(画像 Fostex社webページより)
皆さん、こんにちは。
Fostexから突如、新製品の発表がありましたね!
その名は
「FE168SS-HP」
マニア好みの超強力な磁石を搭載し、
名機といわれるFE168ESを連想させるHPコーンが印象的ですね!
<ユニットの位置づけ>
さて、このユニットがどういう位置づけにあるか考えてみましょう。
まず、近年はFE166NV(左)やFE168NS(右)といった、
サブコーンが付いているタイプを主軸に商品展開をしていました。
今回、FE168SS-HPに搭載されたのはそれらとは異なり、
特徴的な凹凸のあるHPコーンです。
歴史的には、ESシリーズ(限定)、EΣシリーズ、ES-Rシリーズ(限定)に搭載されてきた振動板です。
※ES-Rは、13cmと20cm口径の二種類のみ販売。
FE168EΣ
私も過去に、このFE168EΣを愛用しており、
その音質的特徴は下記の3つに集約されると感じています。
・低歪&高透明
・突き抜けるレスポンス
・力感のある低音
FE168SS-HPの技術的な詳細は公式webページに載っていますが、
私個人の経験からは、上記のような音質を期待したい所です。
中には2001年発売のFE168ESと似たような外観であることに対して、技術の停滞を危惧する意見もあるかと思います。
しかし、このオーディオ業界において優れた技術を伝承することがいかに難しいかを考えると、紙コーンフルレンジの技術を腐らせることなく、2021年に新製品として世に出すことができたFostexの技術力を、私は高く評価したいと思います。
FE168EΣを使用した作品 [S-004](2007年頃 製作)
※なお、FE168NSに代表されるサブコーン付きのタイプは、少し聴きやすくて晴れやかな感じ(温度感高め)な印象です。
<ユニット特性・推奨箱設計の吟味>
それでは、スピーカーユニットの特性を見ていきましょう。
FE168SS-HP 取扱説明書 Specification Sheetより
お世辞にもフラットとは言い難い特性ですが、
軽量紙コーンのフルレンジに、フラットな特性を望むのは野暮なものです。
【周波数特性と引き換えに失うもの】を求めて作り込みが行われるのが、Fostexの紙コーンの魅力であって、
むしろ、特性に若干の暴れが残っていることこそが「しっかりと期待に応えたことの証」だと言えるはずです。
さて、フルレンジの特性データから聴感バランスを推測するとき、
私は軸外特性(30°や60°)を重視して確認します。
実際のリスニングでは軸上(0°)だけでなく、軸外の放射音も含めて(むしろ主成分として)聴いているため、軸外特性のほうが聴感とマッチした傾向が現れることが多々あるためです。
さて、FE168SS-HPの軸外特性はどうでしょうか。
30°特性を見ると、2kHzのピークの後は、12kHz付近までフラットに伸びていることが分かります。
2kHzのピークは、ボーカルの明瞭さにつながる要素と言えそうです。
相対的に3~5kHzがディップになるので、聴き心地の良さも(多少は!)期待できるかもしれません。
12kHz以上の帯域は、ストンと音圧が下がりますが、
60°特性では音圧が出ており、ナチュラルで無理のない高域の伸びがあると思われます。
少し気になるのは、7kHz付近に0°と60°特性の双方にピークがあること。
中高域はエンクロージュアの回折効果が大きく影響される帯域で、実際の作例で目立つかは分かりませんが、
必要に応じてノッチフィルターを軽く(あくまでも軽く!)加えると良いかもしれません。
FE168SS-HP 公式webページより
ユニットは、奥行が105mmと非常に大きくなっています。
箱設計では注意が必要ですね。
FE168SS-HP 取扱説明書 Application Sheetより
標準箱は、テーパーを多用したバックロードホーン型。
18mm厚の3×6板を4枚使用する設計です。片chで約40kgの本格的な造りですね。
テーパーを使ったバックロードホーンは、概して大らかな音色になることが多く、
さらに、空気室の奥行き、ホーンの広がり率が大きく設定され、キレ味より量感重視の低音が想像されます。
長岡先生のD-37と比べても、聴きやすい音色になるのではないでしょうか。
逆に言えば、直管で構成されたバックロードホーンは、40Hz~60Hzの最低域の伸びに優れる傾向があるため、
A級外盤のような鮮烈なソフトを聴く場合は、D-37のような構造に理があるかもしれません。
ユニットは強烈ですが、エンクロージュアは万人向けの設計としてバランスを取ったのかな?というのが私の正直な感想です。
もし20~50Hzの最低域が必要であれば、俊敏な低音が特徴のサブウーハー「AudiFill SW-1」を組み合わせるのが良いかもしれませんね。
↑宣伝させて頂きます(笑)
なお、ローエンドともいえる最低域を伸ばす方法として、バックロードホーンの開口部にダクトを装着した「バックロードバスレフ(BHBS)」という方式があります。 私も何本か作製し、30〜50Hzを再生できる優れた方式だと認識していますが、低音の「質感」「歯切れの良さ」という点では従来型のバックロードホーンが勝っていると感じています。
バックロードホーンは大きな開口部をもち、空気とのインピーダンスマッチングを改善する(空振りを防ぐ)ことができます。 これが、バックロードホーンが「歯切れのいい低音」と言われる理由なのです。 そしてこの効果は、開口部にダクトを装着し、断面積を絞ったバックロードバスレフでは得られないのです。
この両者の音色の違いは、パイプオルガンが得意なバックロードバスレフ、ウッドベースや和太鼓が得意なバックロードホーン、と言えば分かりやすいでしょうか?
