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差別と正義 岩崎邦子の「日々悠々」(86)

2020-06-12 06:48:36 | 【連載エッセー】岩崎邦子の「日々悠々」

【連載エッセー】岩崎邦子の「日々悠々」(86

差別と正義 

 

 新型コロナ感染に対する自粛生活に明け暮れていた5月のことだ。アメリカでも新型コロナの恐怖に脅かされているとき、黒人男性が白人警察官に首を押さえつけられて亡くなった。このニュース映像を見ながら、私は思った。以前にも似たような事態が起きていたなぁ。

 そんな折に、アメリカにいる孫娘(日本の大学生だが、春休みに帰国したまま、オンラインで授業を受けている)のインスタグラムで、日本の若者もこの事件、「人種差別に無関心ではダメ」という、メッセージを書いているのを見た。

 私も無関心だったとは言わないが、この事件の詳細などは、あまり知らないことに、ハッとした。日本人も、アメリカでは黄色人種として、今回の事件のような殺されるほどの差別ではないが、確かに差別を受けたではないか。

 一つの例を挙げよう。娘がアメリカ留学を決心して渡米した。大学での最初の1年間は学生寮に住むことに。その後は友人と一緒のアパート暮らしとなった。でも、居住地に関しては、「何よりも安全なところを」と願っても、日本人ということがネックになっていた。

 地域も部屋のレベルも今一のところしかない。水回りの他に様々な故障が起きても、その修理屋が来る時間などの約束事が、全くあてに出来ない。必需品の車であったが、駐車場での車上荒らしに遭うという怖い事態も起きた。その後、白人の友人と部屋をシェアすることで、やっと安全な居場所を確保できたが……。

 さて、亡くなった黒人男性が白人警官から受けた事件を、振り返ってみよう。アメリカ中西部のミネソタ州ミネアポリス近郊で5月25日、黒人のジョージ・フロイドさんに偽ドル札使用容疑がかけられ、4人の警察官に捕らえられた。

 一人の白人警官が膝で身動きできないよう、フロイドさんの首を抑えつける。フロイドさんが「息ができない」と訴えるも、警官は平然と無視を決め込む。結局、フロイドさんは亡くなった。窒息死である。何と8分46秒も首を押さえられていたのだから無理もない。その動画が、SNSによって拡散したことから、全米で激しい抗議活動が起こった。

 警察官によって黒人が不当に殺される事件は、過去にも何度も起きている。もっとも有名なのが、1992年4月末から5月頭にかけて起きた「ロス暴動」だろう。前年3月にロサンゼルスで黒人男性ロドニー・キングがスピード違反で停止を命じられたが、逃亡して現行犯逮捕されたのが発端だった。

 警官の指示に従わなかったとして、ロス市警の警察官が集団で激しい暴行を加える。この事件で4人の警官(白人3人とヒスパニック系1人)が起訴されたが、裁判で無罪の判決が。

 この評決に怒った黒人たちが暴徒化し、ロサンゼルス市街で暴動を起こして商店を襲い始めた。放火や略奪は、韓国人経営の商店にも波及。やがてロサンゼルスだけではなく、ラスベガス、アトランタ、サンフランシスコなど全米各地に拡大する。

 フロイドさんの事件後、抗議活動も最初は平和的であったが、ロス暴動のように、やがて暴徒化し、放火や略奪などに発展した。貧困や職が得られないといった経済格差が大きな要因になっているという。

 孫娘は暴徒化する抗議活動には断固反対している。インスタグラムでは、憂いを持って日本語の書き込みが、事件の直後から毎日続けられるようになった。順次、消えて行ってしまうが、思い出す限りのことを書いてみたい。

 

  • 遠くの差別も近くの差別も許されない
  • 日本人も東洋人も差別を受けるが、殺されるまでには至らない 
  • 当事者意識をしっかり持ち、黙らないこと
  • 「差別はダメだ」と言い続けなければいけない社会に、私たちは生きている
  • 「中立」は存在しない
  • 日本には関係ないと言っている人は、全員この事件を見て、知って欲しい 
  • 私たちの生きたい社会をつくろう
  • 無関心と沈黙は差別に加担していると同じ 
  • 力に頼らない対話を、日本でも身近に 
  • もう少し落ち着いて、暴力を使わず、訴えれば理解してもらえるのに

 

 そして一つ「Nワードはダメ」というのがあった。私には理解できないので、調べてみた。

 英語圏で公の場で用いることがはばかられるN(nigger)で始まるスラング。黒人に対する差別表現で、ラッパーの楽曲の歌詞や曲名にも含まれるが、「リスペクトを持っている」の理由で、日本の若い人たちが簡単に口にしているらしい。

 こうした書き込みがあったある日、孫娘の妹(アメリカの大学生)が、住まいの近くのプリンストン大学で行われた抗議デモに参加している画像を目にした。長女が撮ったものらしいが、差別に対する抗議をしながらも、参加者は平和行進のように歩いていた。

 6月に入った週末、ホワイトハウス近くの通りでは、100万人規模の抗議デモとなった。ニュース記事には、「時折、地鳴りのような、大きな叫び声が響き渡っていた」とある。トランプ大統領は、略奪に対しはて軍隊出動も辞さないようだが、秋の大統領選挙に影響が出ることもあり、次期政権のことも考慮されているだろう。

 こうした抗議デモは全米の主な都市で、同じ趣旨のデモが相次いでいる。イギリスやフランス、世界の各地に抗議デモは拡散し、参加者は「人種差別との戦いだ。今、戦わないといけない」のスローガンの元に活発化している。

「人種差別、特に黒人に対する偏見が、私の中には全くないのだろうか?」

 と、自分に問うてみた。彼らには頭脳明晰な人、運動能力が抜群の人、リズム感が体に染みついた音楽関係に秀でた人が多数いる。が、身近に生活していた時は、実際に目の前で彼らに遭遇すれば、その体格や風貌の威圧感に圧倒されて怖かった。それが正直な気持ちでもある。

 彼らが店のセキュリティに雇われて、窃盗の手助けをするケースも多々聞いた。人種差別をされている多数の黒人は真っ当な職業にありつけないことや貧富の差が、犯罪に加担する要因にもなっている。

 人種や職業の貴賤で、犯罪の有無は測れない。偉いと言わる人の中にも、凶悪者はいるだろう。「人が人を差別する」ことが、身近なところにも起きている。

「正しく評価して、平等に扱って欲しい」

 と願うのは、何も黒人だけではない。誰もが願うことなのだが……。

 


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