アントンK「趣味の履歴簿」

趣味としている音楽・鉄道を中心に気ままに綴る独断と偏見のブログです。

第4回 大ブルックナー展を聴く

2016-06-26 22:00:00 | 音楽/芸術

予定通り週末は関西まで大フィルを聴きに行ってきた。

この「大ブルックナー展」も4回目。前にも書いたが今回は第1番という初期の交響曲だ。当然スケールも今までよりも小ぶりになるが、そこはブルックナーであり、聴きどころは多々に及ぶ。今回はこれを中心に書きとめておきたい。

さて演奏会には、前プロとしてメンデルスゾーンの序曲とVn協奏曲が並んでいる。確かに今回のようにブルックナーのシンフォニーでも第1のみの演奏会ではいささか物足りなさが残るだろう。しかしメンデルスゾーンという作曲家については、アントンKは最近あまり好まない。もちろん良い楽曲も多いが、個人的な偏見でいうと、どことなくいつも明るさを感じ、小じんまりとした室内楽風だ。昔は交響曲も一通り聴き込んでそれなりに音源もあったが、今では整理の対象になってしまった。

しかしこの演奏会で一つ言えることは、序曲「フィンガルの洞窟」と、ヴァイオリン協奏曲はどちらも名演であったということ。特にVnソロの神尾真由子は素晴らしい。何と言うか、年齢やキャリアは神尾の方が全く若いと思うが、ピアニストで言うなら内田光子といったところか。とにかく感情移入が凄まじく、ヴァイオリニストでここまで表現する演奏家は初体験だったと言っておこう。そして何より出てくる音が大きく綺麗で繊細なのだ。アントンKの座席が前方2列目ということを差し引いても、圧倒的な音量で迫ってきた。これはおそらくバックの井上氏の想定内の演奏であり、オケも上手くヴァイオリンに就いていたと感じた。

当然、演奏終了後の聴衆の反応も同じで、珍しく前半のプロであちこちから声が上がっていた。やはりあの大きなホールを自分の音で一つにしてしまった神岡のオーラなのだろう。そして鳴りやまない拍手に応えて、ちょっとハニカミながら始めたアンコールが、これまたぶっ飛んでしまった!シューベルトの「魔王」のエルンスト編曲版とのこと。アントンKは、ヴァイオリン・ソロの楽曲は普段聴かないから、よく判っていないが、とにかく彼女の奏でるヴァイオリンから、メロディや伴奏が全て聴こえてくる。しかもそのバランスといい、表現力といい息を飲んで聴き入ってしまったのだ。後で調べてみると、このアンコールに聴いたエルンストの大奇想曲は、ソロ・ヴァイオリン曲の中でも超難曲であり、世界の5大難曲の一つとされているらしい。なるほど、今まで聴いたことも無いような、見たことも無いようなテクニックで奏でてはいたが、どんな時にも、上半身と楽器との角度は不変であり、そのことが妙に気になり感心したところだった。

こういったカロリーの高いコンサート前半戦ではあったが、後半のブルックナーの内容も負けてはいなかった。

このチクルス、今まで第8→第7→第4と聴いてきたが、今回の第1についてもある程度同じ解釈で構成されていたといってよいだろう。まず第1楽章の出の低弦のピアニッシモも、しっかり鳴っておりまずは安心する。いつものように、落ち着いたテンポ設定の中、展開部の前のPosの爆発は想定内。さすが「大フィルここにあり!」を堪能する。

第1楽章コーダの手前では、Vcソロをうんとテンポを落とし大見えを切った後、今度はアクセルをゆっくり開けて加速に転じ怒涛にごとく終結するのだ。

続くアダージョ楽章は、低弦にものを言わせ深く心の底に響き渡った演奏であり、この部分だけとっても、兵庫へ来た甲斐があったと思われた。スケルッツオのトリオの素朴さは相変わらずだし、主部の田舎の舞踊音楽を思わせる下りは、指揮者井上氏の独壇場だろう。そして何と言ってもフィナーレは素晴らしかった。実演ではもちろん、リンツ稿だけとっても1番ではなかったか!譜面でいうところの112小節から始まる弦楽器のピッチカートを強調しテンポは普通聴くところの半分くらいだろうか。そして弦楽器のバッハを思わせる様な動きが延々と続く箇所から、曲が大きく膨れ上がって行き、容赦ないトランペット、トロンボーンの符点による合いの手は、アントンKの心臓をえぐる。「ブルックナーはインテンポで」と言われるが、これを聴くと、初期のシンフォニーには当てはまらないのではと思うほど的を得ているのだ。もしブルックナー奏法のようなものがあるなら、おそらく大フィルはそれを心得ているのだろう。木管楽器の素朴さしかり、金管楽器の豪快さしかり、そして今回は、弦楽器の奏法は大注目であった。トゥッティであっても、決して負けないくらいのバランスで鳴っており、ちょうど第5でも表れるようなバッハのような響きは、今回が初めてだ。

この第1のフィナーレは、オルガンで演奏されたCDを持っている。そのCDの演奏、つまりオルガンの響きを思わせる箇所が散見できたのも、新しい発見であった。思いもよらぬ感動で心を浄化させることができ至福の時を得たが、この初期の交響曲でここまでやってくる井上/大フィルは益々絶好調だろう。最後に指揮者自身が、客席に向かって「次は第5!」と言っていたが、その顔にはすでに自信あり気な雰囲気が漂っていた。次回を心して待ちたいと思う。

第4回 大ブルックナー展

メンデルスゾーン 序曲「フィンガルの洞窟」 OP26

メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 OP64

ブルックナー 交響曲第1番 ハ短調 (1866年リンツ稿ノーヴァク版)

井上道義 指揮

大阪フィルハーモニー交響楽団

神尾真由子(Vn)

2016-06-25 

兵庫県立芸術文化センターKOBELCO 大ホール