すみだ平和祈念音楽祭の一環で公演された、新日本フィルの演奏会に行ってきた。
メインをドヴォルザークの「新世界より」に置き、前半はコダーイの「ガランタ舞曲」とプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番という構成。鑑賞後に思うことは、この特別な日に本当に足を運んで良かったと心から思えたことだった。アンコール曲をも含めて、全てが目に見えない一環した祈りの心を感じ取れたと思えるからである。復興、復興と言われ続けて早8年の年月が経ち、未だに故郷の土を踏めないでいる被災者の方々に、平和への祈りを音楽に託して演奏された楽曲。いつもとは異なる感動をアントンKは鑑賞しながら味わった。
前半は、やはりプロコの協奏曲第3番を記述しておかなければならない。ソリストの吉見友貴氏は現役高校生という若さ溢れる青年であったが、彼の演奏がまず素晴らしかった。メロディックな楽曲ではないが、普段は聴き取れない細かな動きも手に取るように再現され、かと言って強烈な和音は力づくではなく音楽的でありうるさく感じない。第2楽章が特に気に入ったが、指揮者上岡氏もよくピアノに付けていて、お得意のバランス感覚は最大限に生かされていたように感じている。
そして後半のドヴォルザークだが、ここではもちろん上岡敏之氏の細かな解釈は満載だったが、今回はそんな個々の相違より、楽曲を通した祈りの気持ちが前面に出ていたように感じてしまった。「新世界より」は、当然ながらスタンダードで人気のある楽曲であり、アントンKは過去の実演でもかなりの回数鑑賞している。録音でも昔はよく集めて聴き比べしたものだった。今回の演奏は、経験のない雰囲気が多々あり、どんなメジャーの楽曲でも上岡流を貫くといった頑固たる姿勢が頼もしい。過去の巨匠達の残した演奏スタイルは一度リセットし、真っ白な楽譜からスタートするその真摯な態度は尊敬に値するものだ。こんな特別な日に聴く「新世界より」だからか、やはり一番心を打たれたのは、ラルゴの第2楽章。新日本フィルの木管群はいつも美しいが、今回もテーマを唄うイングリッシュホルンをはじめ、各パートの雄弁で心のこもり切った音色は、深く身体に染み渡った。そしてこの楽章の後半、総譜でいう「E」からの語りは最高で、木管から弦楽器にテーマが引き継がれ、そして最後はソロ演奏になる部分。普通はあり得ないくらいの微弱音で奏され、かつフェルマータをかなり長めにとり、かつて経験のない雰囲気がホールを支配していた。どこか懐かしくセピア色の風景が目の前に現れたように感じ、と同時に東北の変わり果てた光景が思い起こされ、心が熱くなるのがわかったのだ。
そしてアンコールのバーバー「弦楽のためのアダージョ」で、その想いは頂点に達してしまった。アントンKは、昔からこの楽曲が大好きで、ごくごく小品ながら取り出してよく聴いていた。近年は、いつか崔文洙氏の演奏で聴いてみたいとずっと思っていた矢先だったこともあり、感動もひとしお。そんないくつもの想いが合わさって、こらえ切れず目頭を押さえたのである。崔氏の気持ちのこもった響きは、今回は濃厚な熱い音色というより、郷愁を感じさせる枯れた切ない響きに感じ、より一層深く印象付けられてしまった。
花粉の飛散も本格化し、アントンKも1年で一番苦手な季節ではあるが、そんな詰まらない事象など忘れさせる内容だったことを明記しておきたい。
すみだ平和祈念音楽祭2019
コダーイ ガランタ舞曲
プロコフィエフ ピアノ協奏曲第3番 ハ長調 OP26
ドヴォルザーク 交響曲第9番 ホ短調 OP95 「新世界より」
ソロ・アンコール
プロコフィエフ ピアノ・ソナタ第7番~3mov.
アンコール
バーバー 弦楽のためのアダージョ
指揮 上岡 敏之
ピアノ 吉見 友貴
コンマス 崔 文洙
2019年3月11日 すみだトリフォニーホール