去年から今年にかけて、訃報が連続したのだが、それは全部年上だった。年下の訃報は辛い。しかもそれが、何度か役者として出てもらったこともあり、スタッフを手伝ってもらったこともあったりすると、その辛さもひとしおである。
しばらく前には、演劇関係者の、さらに若い子の訃報もあり、とにかく自分より若い人の訃報はなるべく聞きたくないモノなのだ。
珍しい人から電話があった、と思ったら訃報である。予想だにしなかったことで、しばし呆然とした。
彼女はクールビューティーという言葉がピッタリくるような人柄で、さっぱりしつつ率直で、でもなんだか独特の色気があって、はにかむような笑顔が素敵な人だった。
架空の劇団第6回公演「夜の完成見学会」は、住宅展示場の中で上演した作品だった。 住宅展示場だから、家を建てようとする人たちや、工務店の営業なんかがいたり、やって来たりするわけで、折角の本物だから、開場時刻を1時間半前にして、タイトル通り「夜の完成見学会」として内部を見学してもらったりしたのち、そういう人たちが登場する芝居にした。
彼女は、リストラされて失業中の夫と一緒に見学に訪れた妻の役どころで、頼りない夫に冷静で的確なツッコミを入れる。辛辣だが愛情は感じられるという、なかなか複雑な役柄なのだが、これはむしろ彼女に書かされた役柄だったかもしれない。
夫役Tさんの、トボケた愛嬌のある返しが、良い具合にハマり、味わい深い夫婦になった。例えばこんな感じ。
ひばり なにやってんの?
雪彦 え? 輪投げ。
ひばり そりゃ見ればわかるよ。
雪彦 うん。
ひばり 遅いよ。
雪彦 あ、ゴメン。
ひばり なんで無職なのに遅れるのよ。
雪彦 いや、掃除して夕飯の準備してたら・・・。
ひばり 今日は外で食べるって言ってたじゃない。
雪彦 そうだっけ?
ひばり 間抜け。
雪彦 ・・・はい・・・。
ひばり なんか良い知らせないの?
雪彦 え?
ひばり 就職決まったとか、宝くじ当たったとか、遺産入ったとか。
雪彦 いや、ないけど・・・。
ひばり 穀潰しだね。
雪彦 ・・・うん・・・でも、遺産入るのはいい知らせか?
ひばり ものの例えよ。
雪彦 うん・・・。
ひばり ここ、求人出してるみたい。
雪彦 ここって?
ひばり ここ、この、なごみホーム。
雪彦 ああ・・・。
ひばり 受けてみたら?
雪彦 いやあ・・・。
ひばり どうしてそうあんたは危機感がないのよ!
雪彦 いや、あるよ、あるんだけどそれが態度に出ないんだよ!
ひばり じゃあ出してよ、危機感!
雪彦 えぇ? そんな、出せって言われても・・・。
ひばり 帰る。
ひばり、帰ろうとする。
雪彦 ちょっ、ちょっと待ってよ!
ひばりの腕をつかむ。
雪彦 折角来たんだからちゃんと見ていこうよ。
ひばり だって・・・。
雪彦 じゃあまず、輪投げやろう! 輪投げ!
ひばり 何であたしが輪投げやんなきゃいけないのよ!
雪彦 楽しいよ輪投げ、ほら、センターフリップ、サイドフリップ。
ひばり 何よそのセンターフリップって?
雪彦 投げ方投げ方。
ひばり なんであんたはそんなに輪投げに詳しいのよ!
とまあ、こんな感じである。
今はご冥福をお祈りするしか出来ない。悲しい。
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