タリバンの広報官、ザビフラ・ムジャヒド(BBC)
深刻な危機
8月15日、アフガニスタンでタリバンがカブールを掌握してから1年になる。多くの西側メディアは、この1年の変化を記事にしている。
ニューヨーク・タイムズ「Afghanistan, One Year After the Fall」
CNN「She fled Afghanistan with her law degree sewn into her dress. Many of her colleagues were left behind」
BBC「Afghanistan: What's changed a year after Taliban return」
等である。
これらの記事で、共通して強調されているのが、第一に、タリバンによる女性の人権抑圧、第二に、アフガニスタン国民の困窮である。
第一については、女子は、未だに初等教育は許可されているが、中等教育以上は許可されていないこと、女性の労働参加率が2021年に、22%から15%に低下したこと(世界銀行による調査)など、第二ついては、食糧不足は増大し、人口の約半数にあたる1970万人が深刻な飢餓に直面している (国連WFP)ということなどが象徴している。
要するに、米軍を中心とする外国軍の撤退後、タリバンによる統治は、うまくいっておらず、危機はより増しているという主旨の記事を主要メディアは載せているのである。
タリバンだけの責任ではない
確かに、危機はより増しているというのは、本当のことだろう。しかし、それをすべてタリバンの責任だとするのは、適切ではない。アフガニスタンほど、大国の介入を受けた国はないからだ。古くから「文明の十字路」と言われるほど諸民族が興亡し、18世紀に独立したが、英国・ロシアの勢力争いに挟まれ、19世紀には英国の保護領にもなっている。20世紀になって独立し、ソ連の影響から共産主義政権が発足するとイスラム勢力と衝突し、ソ連軍が介入した。ソ連攻撃のためアメリカが、イスラム勢力を支援し、それが肥大化、過激化すると、今度はイスラム勢力とアメリカの闘いに替わっていったのである。そこで伸長したのが、タリバンであり、その政権を攻撃し破壊したのがアメリカである。アメリカは親米政権をつくったが、結局アメリカはタリバンに勝てず、西側リベラル政策を実行しながらも、腐敗にまみれていた親米政権が崩壊したのである。
ソ連が軍事介入しなければ、イスラム勢力は肥大化することはなかっただろうし、アメリカが介入しなければ、親米政権はあり得ず、イスラム勢力が反米一色に染まり、タリバンに結集することもなかっただろう。アフガニスタン人がソ連軍に殺されれば、ソ連を憎み、アメリカ軍に殺されれば、アメリカを憎むのは、自然だからである。特に、アメリカに対する憎悪は、アメリカ的なるのもの反対であるイスラム復古主義・原理主義を助長するのであり、女性に対するイスラム原理主義的な扱いを拭うことを難しくしている。
経済問題では、親米政権の時代も、アフガニスタンは西側の援助なしでは、経済は成り立たなかった。それが、タリバン政権後は、その援助が凍結されているのである。産業がないに等しいアフガニスタンでは、経済的自立は極めて困難であるのは、誰の目にも明らかだろう。
例を挙げれば、アフガニスタンはアメリカ、ドイツ、UAE,スイスなどに、90億ドルの外貨準備高があった(AP通信)が、アメリカはそれを凍結し、それによって銀行システムは稼働できなくなった。当然、食料や燃料の価格は高騰し、経済は破綻状態になったのである。
内戦の終結による希望
アフガニスタン人だけが、アフガニスタンのことを決める
しかしそれでも、内戦は終結し、復興への道筋は見えてきている。何にもまして、反タリバンイスラム系勢力は壊滅していないが、戦争による死傷者は劇的に減ったのである。
年別別民間人死傷者数。2021年8月以降の死傷者の大半は、IS-Kイスラム国ホラサングループによる犯行(BBC UN Assistance Mission in Afghanistanより)
また、国連WFP、多くのNPOなどの支援が続々と開始されている。
アフガニスタンは、ようやく外国の介入から脱し、タリバンであれ何であれ、今が最悪だとして、アフガニスタン人自らが、この国がどうなるかを決める時代がやっと訪れたのである。
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