Ⅱ.プーチンは習近平に勝利の可能性を潰された
:230415情報
昨日からの続きです
プーチンの要請を拒否した習近平
習近平との首脳会談。プーチンの目的は、一つしかない。すなわち、習近平を説得し、中国から武器弾薬を提供してもらうことだ。ところが、習近平には、まったく違う思惑があった。なんだろうか?
習近平には、「ロシア―ウクライナ戦争を和平に導きたい」という野心がある。では、なぜ、中国は、ロシアとウクライナの和平を願うのか?
それは「プーチンを救うことで、習近平自身を救うため」だ。どういうことか?
中国の戦略観では、「二匹のトラの戦いを山頂で眺める賢いサル状態」を最上とする。現状は、どうだろうか?
プーチン自身が断言しているように、「ロシア―ウクライナ戦争」の本質は、米国とロシアの戦いだろう。まさに「二匹のトラ」が戦っている。そして、「賢いサル」である中国は、山頂でそれを眺めている。中国は今、最良のポジションにいる。
実際、中国はこの戦争最大の勝ち組だ。
この戦争で、欧米日とロシアの経済関係が切れた。欧州は、ロシアからの石炭、原油、天然ガスをほとんど輸入しなくなっている。結果、中国はロシア産の資源を激安で買うことができている。「The Moscow Times」3月20日付は、中国が、ロシア産天然ガスを、欧州向けよりも70%安い価格で輸入していることを報じている。
さらに、制裁でドルもユーロも入手できなくなったロシアは、資源を「人民元」で中国に輸出している。では、ロシアは、資源輸出で得た人民元をどうするのか?
もちろん中国製品を購入する。要するに、ロシアは、「人民元経済圏」に組み込まれてしまった。つまりプーチンは、ウクライナを侵略するという愚かな決断によって、ロシアを「中国の属国」にしてしまったのだ。
この動画を見ていただきたい。
注目していただきたいのは、習近平とプーチンの目線だ。習近平は、プーチンを一直線に見つめている。一方、プーチンは、習近平と一瞬目をあわせると、すぐ下を向いてしまう。ロシアでは「目を見て話すのがマナー」であるにもかかわらずだ。
習とプーチンは、いまや「皇帝と属国の長」の関係になっている。習近平はあくまで「チャイナ・ファースト」
筆者は、この戦争がはじまる前から、「ロシアの大戦略的敗北は不可避」と主張してきたが、予想通りの展開になってきた。
このように、中国は現状、ロシア―ウクライナ戦争でもっとも得をしている国だ。ロシアの「弱体化」についても、中国への依存度が高まるので、中国は大歓迎だ。
しかしその一方で、ロシアがウクライナに「敗北」すると困ったことになる。なぜか?
ロシアがウクライナに完敗し、プーチンが失脚したと仮定する。そして、親欧米派のロシア新大統領が誕生したとしよう。その新大統領は、ロシアの間違いを認め、クリミアと昨年9月に併合したルガンスク州、ドネツク州、ザポリージャ州、ヘルソン州をウクライナに返還する。
さらに、賠償金の支払いも約束する。ここまでいけば、欧米と日本は、対ロシア制裁を解除するだろう。欧米日とロシアの経済関係は改善され、ドルとユーロの使用が再開され、ロシアは、「人民元経済圏」から離脱していく。
最悪のシナリオは、ロシアの親欧米新大統領が、「反中包囲網」に参加することだ。習近平は、このような最悪の事態を招かないために、「和平の仲介役」を買って出た。
中国政府は2月24日、12項目からなる停戦案を発表している。
停戦案の中には、〈(8)戦略的リスクの低減。核兵器の使用及び使用の威嚇に反対するべきだ〉など、一部「反ロシア的内容」も含まれている(核兵器をもたないウクライナは、核兵器を使うことも、威嚇することもできない)。
しかし、2項では、「軍事ブロックの強化、拡大」(つまりNATO拡大)に反対。10項では、欧米日によるロシア制裁に反対している。
要するに、この停戦案は、「ロシアを救う内容」になっている。そして、習近平が停戦案を出してきた理由は、「戦争に負けてプーチンが失脚したら困るから」だ。
習近平は、プーチンに「中国の停戦案を認めろ」と要求した。習は、プーチンの承認を得たうえで、ゼレンスキーとも会談し、より具体的な話に移行したかった。
ところがプーチンは、中国の停戦案について、「西側とウクライナの準備ができていない」といった。要するに、西側とウクライナを「ダシ」にして、中国の停戦案を遠回しに拒否したのだ。彼は、「武器さえあれば勝てる」と信じているのだから。
そして、プーチンは、「武器をくれ!」と習に迫った。しかし、習は了承しなかった。なぜか?
中国がロシアに武器を供与するようになれば、欧米日から制裁を科される可能性が出てくる。世界GDPの2%以下のロシアのために、世界GDPの約半分を占める欧米日との関係を犠牲にできない。習近平は、どこまでも「チャイナ・ファースト」なのである。
こうして、プーチンが「中国製兵器」によってこの戦争に勝利する道は閉ざされた。そしてウクライナの反転攻勢がはじまる。ロシア―ウクライナ戦争は、これからどうなっていくのだろうか?
「大きな戦い」は、まだつづいている。しかし、ロシア軍の大攻勢は、兵力と武器弾薬不足で止まってしまった。これからは、ウクライナ軍の反転攻勢がはじまるだろう。
なぜプーチンは、ゲラシモフに「3月末までにドンバスを完全制圧しろ」と命じたのか?
期限を切ったことには、理由がある。3月末になると、英国、ドイツ製の戦車がウクライナに届き始めると予想されたからだ。
そして、実際、戦車が届き始めた。
「NHK NEWS WEB」3月28日。
- ウクライナのレズニコフ国防相は27日、自身のSNSでイギリスの主力戦車「チャレンジャー2」などを受け取ったことを明らかにしました。レズニコフ国防相は「1年前には、パートナーの支援がこれほど強力なものになるとは誰も考えられなかった。ウクライナは世界を変えた」と書き込み、欧米の軍事支援に感謝の意向を示しました。
ウクライナへの軍事支援をめぐって、ノルウェー軍は20日、8両の「レオパルト2」がウクライナに配備されたと発表しています。また、ドイツは27日、18両の「レオパルト2」を引き渡したと明らかにし、ウクライナ軍の軍備の強化が進んでいます。―
戦車を得たウクライナ軍は、反転攻勢の準備を進めていく。「大きな戦い」の第2幕がはじまろうとしている。
(了)
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