【連載エッセー】岩崎邦子の「日々悠々」(80)
「あーちゃん、作ったよ」
と、アメリカの孫娘からマスク姿の動画がLINEで送られてきた。孫は私のことを「あーちゃん」と呼ぶ。そのマスクだが、黒地に可愛い柄があり、形も良く、彼女の顔にとても似合っている。私の娘(母親)のは、白地に小花模様のものだ。
「恰好良いねぇ! 負けたよ~」「あーちゃんも作ったんだけどね」
そう返事をし、自撮りが出来ないまま、手作りしたマスクだけの写真を送る。でも、これではマスク姿の様子が分からないと思い、夫が着用している写真も送ってみた。夫の分は吸湿性と通気性に富む白木綿の晒(さらし)で、私の分は白地(木綿の薄手)に小さい柄がいろいろ入ったものだ。
ところで、私がマスクを手作りしたきっかけは……。
都知事の小池百合子さんがコロナ感染に関しての自粛要請に熱を込めて発信、毎日のようテレビに映し出されているが、彼女のマスク姿には変化があって、思わず見入ってしまった。それはどなたかに作ってもらっている特製のようだ。日替わりで柄や色、大きさ、形なども微妙に変化がある。
「あっ、私も似たような生地を持っているので、作ってみよう」
そう思ったある日、実行に移すことに。生地が入ったプラスチックケースの中には、誰かにもらったのだが、いろいろな色の髪をしばるゴム紐まであるではないか。こうして、少しゆとりのある大きさで、恰好よりも実用的ではあるマスクが出来上がった。そのマスクの写真を見た孫は、
「おーちゃん(夫)のだけ、白なんだ」「あーちゃんのはプロだよ」
などと言ってくれた。
その後の彼女たちの生活の様子だが、以前に聞いていたこととあまり変わらないようである。ニュージャージー州では、以前は買い物の時のマスク着用の人は見かけなかったが、最近はマスク姿の人が多くなったという。週一度くらいマーケットに行っているらしいが、混乱はなさそうだ。
そういえば、トランプさん始めアメリカの政治家たちのマスク姿を見たっけ? ニューヨーク州での感染者の多さに歯止めをかけたいはずの、州知事のクオモさんのマスク姿も、見落としているのかな?医療崩壊にならないよう全力を尽くすための、数々の政策などを語っていたことの方が印象に残っているが……。
日本では、マスク不足を解消するための「アベノマスク」の評判の悪いこと! 妊婦さん用のマスクが汚れているとかで、問題山積のようだが、テレビに映る日本の政治家などは、ほぼ全員がマスクをしている。安倍首相もマスクを見るが、「あらら、小さいね。ひょっとして子供用なの?」とさえ、思ってしまう。友達からLINEがきた。「給食マスクだね」と、嘲笑している人がいるとか。
小池都知事のマスクは、逆にかなり大きめだ。が、それを指摘されて、彼女は「私の顔が小さいからよ」と言ったらしい。こんなことを、暇に任せてあれこれと言ってみたくなるのは、世の習いというものだ。
マスク不足とその争奪戦はまだまだ話題になっている。消毒用アルコールも、ドラックストアなどの店では、品切れが当たり前。その弱みに付け込み、畑違いの店が法外な値段でマスクを売る。また、全くの異業種がマスクの製造に参入したり。
そんな中、ネットでは手作りマスクの配信を沢山見かける。大判のハンカチやバンダナ、あるいは手ぬぐいなどを、器用に折りたたんだものから、「100均」で売っているような可愛い布で作ったご自慢ものも。縫い物が出来ない人向けには、コーヒーペーパーやキッチンペーパーで作っているから驚く。我が家では買い置きしてあったマスクや、何回かは洗って使えるマスクも品切れになった。いざ手作りをと思い立ったのだが、このように、頭の良い方たちのアイデアが次々とあることに驚くことしきり。
ところで、マスクをする理由は何かというと、風邪気味の時に咳やクシャミの時に飛沫を飛ばさないためである。風邪やインフルエンザに罹らないために、マスクをつけてもその効果は限定的であることも、知っているべきだ。
マスク不足の騒ぎは、どこかに「コロナに感染したくない」という、恐怖心の方が強い気がする。マスクは自分たち自身が感染を完全に予防する手立てではない。しかし、不用意に口や鼻を手で触ることは防げる。自粛生活の日々がつづく。マスク着用は、心の安定を保つ必需品でもあるようだ
女優の岡江久美子さんの突然の訃報には、ただただ驚きでしかなかった。普段から誰にも明るく振る舞い、笑顔が素敵な人だ。健康には人一倍気を遣い、運動をすることや、免疫力を高める食事のことにも気を配り、マスクを付けるという対策もされての生活だったという。家族との残酷な別れを強いるコロナ感染、その壮絶な恐怖を思い知ったのは、私だけでなないだろう。獏さんに抱かれて遺骨になってしまった久美子さん。涙が止まらない。合掌。