今月は大フィルでいよいよブルックナーの第1を聴く。例によって大ブルックナー展の一環なのだが、このチクルスではようやく中盤に差し掛かったと言ってもよい。第8から始まったこのチクルスは、第7と第4とどちらかというとメジャーな楽曲の演奏が並んでいたが、指揮者井上氏にとっても、この第1からがブルックナー・チクルスにおける真骨頂となるのではないだろうか。
ブルックナーの交響曲は、前期・中期・後期と3つに分けて考える事が多いが、最も実演の多い楽曲を後期のものとするならば、前期の3曲(0番を入れると4曲となる)は、実演に接する機会が極端に少ない。アントンKも実演に接した機会は、この4曲に限れば、第3が一番多く7回。第0番は4回、第1と第2ではそれぞれ2回しかない。かなり昔の若杉弘/都響の演奏会や、スクロヴァチャフスキ/読響の演奏会、あるいはインバルが都響を振ったものだったと思われるが、正確には覚えていない。どれも自分には刺さらなかった演奏ということになってしまうが、やはり朝比奈の実演に接することができなったことが悔やまれる。録音で聴く限り、圧倒的な名演であったろうと思うからだ。
さて今回聴く大フィルの第1番であるが、(おそらく)リンツ稿という最初に書かれた譜面を使用するだろう。最近の井上道義の指揮だから、重量感たっぷりにオケを鳴らし、大きな音楽になるだろうと想像しているが、そうなると、改訂を加えたウィーン稿でも聴いてみたくなるのが心苦しいところ。まあいずれにせよ今から楽しみでならない。マーラーの第6に影響を与えたとされる第1楽章の冒頭部分から、ブルックナーの深遠なる世界が広がることを期待して待ちたい。
せっかくなので、第1番のCDの紹介を・・
先ほどの第1にはウィーン稿という、晩年ブルックナー自身が改訂した版があるといったが、その版で演奏したシャイー指揮のものだ。このCDが発売になった当初、第1と言えばリンツ稿が当たり前の時代だったので、このウィーン稿を耳にできた最初の録音ということになる。おそらくそれ以前にも録音や演奏会はないはずだ。初めて聴いた時の衝撃は今でも忘れられないが、劇的な進行の多い第1が、より大きく雄大に代わって、まるで別の音楽、次元の違う音楽になっていた。アダージョの美しさは例えようがなく、フィナーレは後期のシンフォニーのように響く。今でもアントンKの大切な愛聴盤の1枚だ。
交響曲第1番 ハ短調(ウィーン版/1890-91年)
リッカルド・シャイー指揮
ベルリン放送交響楽団