プリンはトナカイの赤い鼻をやさしく撫で
「今年もよろしくな」
そう言うとソリに乗った。
そしてサンタの長の号令と共に皆いっせいに子供たちの元へと元気にソリを滑らせた。
プリンはもう考えることを辞めていた。
いろいろ考えたが、結局プレゼントととしておもちゃを配る以外には思いつかなかったからだ。
プリンは先輩達に続いて星の間をトナカイの引くソリですり抜ける
空から見る街はどこも光り輝き、たくさんの装飾されたツリーがキラキラ光っていて、まるでここにおいでとサンタたちを導いているようだ。
プリンは地上に着いてソリから降りると、自分が割り当てられた区域の子供たちのところへおおきなプレゼントが入った袋を持って歩き始めた。
すれ違う人たちは誰もプリンの姿をみても驚くものはいない。
サンタは大人も子供も普通では見えない存在なのだ。
でもプリンはそのことが少し不満だった。
「あーあ、僕はこんなにたくさんのプレゼントを持ってきてるのに、誰も僕に気が付かないなんて・・・」
地上に来るといつもそんな愚痴をいいながらとぼとぼ歩く。それにまだ新米に近いから、他のサンタに比べるとプレゼントを配る子供たちの数もずっと少ない。
だからいつも寄り道してクリスマスの風景を見ては、その楽しそうな光景を羨ましく思っていた。
歩き始めて数分で一軒目の家についた。
毎年同じ場所がプリンには割り当てられていたから、大体同じ家に数年間毎年通っていることになる
いつもと同じ風景を見ながら道路を歩くこと数分、一軒目の家に着いた。
そこはとても大きな家でリビングには暖炉があり、広い階段を上がり突き当たりの右側の部屋には両親が、左側の部屋には男の子が一人で眠っていた。
ベッドの横には大きな靴下がぶら下がっていて、その中にサンタ宛の手紙が入っている。
<テレビゲームのソフトがほしい>
それを読むとプリンは思った
”またかっ”
毎年この子はテレビゲームのソフトを欲しがるから、たまには違うものを置いていってみようかとプリンは思う。しかし後から先輩サンタに怒られるのが嫌で、だまって靴下にゲームソフトを入れた。
次は両親の間に挟まって寝ている女の子の家。
大きなベッドの横に小さい靴下、その中の手紙にはこう書かれている
<サンタさん、いつもありがとう。わたしはぬいぐるみがほしいです>
プリンはちょっとうれしかった。サンタがプレゼントを置いていくのは、最近では当然のように思っている子供が多くて、ちょっとでもお礼のような言葉があるとプリンは素直に喜んでしまう。
そして袋から大きなぬいぐるみを取り出すと、靴下に入りきらないそのぬいぐるみを床にそっと置いた。
3件目の家は毎年のように玄関の横に煙突の模型が置いてある。
プレゼントを置きに家の中に入るとき、サンタは煙突から入るものだと思われているようだが、実際にはサンタはドアが閉まっていても通り抜ける事が出来るから、わざわざ屋根に上るようなことはしない。
プリンは本当に煙突から入ってみようかと思ったが、煙突から入って真っ黒になったドジサンタの話を思い出してそれはやめておいた。
そんな調子でプレゼントを次々と子供たちの元へと届けた。
そしていよいよ最期の子供のところへ向かった。
去年からプリンの担当になったその子供の家は小さく、家の中に入っても外の風が通り抜けるような造りで、去年は小さな女の子がそこで一人で寝ていたのをよく覚えている。
女の子の家の中には今までプレゼントを配ってきた家のようにクリスマスの雰囲気は一切無く、クリスマスツリーも何もなかった。
枕元には紙と一枚の写真があり、プリンは紙に書かれた文字を読んだ
<このままのしあわせがずっとつづきますように>
紙にはそう書かれていて、親子3人が満面の笑みで映った写真が一枚。
それは去年と全く同じ手紙と写真だった。
プリンのプレゼントの袋にはまだいくつかのプレゼントが残っていたが、でもその子にあげる物は何もない。
”きっとこの子は幸せで、もう何もいらないのだろう”
そう考えていると、ちょっとだけ女の子の目が開き、プリンの方を見たように思えた。
プリンはビックリして一瞬全身の動きが止まった。
次に女の子を見るともう目は閉じて寝ているように見えた。
プリンはプレゼントを置きに入った家の中で、初めて子供の目を見た。
いつもは目を閉じて眠っている子供の横に、そっとプレゼントを置くだけだったから、一瞬この子には自分が見えているのかと思った。
でも女の子の目はもう開かなかった。ほっとしたような少し残念だったような複雑な心境のまま、その子にだけプレゼントを渡さずにソリに乗り、再び空に向かってソリを滑らせた。
・
・・・続く