バックロードバスレフは、音工房Zやkenbe氏が積極的に開発を進めているので、興味があれば参考にしてみると良いと思います。
<バックロードホーン設計図面>
さて、取説掲載のBHもかなりの出来栄えなのですが、
以下のコンセプトで、私のほうでも設計をしてみました。
・コンパクト&充実の低音
・響きの良い材料「フィンランドバーチ」を使用
・多様なユニットへの対応
<コンパクト&充実の低音>
まず、取説掲載の標準箱は素晴らしい造りなのですが
奥行450mm、横幅322mmは、狭い部屋ではちょっと扱いに困る場面もありそうです。
そこで本設計では、奥行432mm(天板414mm)、横幅286mmに小型化。
実際には、エンクロージュアの角を45°にカットするため、10%以上の小型化ができたように見えるはずです。
重要なのは、内部の音道を小さくしないこと。
小型化というと内部の音道を削りたくなりますが、この容量を1割でも削ると明らかに低音が減ります。
特に、Fostexの標準箱は長年の経験と試行錯誤で作られており、かなり最適化が進んでいると思われます。 今回の設計では、標準箱の設計を最大限尊重し、細かい所を調整してコンパクト化を進めました。
板厚を削減したところは、金属材料を使って補強することを予定しています。 この方法は、板厚で振動を押さえこむより、透明度の高い音色を狙うことができると感じています。
<響きの良い材料「フィンランドバーチ」を使用>
ラワン合板やシナ合板は、悪くない材料なのですが、
音の品位・純度としては少し物足りないものです。
今回は、音質・加工性・価格の3拍子が揃った「フィンランドバーチ合板」を使います。 フィンランドバーチ合板は、2400×1200mm、もしくは1200mm×1200mmのサイズが市場に出回っており、今回の図面もこの寸法に合わせて作成しました。
なお、無垢材や集成材も良いのですが、あれは音質に特化した選択であって(音の良い樹種の)加工難易度や価格を考慮すると、DIYには勧めにくいです。。。
<多様なユニットへの対応>
FE168SS-HRは、歴代最強クラスの磁気回路をもっていますが、
諸事情によりFE168NS、FE166NVなどの他のユニットを使用する機会もあると思います。
ユニットを変更した場合、低音の量感が変化(相対的に中域~中高域の張り出し感が変化)してしまうので、何かしらの方法での調整が必要です。
本作は、背面に直径100mmの穴を設け、そこから内部の吸音材を出し入れできるようにしました。
余り話題にならないのですが、バックロードホーンの吸音材の急所はホーン音道の中央にあるため、こうした調整穴がないと完成後は手出しできなくなってしまうのです。
ちなみに、一般的に知られている「ホーン開口部」や「スロート部分」への吸音材挿入は、重低音の音圧が下がりやすいので(積極的には)お勧めできません。
このように、今回は3つのコンセプトで設計図面 [S-076]を作ってみました。
Fostex標準箱の方に好印象を抱く方も多いかもしれませんが、私欲に任せて作った設計図なのでご勘弁を。
まだザグリとか、細かい所のフォローができていない図面なのですが、まずは公開させて頂きます。 私も春~夏にかけて頑張って作ってみようと思いますので、皆さまの何かしらの参考になりましたら幸いです。
<関連記事>
2021年05月03日「[S-076] FE168SS-HPを使った新型バックロードの設計コンセプト」
2021年05月01日「バックロードホーン向け16cmフルレンジ、試聴感想」
2021年03月27日「FE168SS-HPの試聴動画を作成しました。」
皆さん、こんにちは。
Fostexから突如、新製品の発表がありましたね!
