『島國知音』が台湾で出版
台湾と沖縄を愛した米人カー先生の思い出
▲今年8月に台湾で出版された『島國知音』(左)と沖縄の新星出版で自費出版された本
中国語版もトゥー博士が編集
9月の始め、書籍小包が台湾から届きました。差出人は台北の前衛出版社。開封すると、『島國知音―台湾問題専家 葛超志其人其事』というタイトルの一冊の本が。杜祖健・主編、蔡岳熹・訳とありました。
杜祖健ことアンソニー・トゥー博士から直接聞いていた本が出版されたのでしょうか。表紙にはまた、「ジョージ・H・カー先生の思い出 沖縄と台湾を愛した」と日本語で小さく記されています。やはり、そうでした。「葛超志」とは、ジョージ・H・カーの台湾名です。
4年前の2018年に沖縄の新星出版から博士と比嘉辰雄氏(琉球大学名誉教授)が共編著者となって『沖縄と台湾を愛したジョージ・H・カー先生の思い出』を自費出版されました。本ブログ編集人宛に送られてきたのは、その中国語版です。
さて、ジョージ・H・カーとは、一体どういう人物なのか。
ジョージ・ヘンリー・カー George Henry Kerr(1911年11月7日 - 1992年8月27日)
第二次世界大戦中のアメリカ合衆国の外交官で、著作家、大学教授も務め、台湾や琉球・沖縄の歴史研究を行った。また彼が記録した、日本に統治されていた1930年代から1940年代までの台湾と戦後沖縄の経済、政治的出来事に関する資料がフーヴァー戦争・革命・平和研究所などに保管されている。
経歴
カーは長老派教会の牧師の息子として、1911年11月7日にペンシルベニア州で誕生した。1935年から1937年の2年間日本に留学し、1937年から1940年まで台湾・台北で英語教師を務めた。
アメリカ海軍予備役で大尉に任命されたカーは、太平洋戦争中に台湾に関する専門家として、また軍政学校で指導を行った。1942年から1943年に彼はアメリカ陸軍省で台湾における解説顧問を、1944年から1946年には、ニューヨークのコロンビア大学内の海軍軍政学校で教鞭をとった。
戦争終結直後の1945年に台湾に戻り、海軍駐在武官の補佐官として、陳儀を台湾代表にして同年10月25日に日本と降伏文書調印を交わさせた。後に彼は在中アメリカ大使館の外交官に任命され、アメリカ国務省外交局に勤め、台湾副領事となった。1947年に発生した二・二八事件の目撃記録を残した。ある評論家は、カーは積極的にこの事件に介入していたと主張している。
カーは1947年から1949年にワシントン州立のワシントン大学で、1949年から1950年までスタンフォード大学とカリフォルニア大学バークレー校で日本史講師を務めた。その後5年間はフーヴァー戦争・革命・平和研究所所属の研究員に就任した。彼に関する資料は沖縄県公文書館と琉球大学附属図書館、台北の2.28記念館などに公開されている。1992年8月27日、カーはハワイ州ホノルルで80歳で死去した。
研究
カーは日本(特に沖縄)、台湾の歴史研究に造詣が深い人物として知られ、それに関係する著書を多数執筆している。
琉球・沖縄に関する歴史研究
1950年代初め、カーは念願の沖縄訪問を実現し、琉球住民独自のアイデンティティーを呼び起こす目的で、米軍の委託により沖縄の歴史に関する著書を執筆した。有能な研究者・翻訳者らは沖縄に関する歴史的な資料や遺跡を求めて、日本中を捜し回った。そして彼は1953年に『Okinawa: Kingdom and Province before 1945 』(琉球 -王国と1945年以前の沖縄- )、1956年には日本語で書かれた『琉球の歴史』を出版した。その間にカーはさらに沖縄の歴史研究に没頭し、前述の2著書の補足版も書き上げた。『Okinawa, the History of an Island People 』(沖縄 -島民の歴史- )には、沖縄の伝説上の過去から沖縄戦まで扱った542ページに及ぶ著書である。カーが亡くなるまでの11年に、1万3千冊の売り上げを達成した。その後は絶版していたが、2000年に再版されている。
カーは喪失した琉球の歴史的な遺構を非常に気にかけ、1960年から1963年の間に沖縄の重要文化財を調査した。宮古諸島や八重山諸島にも出向け、先島諸島を中心とした沖縄と中国との経済的影響に関する本を起草したが、出版しなかった。
台湾に関する歴史研究
彼が著した台湾に関する書籍は多数に及ぶ。カーは中国からの台湾独立運動を擁護した為、蔣介石や毛沢東から敵視され、特に蔣介石からは非難され、結果的にスタンフォード大学での職を失った。彼は影響力のある政治解説者、作家であったが、彼は中国との対抗姿勢を明白にしていた為、中国史研究者としての評判は多くの中国学者から疑問が投げかけられている。
1965年の『Formosa Betrayed 』(裏切られた台湾)は日本の植民地支配から中国国民党政権への転換に関する、最も有名な書物の一つである、カーはアメリカ外交局時代から国民党支配の台湾におけるその後の成り行きを見届けていた。『裏切られた台湾』は、国民党支持者から厳しく非難され、台湾独立を巡って論争が起こった。当著は1976年にアメリカで再発行され、さらに1992年には第2版が台湾で発売された。(Wikipedia)
2019年4月6日付の本ブログでも、カー氏のことについてトゥー博士に沖縄タイムスがインタビューしたことを紹介しました。カー氏の経歴などを詳細に触れていますので、以下の記事もご覧ください。
●アンソニー・トゥー(台湾名=杜祖健)氏に沖縄タイムスがインタビュー
https://blog.goo.ne.jp/46141105315genkigooid/e/c572273728310a6ebf3ad3018eb26041
蒋介石が嫌ったアメリカ人
では、『島國知音』の裏表紙を見てみましょう。キャッチフレーズとともに、カー氏の紹介です。
《台湾島の海洋史の概念を提唱した最初の人物だった。
知識と歴史を駆使して、その時代の政治的空気に立ち向かったアメリカの学者!
