サンタの国に帰ると、既に多くのサンタがプレゼントを配り終え帰って来ていて、それぞれが自分たちの行った国の子供たちの様子を話し合っていた。
プリンはそんな先輩サンタの中にゼリーを見つけ、女の子のことを話して聞かせた。
「するとおまえはその女の子に何もプレゼントしなかったのか?」
話を聞いていたゼリーがそう言うと、プリンはそれにコクリと頷き、話しを続けた。
そして一通り女の子の様子を話し終えると、プリンはゼリーの反応を待った。
ゼリーは少し考え込んだようにして言葉を選びながら話し始めた。
「なあプリン、サンタにある不思議な力の話、知ってるか?」
「小さい頃読んでもらった絵本の中なら知ってるけど」
馬鹿にしたようにそう言ったプリンを見てゼリーは話を続ける
「絵本だけじゃないんだ、本当にサンタには不思議な力がある。それはサンタ自身がどうしてもプレゼントしたい相手にだけ使える力、まー魔法のようなもんだ」
プリンは身を乗り出してそれを聞いた。
「ただしその力を使うにはあと二つの条件がある。一つ目は力を使えるのは一年に一回だけ、それに同じサンタが同じ相手に対して二度と力が使えないこと」
プリンの方を見ると、もう既に不思議な力で頭がいっぱいのように感じた
「そして三つ目の条件は、願う相手にサンタの姿が見えること」
そう言った時、プリンの興奮が薄れていくのがわかった。
そしてプリンは強い口調で言った
「そんな力、無いのと一緒だ」
「どうしてそう思う?」
その問いにプリンは即答した
「だって見えないだろ、サンタは誰にも見えないだろ」
「・・・」
一瞬の沈黙の後、ゼリーは静かに話し始めた
「俺もずっと前は同じように思ってたんだ」
ゼリーはプリンの方を見る
「サンタの姿は普通は見えない。でも本当にサンタを信じて必要としている人にはサンタの姿が見えるもんなんだよ」
そう言ってうつむいたゼリーにプリンは聞いた
「ゼリーはサンタが見える子供に会ったことあるの?」
ゼリーは頷いて言った
「あるよ、たった一度だけ。」
プリンの目に再び希望の色が見え始める。
「俺がまだプリンのように、サンタになってまだ間もなかった頃、ある家にプレゼントを置きにいったんだよ、いつものようにな。そこにいたのは小さな男の子だった。それでその子の枕元にプレゼントを置こうとしたら突然起きて俺の方を見たんだ、そしてこう言った”サンタさんでしょ”」
ゼリーの顔は少し寂しそうだ
「いやー、流石に俺もそれには驚いてな、”俺が見えるのか?”って聞いたら”見える”って答えたもんだからその時はどうしていいか分からなかったな」
そういうとゼリーは少し笑顔を見せた。プリンは黙って聞いていた。
「そして次にその子の口から出てきた言葉は”こんなおもちゃいらない”ってその子そう言ったんだよ俺に、だからだったら何がほしいのかって聞いたんだ。そしたらその子に”お父さんを助けて欲しい”って言われて俺も困っちゃってよー」
ゼリーはそう言いながら頭をぽりぽりかいた
「その時は俺もただ子供におもちゃをあげることがサンタの役目だって思ってたもんだから、お父さんを助けてって言われてもな・・・その子のお父さん病気だったんだ・・・でもあまりにも必死になって頼むし、その時は俺も信じてはいなかったけど、一応サンタにある不思議な力の話を聞いたことはあったから、そんなに言うなら助けてやろうって気軽に引き受けてさ、そのままお父さんの入院する病院に行ったんだ」
「それで、どうだった?治ったんでしょ」
プリンがそう聞かれ、ゼリーは黙ってうつむき首を横に振った。
「どうして?だってその子にはゼリーの姿が見えたのにどうして!力の話が嘘だったの?」
「いや、不思議な力の話は本当さ」
「だったらどうして!」
ゼリーはプリンを静止するように一呼吸してまた話を続けた。
「俺には足りなかったんだ、その子にどうしてもプレゼントしたいって気持ちが」
ゼリーの目には少し涙が浮かんでいる
「でも俺はその子に治せなかったなんて言えなくて、それでその子の家には行かずに病院から真っ直ぐ帰ってきた。また来年のクリスマスには治してやろうって気持ちがあったんだろうな、そんな軽い気もちが、それで次の年のクリスマスにまたその子の家に言って枕元で声をかけた。”今度こそ治してやるぞ”ってな、でももう何の反応もなかったよ。」
ゼリーの目から涙が流れ落ちた。
「そして枕元に紙が置いてあって、
<もうサンタなんかしんじない、おまえのせいでおとうさんはしんだんだ、もうサンタになんかたのまない>
ってそう書いてあった。それはこの子にはもうサンタが必要じゃなくなったってことだったんだよ。」
少しの沈黙があった、プリンの口からはもう何も言葉が出てこなかった
「情けないだろ、その時初めて気が付いたんだ、サンタは子供たちに幸せをプレゼントしなきゃいけないんだってな」
ゼリーの話を聞いて、プリンはあの女の子の事が気にかかった。
もしも今ゼリーから聞いたようなことがあの女の子の身に起こっていたらどうだろう?もしもあの女の子が目を開けたのが偶然ではなく、自分の姿が見えていたら?あの女の子はサンタを本当に必要としていることになる。
”なんてことだ、僕は本当にサンタを必要としている子供に何一つプレゼントできなかったのかもしれない”
プリンはもう何も考えなかった。
帰る時刻に遅れると重い罪になることも、日の出まで戻れなければ消えていなくなってしまうことも・・・
ただあの女の子が気になっていた。
そして突然立ち上がるとゼリーに言った。
「もう一度あの子のところに行って来る」
「でもお前、もう時間が・・・それに来年でも・・・」
来年では遅いかもしれないということ、それはゼリーが一番わかっていることだった。
「よしわかったすぐ行って来い。その変わり女の子にプレゼントを渡したらすぐに帰って来るんだぞ。みんなには俺が適当に誤魔化しておくから。それから不思議な力を使う時はプリンが心からそれを願えばその子の願いはきっと叶う」
プリンは頷くとソリに飛び乗った。
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・・・続く
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