その名は
「FE168SS-HP」
マニア好みの超強力な磁石を搭載し、
名機といわれるFE168ESを連想させるHPコーンが印象的ですね!
<ユニットの位置づけ>
さて、このユニットがどういう位置づけにあるか考えてみましょう。
まず、近年はFE166NV(左)やFE168NS(右)といった、
サブコーンが付いているタイプを主軸に商品展開をしていました。
今回、FE168SS-HPに搭載されたのはそれらとは異なり、
特徴的な凹凸のあるHPコーンです。
歴史的には、ESシリーズ(限定)、EΣシリーズ、ES-Rシリーズ(限定)に搭載されてきた振動板です。
※ES-Rは、13cmと20cm口径の二種類のみ販売。
FE168EΣ
私も過去に、このFE168EΣを愛用しており、
その音質的特徴は下記の3つに集約されると感じています。
・低歪&高透明
・突き抜けるレスポンス
・力感のある低音
FE168SS-HPの技術的な詳細は公式webページに載っていますが、
私個人の経験からは、上記のような音質を期待したい所です。
中には2001年発売のFE168ESと似たような外観であることに対して、技術の停滞を危惧する意見もあるかと思います。
しかし、このオーディオ業界において優れた技術を伝承することがいかに難しいかを考えると、紙コーンフルレンジの技術を腐らせることなく、2021年に新製品として世に出すことができたFostexの技術力を、私は高く評価したいと思います。
FE168EΣを使用した作品 [S-004](2007年頃 製作)
※なお、FE168NSに代表されるサブコーン付きのタイプは、少し聴きやすくて晴れやかな感じ(温度感高め)な印象です。
<ユニット特性・推奨箱設計の吟味>
それでは、スピーカーユニットの特性を見ていきましょう。
FE168SS-HP 取扱説明書 Specification Sheetより
お世辞にもフラットとは言い難い特性ですが、
軽量紙コーンのフルレンジに、フラットな特性を望むのは野暮なものです。
【周波数特性と引き換えに失うもの】を求めて作り込みが行われるのが、Fostexの紙コーンの魅力であって、
むしろ、特性に若干の暴れが残っていることこそが「しっかりと期待に応えたことの証」だと言えるはずです。
さて、フルレンジの特性データから聴感バランスを推測するとき、
私は軸外特性(30°や60°)を重視して確認します。
実際のリスニングでは軸上(0°)だけでなく、軸外の放射音も含めて(むしろ主成分として)聴いているため、軸外特性のほうが聴感とマッチした傾向が現れることが多々あるためです。
さて、FE168SS-HPの軸外特性はどうでしょうか。
30°特性を見ると、2kHzのピークの後は、12kHz付近までフラットに伸びていることが分かります。
2kHzのピークは、ボーカルの明瞭さにつながる要素と言えそうです。
相対的に3~5kHzがディップになるので、聴き心地の良さも(多少は!)期待できるかもしれません。
12kHz以上の帯域は、ストンと音圧が下がりますが、
60°特性では音圧が出ており、ナチュラルで無理のない高域の伸びがあると思われます。
少し気になるのは、7kHz付近に0°と60°特性の双方にピークがあること。
中高域はエンクロージュアの回折効果が大きく影響される帯域で、実際の作例で目立つかは分かりませんが、
必要に応じてノッチフィルターを軽く(あくまでも軽く!)加えると良いかもしれません。
FE168SS-HP 公式webページより
ユニットは、奥行が105mmと非常に大きくなっています。
箱設計では注意が必要ですね。
FE168SS-HP 取扱説明書 Application Sheetより
標準箱は、テーパーを多用したバックロードホーン型。
18mm厚の3×6板を4枚使用する設計です。片chで約40kgの本格的な造りですね。
テーパーを使ったバックロードホーンは、概して大らかな音色になることが多く、
さらに、空気室の奥行き、ホーンの広がり率が大きく設定され、キレ味より量感重視の低音が想像されます。
長岡先生のD-37と比べても、聴きやすい音色になるのではないでしょうか。
逆に言えば、直管で構成されたバックロードホーンは、40Hz~60Hzの最低域の伸びに優れる傾向があるため、
A級外盤のような鮮烈なソフトを聴く場合は、D-37のような構造に理があるかもしれません。
ユニットは強烈ですが、エンクロージュアは万人向けの設計としてバランスを取ったのかな?というのが私の正直な感想です。
もし20~50Hzの最低域が必要であれば、俊敏な低音が特徴のサブウーハー「AudiFill SW-1」を組み合わせるのが良いかもしれませんね。
↑宣伝させて頂きます(笑)
なお、ローエンドともいえる最低域を伸ばす方法として、バックロードホーンの開口部にダクトを装着した「バックロードバスレフ(BHBS)」という方式があります。 私も何本か作製し、30〜50Hzを再生できる優れた方式だと認識していますが、低音の「質感」「歯切れの良さ」という点では従来型のバックロードホーンが勝っていると感じています。
バックロードホーンは大きな開口部をもち、空気とのインピーダンスマッチングを改善する(空振りを防ぐ)ことができます。 これが、バックロードホーンが「歯切れのいい低音」と言われる理由なのです。 そしてこの効果は、開口部にダクトを装着し、断面積を絞ったバックロードバスレフでは得られないのです。
この両者の音色の違いは、パイプオルガンが得意なバックロードバスレフ、ウッドベースや和太鼓が得意なバックロードホーン、と言えば分かりやすいでしょうか?
