沈丁花の木のあとに

 庭の真ん中に、沈丁花の木があって、春にはいい香りがしていたのだけれど、二年ほど前、根元がだいぶ腐っていたところに、みゆちゃんが木登りをしたその重みで根元から折れてしまった。木の幹から枝が順々に伸びて、木登りしやすい形をしていたから、みゆちゃんもよく登って遊んでいたけれど、登ったとたんにめりめりと倒れてしまったときには、みゆちゃんはびっくりした顔をして木から飛び降りた。
 庭の他の二本の木は、塀のそばに生えていて、登ると塀を越えて庭の外へ出て行ってしまうから、登れないように猫返しをつけている。沈丁花が枯れて、みゆちゃんの登れる木はなくなってしまったから、つまらないだろうなと思う。
 沈丁花の木がなくなったあとに、庭の奥に生えている山茶花の種が飛び散ったと見えて、いくつもの株が開いた空間ににょきにょきと伸びた。山茶花は成長が早いのか、二年ほどで、一番上に伸びた枝が、大人の身長くらいになった。
 そのあたらしく生えた山茶花の木の下に潜り込んで、みゆちゃんはときどき昼寝をする。
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