ジョージ・H・カーは、台湾に深い愛情を持つアメリカの学者であり、米国防総省の「X島プロジェクト」の主要な「台湾専門家」である。戦前は台北高等学校などで教鞭を執り、戦後は駐台湾米国副領事に異動。個人的な経験に基づいた著『裏切られた台湾(Formosa Betrayed)』を執筆した。二二八事件を正確に記録し、ハイパーインフレの経過も明らかにする。また1941年から1960年まで戦利品と見なされていた台湾が、米国と蒋介石によっていかに秘密裏に操作され、裏切られたかを指摘したのである。
しかし、あまり知られていないのは、カーがそのキャリアの中で沖縄に関する研究と関心を持ち、専門的な出版物で沖縄の歴史を体系的かつ総合的に紹介した最初の人物だったということだ。
この本は、台湾初の医学博士である杜聡明の子息、杜祖健博士によって編集された。台湾と沖縄から選ばれた執筆陣がカー氏への回想と氏を紹介したもので、カーの人生を深く理解できるの唯一の書籍である》
日本語版との違いは、前半に台湾関係の文章を載せている点です。中国語版は次の13章から構成されています。
第1章 海洋史観は台湾独立歴史観/蘇瑤崇
第2章 米国の「台湾学」から見た葛超志(ジョージ・カー)の貢献/林炳炎
第3章 ジョージ・カーと二二八の歴史資料/蕭成美
第4章 「裏切られた台湾」誕生の秘密/杜武豪
第5章 ジョージ・カー先生との出会いと交流/杜祖健
第6章 戦前の東京と台湾の経験/吉原ゆかり
第7章 日米文化交流への貢献/吉原ゆかり
第8章 私の人生の導師―ジョージ・H・カー/川平朝清
第9章 沖縄への思い/瀬名波栄喜
第10章 私のルームメイト、ジョージ・カー先生/比嘉幹郎
第11章 ジョージ・カー先生との文通のきっかけ/山口栄鐡
第12章 東アジア史学者ジョージ・カーの二つの物語/大城英一
第13章 比嘉達夫氏との交流/比嘉登美子
追記 ジョージ・カー先生に感謝/吉原ゆかり
付録 ジョージ・カー氏の年表/蔡岳熹
台湾でも大反響
トゥー博士の序文によると、台湾側の執筆者から提供された文章の内容を補足および修正し、トゥー博士が個人的に担当した原稿を書き直しました。さらに筑波大学の吉原ゆかり氏が中国語版に2つの新しい文章を寄稿したということです。序文には、次のような記述も。
《比嘉達夫教授と私は2018年に『沖縄と台湾を愛したジョージ・H・カー先生の思い出」を共著編で沖縄の新星出版社から自費出版した。この本は沖縄と台湾での限定出版だったが、大変好評を博しました。
この度、前衛出版社から中国語に翻訳する形で再刊行のされ、2つの文章が追加されたことを光栄に存じます。
台湾の著者から提供された記事の内容を補足および修正し、私が個人的に担当した原稿を書き直しました。さらに興味深いことに、筑波大学の吉原ゆかり氏が中国語版に2つの新しい文章を寄稿しました。ジョージ・カー氏(台湾人はKeerをカール先生と呼び、日本人は彼をカー先生と呼んでいます)の著「裏切られた台湾」の中国語訳は、数年前に台湾で出版されました(前衛出版社)。同書の日本語訳は、2006年に蘇瑤崇博士によって翻訳され、日本で出版されました》
残念ながら、その蘇博士は今年1月6日に亡くなられています。また、『沖縄と台湾を愛したジョージ・H・カー先生の思い出』の共編著者である比嘉達夫氏も本が出版される2年前の2016年に他界されました。
同書を推薦する著名人も少なくありません。
・王立(ブログとFacebookファンクラブの「王立第二次戦争研究所」のモデレーター)
・矢板昭夫(産経新聞台北支局長)
・朱家煌(台湾退役軍人文化協会会長)
・陳儀深(国立歴史博物館館長)
・蔡錦堂(国立台湾師範大学台湾史研究所元教授)
・簡余晏(元台北市議会議員、ラジオ番組「寶島強強滾」司会者)
・蘇紫雲(国防大学校国防戦略・資源研究所所長)
いずれにしても、同書は台湾と沖縄を愛したジョージ・H・カーという人物を知るには、格好の書であることは間違いないでしょう。(本ブログ編集人・山本徳造)
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『島國知音:台灣問題專家葛超智其人其事 沖縄と台湾を愛した ジョージ・H・カー先生の思い出』(前衛)[電子書籍版]
杜祖健
1,040円(税込)