杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

神坐す山の物語

2022年10月03日 | 
浅田次郎(著) 双葉文庫

奥多摩の御嶽山にある神官屋敷で物語られる、怪談めいた夜語り。
著者が少年の頃、伯母から聞かされたのは、怖いけれど惹きこまれる話ばかりだった。切なさにほろりと涙が出る浅田版遠野物語ともいうべき御嶽山物語。

・神上がりましし伯父
普通の人には見えないものが見える霊力を持った著者が、自分を訪ねてきた伯父の姿を見てその死を悟ります。

・兵隊宿
祖母イツが語ってくれた、雪の降る夜に行方不明となった兵を探していた砲兵隊の話。実は砲兵隊は前線で全滅していて行方不明の兵だけが生き残っていたのでした。

・天狗の嫁
少女のように小柄なカムロ伯母(母のすぐ上の姉)が語る嵐(伊勢湾台風)の夜の思い出。幼い頃に天狗に攫われた伯母の数奇な運命も語られます。

・聖
母と親子ほども歳が離れていたちとせ伯母が子供たちを寝かしつける時に語ってくれた夏の新月の晩にやってきた喜善坊と名乗る修験者の話。
修行により得られる力と、元々備わっている能力は違うけれど、それを自覚して諦めることが出来なかった男の悲しい結末が語られます。

・見知らぬ少年
著者が出会った、かしこと名乗る同い年くらいの少年とのひと夏の物語。後に彼は母の幼くして亡くなった兄(伯父)と判明します。

・宵宮の客
ちとせ伯母の寝物語その2。一夜の宿を求めてやってきた一人の男には彼が殺した女の霊が憑いていました。女は男の心変わりを責めずに自分を殺してと哀願し男は実行したのです。著者の曽祖父は女を神上げてやります。

・天井裏の春子
ちとせ伯母の寝物語その3は、狐が憑いた春子(仮称)の物語。
住処を追われた古狐が生きるために美しい娘に取り付きます。今なら精神病と括られてしまいますが、何やら人知を超えた仕業に感じられました。

『遠野物語』のようと例えられますが、著者の母方の里は神官の家系で、八百万の神の存在を感じさせる不思議な物語も、人里離れた奥津城の描写と相まって何やら本当にそこに存在しているかのような感覚になりました。


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アイ・アム まきもと

2022年10月03日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2022年9月30日公開 104分 G

小さな市役所に勤める牧本の仕事は、人知れず亡くなった人を埋葬する「おみおくり係」。故人の思いを大事にするあまり、つい警察のルールより自身のルールを優先して刑事・神代(松下洸平)に日々怒られている。ある日牧本は、身寄りなく亡くなった老人・蕪木(宇崎竜童)の部屋を訪れ、彼の娘と思しき少女の写真を発見する。一方、県庁からきた新任局長・小野口が「おみおくり係」廃止を決定する。蕪木の一件が“最後の仕事”となった牧本は、写真の少女探しと、一人でも多くの参列者を葬儀に呼ぶため、わずかな手がかりを頼りに蕪木のかつての友人や知人を探し出し訪ねていく。工場で蕪木と同僚だった平光(松尾スズキ)、漁港で居酒屋を営む元恋人・みはる(宮沢りえ)、炭鉱で蕪木に命を救われたという槍田(國村隼)、一時期ともに生活したホームレス仲間、そして写真の少女で蕪木の娘・塔子(満島ひかり)。蕪木の人生を辿るうちに、牧本にも少しずつ変化が生じていく。そして、牧本の“最後のおみおくり”には、思いもしなかった奇跡が待っていた。(公式HPより)


2013年製作のイギリス・イタリア合作映画「おみおくりの作法」を原作に描いたヒューマンドラマです。牧本は孤独死したある男の娘を探して彼のかつての友人や知人を訪ね歩くのですが、それは男の人生を辿ることでもありました。牧本の亡くなった人へのちょっと迷惑だけど無垢な気持ちが、やがて人と人を繋ぎ、自らをも変えていきます。

軽やかなマリンバの音とともに始まった物語が衝撃の結末を迎える頃、「あれ?この話知ってる気がする」という既視感を抱きましたが、それもその筈、「おみおくりの作法」のDVD観てました。(2015.11.8)

