杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

ミッドナイト・イン・パリ

2013年03月30日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2012年5月26日公開 アメリカ 94分

ハリウッドの売れっ子脚本家ギル(オーウェン・ウィルソン)は、婚約者イネズ(レイチェル・マクアダムス)とその両親と愛するパリを訪れる。脚本の仕事に虚しさを覚えているギルは、作家への転身を夢見て、ノスタルジー・ショップで働く男を主人公にした処女小説に挑戦中。パリに魅了され、住みたいと考えるギルだが、イネズはマリブに住むと譲らない。そんな2人の前にイネスの友人ポール (マイケル・シーン) が現れ、ともに街を回ることになる。インテリぶったポールの語る間違いだらけの歴史や芸術の蘊蓄にうんざりのギルは、ワインの試飲会の帰り、1人で真夜中のパリを歩き道に迷う。真夜中の12時、モンターニュ・サント・ジュヌヴィエーヴ通りで物思いに耽るギルの前に旧式の黄色いプジョーが止まる。1920年代風の格好をした男女に誘われて車に乗り込んだギルは、古めかしい社交クラブのパーティで、ゼルダとスコット・フィッツジェラルド夫妻に、ピアノを弾くコール・ポーター、パーティの主催者ジャン・コクトーと出会う。さらにジョセフィン・ベイカーやアーネスト・ヘミングウェイとも。ギルは彼が愛してやまない1920年代のパリに迷い込んだのだ。翌晩、イネズを伴い昨夜の場所に連れて行くが、真夜中になる前に彼女は帰ってしまう。そして12時の鐘とともに古いプジョーが・・。ギルはヘミングウェイに連れられてガートルード・スタイン(キャシー・ベイツ)のサロンを訪問。そこでガートルードと絵画論を戦わせていたパブロ・ピカソの愛人アドリアナ(マリオン・コティヤール)と出会い、互いに好意を抱く。現代と1920年代を行き来するうち、イネスとの関係に迷い、アドリアナへの想いを募らせる彼に、サルバドール・ダリ(エイドリアン・ブロディ)やルイス・ブニュエル、マン・レイらは「それは自然なことだ」と言葉をかけ・・・。


1920年代の愛好家及び芸術好きにはたまらない作品だと思います。
名前は知っていても彼らに思い入れのない私にとっては、次々登場する偉大な芸術家たちへの感動は主人公に遠く及ばないのですが

冒頭でパリの一日の景色がセリフ無しで流れて行きます。どのカットも美しく魅力的な町の様子を映していて、監督であるウディ・アレンのパリに対する愛情が伝わるようです。

現代の軽佻浮薄さに嫌気が差しかけているギルにとって、憧れの時代へ夜な夜なタイムスリップし、カフェやサロンで尊敬する作家や有名な作曲家、画家たちと交流し、書きかけの作品の批評もして貰えるなんてことはもう夢のような興奮と感動を呼び起こしたことでしょう。この興奮をイネズと分かち合いたいと思ったギルですが、彼女は関心を示さず、頭が変になったといわんばかり。この頃からギルは二人の間の溝に気付いていき、だからこそ現実逃避にのめり込んでいったのかも。

イネズがポールと親しく出かけることが増えても、アドリアナに惹かれているギルは気付かぬふりをして自分も夜毎のノスタルジーに浸ります。しかしある晩、アドリアナと一緒に更に古いベル・エポックの時代に迷い込んだギルは、ロートレックやゴーギャン、ドガといった憧れの芸術家たちを前に狂喜しこの時代で暮らしたいという彼女を見て、初めて自分がどうすべきか気付くのです。それはどの時代に行ったとしても、やがてその状況に飽き満足できなくなる自分がいること、逃避ではなく自らを内省し未来へ向けて歩まねばならないことです。

こうしてアドリアナにも、婚約者にも別れを告げたギルはパリで暮らし始めます。そして趣味や感覚の似ているガブリエル(レア・セドゥー)と新しい本物の恋の予感で終わる雨のパリがラストシーンです。
物語の前半で雨のパリが好きで濡れて歩こうと言ったギルに、イネズは「私は濡れるなんて嫌」と拒否しましたが、ラストでガブリエルは「雨に濡れて歩くのもちっとも構わない」と言います。この二人の女性の対比がそのままギルとの相性を示しているかのようでした

イネズの父が雇った探偵がギルを追いかけて王政の時代にタイムスリップして追いかけられるなどのお遊びネタもありますが、全体を通して芸術を愛する上質な大人のお伽噺になっています。

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