ナレーションでお世話になっているSさんから電話があったのは8月1日の前の晩のこと。
「明日だった」
一瞬何のことかわからなかったが、早池峰神社の例大祭のことだった。とある企画の準備で、早池峰神楽のお囃子を録音する予定でいたのだが、うっかり連絡を忘れていたというのだ。オレも行くつもりではあったが、たまたま1日は日中に特に予定がなかったので、ICレコーダーを持って同行することにした。
思えば何十年かぶりの早池峰神社である。以前行ったのは、例大祭の前日の夜に行われる宵宮の早池峰神楽を見るためだった。
そのときは、薄暗くなる頃を目指して車を走らせ、早池峰神社の境内に着くと、神楽殿の周りはびっしりと観客で埋まっていて、人里離れた山奥の神社に、こんなに人が集まってるのだと感動したものである。
昔は夜通しやっていたとの話も聞いたことがあるが、その日の夜神楽は、大体夜10時頃までだった。
それ以来の早池峰神社のような気がする。
お祭りなので、露店があったり、子どもたちが駆け回ってたり、昼日中から大人たちは飲んでいて声高に喋っていたりして、録音環境としてはあんまりよろしくない。とはいえ、どこか使える部分もあるだろうとお囃子にマイクを向けた。
昔見た頃とは世代が替わって若返っている。
思えば郷土芸能とは縁のない幼少期を過ごしてきたが、岩手で初めて見た早池峰神楽は衝撃だった。特に大償の名人と呼ばれた、佐々木隆さんの舞を見たときは、なんと表現すれば良いのかわからない感動を覚えたものである。何が違うのかはわからないが、なんというか見入ってしまったのである。
型の力と、途方もない長い時間の修練が、目を離せない魅力を培うのだろう。
そういえば、毛越寺延年の舞「老女」を舞う南洞頼賢さんを見たときもなんとも言えない感動を覚えたものだ。この舞は、のちに「花の塔婆」という芝居の中で、なんちゃって老女の舞で、コピーさせてもらった。ま、そんな簡単にコピーできるもんじゃないですがね。
久しぶりの早池峰神社は相変わらず巨木があたりを囲んでいて、なんともしみじみした風情だった。
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