牧本は48歳・独身で山形・庄内市役所で身寄りがなく独りで亡くなった方を火葬して無縁墓地に納骨する「おみおくり係」として働いています。
遺族が望まない葬式をするのは仕事の範疇外なのですが、彼は亡くなった方に寄り添って自費で葬式をしていました。葬儀屋の下林は、牧本に理解を示しますが、刑事の神代は遺体をすぐに引き取りに来ない牧本に腹を立てています。彼は手を顔の横で振りながら「牧本こうなってました!」と言うのが口癖で、自分の世界に入ると話を聞かない、空気が読めない男なのです。

ある日、牧本のアパートの向かいの部屋に住んでいた蕪木が亡くなり、甥が引き取りを拒否していると聞きます。
その頃、県庁から小野口(坪倉由幸)が福祉局局長として赴任してきます。自分のロッカーに大量の骨壺を発見して激怒した彼は、おみおくり係の廃止を決めます。
蕪木の件が最後の仕事となった牧本は、彼の部屋にあったアルバムを見て、娘がいるのではと考え、「とうこ」という名前を手掛かりに葬儀に参列してくれる人を探しに行くことにします。
携帯電話にたった1件だけ登録されていた魚住食品で同僚だった平光。
漁港で居酒屋を営む元恋人のみはる。彼女には蕪木も知らない彼の娘・衣都がいました。ホームレス仲間にも会いに出かけます。蕪木が喧嘩っ早い男だったと聞いた牧本は、神代に蕪木の(留置)記録を尋ねて、ついに「津森塔子」という名前を見つけ会いに行きます。
養豚場で働く塔子は母と自分を捨てた父を許せないと語りましたが、塔子が産まれる前に関係があったらしい槍田という人物の手紙を見せます。
槍田のいる老人ホームを訪ねた牧本は、蕪木と炭鉱で働いていた時爆発事故が起こり、視力を失った彼を蕪木が助けてくれたと聞かされます。蕪木が妻子を捨てた理由も、自分だけが幸せでいることが許せなかったのではと語ります。

この一連の人探しで牧本は少しずつ変わっていきます。他人の言葉を額面通りに受け取ることしかできなかったのが、そこに込められた気持ちに少しだけ気付くことができたり、自分のルールをちょっとだけ変えてみたり(立ってフライパンと炊飯器から直接食べていたのがテーブに皿を並べて座って食べるシーンが印象的)、おそらくは発達障害のある牧本にとって大いなる変化です。

冒頭に登場するシーンは線路に寝ているのかと思っていたら、自分のために買った墓地の区画なんですね。そこを牧本は蕪木に譲ることにします。
牧本は、小野口の不在を狙って彼が大事に飾っているトロフィーのカップの中に放尿します。これは平光から聞いた蕪木の抗議行動を模したものです。
塔子に会って墓地の話をすると感謝され、帰り際に父がどんな人だったか聞きたいと言う塔子と葬儀の後に話す約束をします。
嬉しくなった牧本は、白鳥を撮って塔子に見せたいと思いカメラを買い、いつもは慎重に渡る横断歩道をカメラを覗きながら渡って車に轢かれてしまいます。この時信号は青なんだよね~~。そして彼の最期の言葉「ダイジョウブ」は「自分よくやった」という意味です。

蕪木の葬儀には、牧本が会いにいった人たち皆が参列しました。一方、牧本の骨を拾ったのは神代だけでした。神代は無縁墓地に牧本の遺骨を納めます。塔子たちが牧本の譲った墓地に来ているのが見え、「牧本さん、あなたの粘り勝ちですよ」と呟いた神代は、塔子たちの後ろを牧本の遺影を持って通り過ぎます。あんなに他人に尽くしてきた牧本の最期があまりにも切ない!と思っていると、無縁墓地に蕪木の姿が・・・そして今まで牧本がおみおくりをしてきた大勢の人たちもやってきて次々に手を合わせました。
うん。牧本のしてきたことはちゃんと意味があって、例え孤独に見えても大勢の寄り添う魂があるんだなって、慰められる結末でした。

孤独死した人の部屋に入る時、死臭を和らげるために鼻の下にメンタムを塗ったり(養豚場の臭いは敢えて塗らずにいるのも彼なりのルールだったのかな)、仕事の七つ道具を入れる沢山のポケットが付いたベストを着ているのがとても印象的。あのベストちょっと欲しいかも😊 





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