バックロードバスレフは、音工房Zやkenbe氏が積極的に開発を進めているので、興味があれば参考にしてみると良いと思います。
<バックロードホーン設計図面>
さて、取説掲載のBHもかなりの出来栄えなのですが、
以下のコンセプトで、私のほうでも設計をしてみました。
・コンパクト&充実の低音
・響きの良い材料「フィンランドバーチ」を使用
・多様なユニットへの対応
<コンパクト&充実の低音>
まず、取説掲載の標準箱は素晴らしい造りなのですが
奥行450mm、横幅322mmは、狭い部屋ではちょっと扱いに困る場面もありそうです。
そこで本設計では、奥行432mm(天板414mm)、横幅286mmに小型化。
実際には、エンクロージュアの角を45°にカットするため、10%以上の小型化ができたように見えるはずです。
重要なのは、内部の音道を小さくしないこと。
小型化というと内部の音道を削りたくなりますが、この容量を1割でも削ると明らかに低音が減ります。
特に、Fostexの標準箱は長年の経験と試行錯誤で作られており、かなり最適化が進んでいると思われます。 今回の設計では、標準箱の設計を最大限尊重し、細かい所を調整してコンパクト化を進めました。
板厚を削減したところは、金属材料を使って補強することを予定しています。 この方法は、板厚で振動を押さえこむより、透明度の高い音色を狙うことができると感じています。
<響きの良い材料「フィンランドバーチ」を使用>
ラワン合板やシナ合板は、悪くない材料なのですが、
音の品位・純度としては少し物足りないものです。
今回は、音質・加工性・価格の3拍子が揃った「フィンランドバーチ合板」を使います。 フィンランドバーチ合板は、2400×1200mm、もしくは1200mm×1200mmのサイズが市場に出回っており、今回の図面もこの寸法に合わせて作成しました。
なお、無垢材や集成材も良いのですが、あれは音質に特化した選択であって(音の良い樹種の)加工難易度や価格を考慮すると、DIYには勧めにくいです。。。
<多様なユニットへの対応>
FE168SS-HRは、歴代最強クラスの磁気回路をもっていますが、
諸事情によりFE168NS、FE166NVなどの他のユニットを使用する機会もあると思います。
ユニットを変更した場合、低音の量感が変化(相対的に中域~中高域の張り出し感が変化)してしまうので、何かしらの方法での調整が必要です。
本作は、背面に直径100mmの穴を設け、そこから内部の吸音材を出し入れできるようにしました。
余り話題にならないのですが、バックロードホーンの吸音材の急所はホーン音道の中央にあるため、こうした調整穴がないと完成後は手出しできなくなってしまうのです。
ちなみに、一般的に知られている「ホーン開口部」や「スロート部分」への吸音材挿入は、重低音の音圧が下がりやすいので(積極的には)お勧めできません。
このように、今回は3つのコンセプトで設計図面 [S-076]を作ってみました。
Fostex標準箱の方に好印象を抱く方も多いかもしれませんが、私欲に任せて作った設計図なのでご勘弁を。
まだザグリとか、細かい所のフォローができていない図面なのですが、まずは公開させて頂きます。 私も春~夏にかけて頑張って作ってみようと思いますので、皆さまの何かしらの参考になりましたら幸いです。
<関連記事>
2021年05月03日「[S-076] FE168SS-HPを使った新型バックロードの設計コンセプト」
2021年05月01日「バックロードホーン向け16cmフルレンジ、試聴感想」
2021年03月27日「FE168SS-HPの試聴動画を作成しました。」