阿部ブログ

日々思うこと

中国のアクセス拒否・地域拒否「A2/AD」(anti-access / area-denial)能力の強化

2012年04月06日 | 日記

以前のブログでも述べているが「アクセス拒否」という軍事・準軍事行動に注目する必要がある。
この「アクセス拒否」とは、敵対国家、及び敵対勢力による「戦略的重要地域」、及び「戦略的拒絶地域」への戦力展開、抑止し、必要に応じて戦力を無効化・排除する為の軍事・準軍事行動をいう。

米国防総省は、「アクセス拒否」(anti-access)と「地域拒否」(area denial)を「A2/AD」と略語で読んでいるが、海洋と空域、宇宙空間、情報戦に至る多層的なシステムで構成されるとしている。

戦略的拒絶地域 と GDR (国防計画見直し)における「アクセス拒否」

トッド・フランク法と紛争鉱物、及び米統合軍 AFRICOM の創設

この「アクセス拒否」は米軍だけでなく、中国人民解放軍にも同じ考えがある。

2000年以前における中国の「アクセス拒否」のそれは台湾有事が主であったが、現在の中国の海空軍力は、台湾を遙かに超えて拡大している。特に西太平洋に展開する米国第七艦隊を中国本土より遠隔の海域で攻撃し、介入阻止ができる能力の開発に多大な努力を傾注している。

中国の「A2/AD」能力の著しい拡張により西太平洋海域は、急速に米中両国の海軍戦力が交わり、鬩ぎ合う海域となりつつある。

中国の「A2/AD」能力の主力は、中国海軍である。
特に中国海軍の主要艦艇の防空システムを最新型のシステムへの更新が行われ、台湾海峡を超える対艦巡航ミサイル(ASCM)を装備するなど対水上艦戦闘能力が向上しており、中国大陸の航空戦力による防御エリアを超える海域での行動を可能にしている。

中国の「A2/AD」能力向上で注目すべきポイントは以下↓

(1)2010年以降、新鋭の戦略弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN)の建造が続いている。
JL-2戦略弾道ミサイルの開発が遅れており、初期作戦能力(IOC)が未達であるが、晋級(Type 094)に搭載されるJL-2の射程は約7400kmと推定され、本格的な大陸間攻撃が可能となる。

(2)SSBNと併せて攻撃型原子力潜水艦(SSN)も増強中。既に第二世代に属する2隻の商級(Type 093)は実戦配備され、第三世代型の(Type 095)5隻も建造中で順次実戦配備される。
特にSSNの静粛技術が向上しており、SSBNの防衛以外にも、海域監視、水上艦艇攻撃など多用な任務遂行が可能となる。

(3)通常型潜水艦(SS)の現有戦力は、YJ-82 ASCM を搭載する宋級(Type 039)13隻が実戦配備中。非大気依存推進装置(AIP)を装備していると見られる宋級の後継艦である元級も4隻(?)が配備されている。それと開発中のSS-NX-13 ASCM が各艦に搭載されれば、長射程からの攻撃が可能となる為、通常型とは言え宋級、元級、商級及びType 095 SSN の戦力は侮れない。

(4)早期警戒能力の向上については、超水平線(OTH)レーダーがある。
このOTHレーダーは、中国空軍の無人偵察機と海軍の哨戒機とが連携し、西太平洋を超える海域の監視が可能となっている。またOTHレーダーと宇宙空間の軍事偵察衛星とリンクし、中国本土から長距離ミサイルによる「A2/AD」海域における目標の照準と攻撃も可能となり対艦弾道ミサイル(ASBM)の配備も進んでいるので、第三国の艦隊に対する精密攻撃が現実味を帯びる。

(5)潜水艦だけでなく、水上艦艇の長射程ミサイル配備による「遠海」能力を向上させている。
ロシア製のSA-N-20 長射程対空ミサイルを搭載している旅洲級(Type 051C)誘導ミサイル駆逐艦(DDG)×2隻。
中国独自開発のHHQ-9 長射程対空ミサイルを搭載する旅洋Ⅱ級(Type 052C)誘導ミサイル駆逐艦(DDG)×2隻。
江凱Ⅱ級(Type 054A)誘導ミサイルフリゲート(FFG)×8隻は、HHQ-16 中射程垂直発射対空ミサイルを搭載する。
これら旅洋Ⅱ級、旅洲級、江凱Ⅱ級は、何れも中国国産艦であり、搭載する国産ミサイルの能力は未知数なるも中国海軍の「A2/AD」海域における対空戦闘能力を大幅に向上させる。

ソマリア海域における海賊対策の為に、中国海軍も艦艇を派遣しているが、様々な問題が生起しており、まだまだ沿海海域海軍の域をでてはいないが、経済発展を安定維持する為にも、また死活的に重要なエネルギー、食料などの海上輸送安全を確保するシーレーン防衛に関心を持ち、必要な戦力を整備するのは理解出来る。

但し、中国の軍隊の本質は大陸軍であり、旧ソビエト海軍と同じ道を辿る可能性が高い。