杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

ぼくたちのムッシュ・ラザール

2013年03月24日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2012年7月14日公開 カナダ 95分

ある冬の朝、モントリオールの小学校へ、牛乳当番のため早めに登校したシモン(エミリアン・ネロン)は、担任の女性教師マルティーヌが教室で首を吊って死んでいるのを見つける。シモンから事態を聞いた教師が全校生徒を校内から退出させるが、シモンの同級生アリス(ソフィー・ネリッセ)もその現場を見てしまう。事件から1週間が経ったが、子どもたちはショックを受け、学校は生徒たちの心のケアや後任探しの対応に追われていた。そんななか、アルジェリア系移民の中年男性バシール・ラザール(モハメッド・フラッグ)が代理教師の募集広告を見て応募してくる。採用されたラザールは、温和な性格から早々に子どもたちと打ち解けるが、その授業のやり方は決して洗練されたものではなかった。円形に並んだ机を直線に並べ替えたり、子どもには難解なバルザックの古典小説の口述筆記を課したり、古い文法用語を使ってフランス語の授業を行ったりした。子どもたちはラザールの授業に戸惑いつつも、徐々に以前の生活を取り戻していく。なかでもアリスはラザールの母国アルジェリアに真っ先に興味を持ち、写真を集めるなど、誰よりも積極的に新しい環境を受け入れようとするが、マルティーヌ先生の死を忘れることができなかった。そして、その現実を遠ざけようとする学校側の姿勢に疑問を持ち、先生の死を気にしていない振りをするシモンに苛立つ。一方、ラザール自身も、愛する人々の死を乗り越えなければならなかった……。 (goo映画より)


カナダ・アカデミー賞で主要6部門受賞、第84回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品。

小学校が舞台で親しげな題名から、もっとコメディタッチの内容かと思ってレンタルしたら全然違ってました。冒頭いきなり担任教師が教室で首吊り自殺してるんだもんな

代理教師としてやってきたラザール先生は、実は教師資格のないアルジェリア難民でした。でも彼の亡き妻が教師だったのです。彼は何故身分を偽り小学校の教師として働くことにしたのでしょう?それは観る側の推測に任されます。
ともあれ、子どもたちと誠意を持って向き合うラザールはまさに先生そのものです。
キャッチコピーである「いちばん大事なことは、教科書には載ってない。」に納得。

発見者であるシモンは愛情に飢えた子どもです。凍える身にいきなり熱いカップを押し付けられたらそれは心地よさではなく痛みに感じるのではないかしら?マルティーヌ先生がシモンに示した愛情は教師としての心情の偶発的な発露でしたが、彼にとっては前記のような驚愕だったのでしょう。
この小さな出来事が先生を追い詰めたのか?それは同僚教師による「彼女は(心の)病気だったのよ」というセリフでなかば否定されます。一因にはなったかもしれないけれど全部ではないのです。
しかし、シモンは考えます。「先生はあの日僕が一番最初に教室にくることを知っていて、教室で死んだ」と。彼が先生の写真に天使の羽を描いたのは、決して面白がったわけではなく、彼なりの償いと思慕だったのだと思えます。

アリスは聡明で大人びた子供です。あの日彼女も教室の中を覗きこんでしまいショックを受けています。パイロットである母親はその日も家を空けていて、彼女は独りで耐えなければなりませんでした。シモンの事件を知っている彼女は彼が先生を追い詰めたのだと心中で非難しています。彼が何気ない振りを装って平気そうに見えるのも癪に障るし、周囲がなかったこととして忘れたがっているのも違うと思っているの。ラザール先生が出した宿題に敢えて元担任の自殺について「先生が教室で自殺をしたことは生徒に対する冒涜です」と書いたのもそのためです。

やがて授業の中で二人は激しい口論となります。シモンが泣きながら気持ちをぶつけるシーンが胸に痛かったです。ラザール先生がそれに応える場面はありません。

ラザール先生は二人を含めた生徒たち皆を積極的に導いたわけではありません。注意深く見守り時に諭しますが一方的な関係ではなく、彼も生徒から教えられているようにも見えます。躾けにまで口を出すのが気に入らないという父兄もいて、結局それが原因で彼の身分がばれてクビになり、雇った校長も処分を受けることになります。体罰やハグも禁じられる教育現場は日本と同じ。ただ勉強だけを教えてくれればいいという親の考え方もね。

学校を去る日、ラザール先生がアリスを抱擁するシーンは、シモンが自殺した担任に受けたことと重なります。違いはお互いの心が通じていたか否かでしょう。
冒頭、アリスとシモンは校庭の片隅で肩を寄せ合いお菓子を分けあいます。ラストでも同じ光景が繰り返されるのですが、二人の間にはより確かな友情が生まれたのだと思えました。
また、ラザールにとってもこの学校での経験は、彼が前を向いて新しい人生を歩むための貴重な糧になったのだと思います。
手放しでハッピーエンドではありませんが、希望の持てる最後でした。

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