。その多くは、アメリカによる通常の空爆やドローン攻撃による「巻き添え」によるものである。空爆で粉々に吹き飛ばされ、焼き殺されるのは、ウクライナでもアフガニスタンでも同じであるが、「巻き添え」で殺害するのは、さほど非人道的とは見なされない。ウクライナとの大きな違いは、死ぬのが欧米人かアジア人か、である。それが西側メディアでは、大量に報道されるか、小さな扱いになるかの大きな違いとなって現れる。西側メディアでは、国によって命の価値は大きく異なるのである。
 

終わりのない戦争は、NATO・ロシア戦争へ
 今のところ、ロシア軍もNATO軍を直接攻撃していない。NATOもウクライナに派兵するのは抑制している。しかし、戦争が長引けば、そうはいかない。ロシア軍を苦しめているのは、NATOの軍事支援であるから、ロシアは業を煮やし、既にウクライナに入っているアメリカなどの、西側兵器の取り扱いをウクライナ兵に訓練する軍事顧問団を攻撃する可能性は高い。また、ロシア軍が撤退したウクライナ西部にはNATO軍を派遣される可能性もあり、それもロシアの攻撃対象となる。その時は、NATO諸国の人間が殺される。また、ポーランドなどウクライナへの軍事支援を橋渡ししている地域への部分的な攻撃の可能性もある。そうなれば、ただでさえ「戦争をやめさせる」よりも、明らかに「ロシアを罰する」に向かっている西側世論は、ロシアへの憎悪は一層高まり、一気に「戦争やむなし」に傾く。それに押されて、ロシアと直接交戦しないというNATO軍の抑制が効かなくなるだろう。「ロシアによって始められた戦争であり、責任のすべてはロシアにある」と全面戦争に突き進む。無論、それでも核戦争は避ける。核戦争は、モスクワもワシントンも壊滅させるので、プーチンもバイデンも、その側近も、政権を支える連中も、自分だけは死にたくないからである。
 しかし、これは、世界大戦ではない。第1次も第2次も、アジア・アフリカも戦場になったが、この戦争の戦場は欧州と北米だけである。NATO対ロシアの戦争なのである。それは、中国、インド、南ア、ASEANの多くの国、アフリカ、南米などの国々が、西側に完全には同調せず、中立を保つ理由でもある。アメリカのバイデンは、関ヶ原の合戦の家康のように、東軍につくか、西軍につくか、返答しろと迫るが、アジア・アフリカ・南米の諸国は、内心は、「関わりたくない」に違いない。世界経済は混乱し、経済的困窮は避けられないが、今まで何度も世界中で戦争をひき起こしてきた欧米の、「世界戦争」に巻き込まれるよりはマシなのである。
 

 
 
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