杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

線は、僕を描く

2022年10月24日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2022年10月21日公開 106分 G

大学生の青山霜介(横浜流星)はアルバイト先の絵画展設営現場で運命の出会いを果たす。白と黒だけで表現された【水墨画】が霜介の前に色鮮やかに拡がる。深い悲しみに包まれていた霜介の世界が、変わる。
巨匠・篠田湖山(三浦友和)に声をかけられ【水墨画】を学び始める霜介。
【水墨画】は筆先から生み出す「線」のみで描かれる芸術。描くのは「命」。
霜介は初めての【水墨画】に戸惑いながらもその世界に魅了されていく――
水墨画との出会いで、止まっていた時間が動き出す。これは、喪失と再生の物語。(公式HPより)


水墨画の世界を題材にした砥上裕將の小説「線は、僕を描く」の映画化。

神社で行われる水墨画の展示会の搬入と設営のバイトに来てい大学1年生の青山霜介は「椿」が描かれた水墨画を見て涙を流します。その様子を見ていた(と後に明かされる)文化勲章を受賞するほどの水墨画絵師 の篠田湖山から弟子にならないかと誘われたことがきっかけで、霜介は生徒になって水墨画を学ぶことになります。

霜介の前で「春蘭」を描いてみせた湖山は、その絵を手本に霜介に描かせ、出来上がった絵を見て「思った通りだ」と呟き、絵に文字を書き込みました。
湖山の孫娘の千瑛(清原果耶)・・「椿」の作者です・・は、指導を懇願しても何も教えて貰えないことに不満を感じていて、湖山が突然霜介を迎え入れたことが気に入りません。

親友の古前(細田佳央太)や川岸(河合優実)から頼まれて、霜介は若手水墨画絵師として有名な千瑛に大学のサークルでの講師をお願いします。依頼を引き受けて水墨画の入門講座を行った千瑛は、霜介の描く独特で繊細な感情を持った線に引き込まれます。打ち上げで間違って千瑛のウーロンハイを飲んで泥酔した下戸の霜介を古前たちと家に連れて行った千瑛は、部屋に散乱する大量の絵の中に滅多に書き込むことのない湖山の「画賛」(余白に絵に対する感想を書き込んだもの)を見つけショックを受けます。古前は霜介が家族を亡くしていることを伝え、彼がやっと何かのめり込むものを見つけたと話し、千瑛に霜介のことを託します。

湖山は霜介の描く線が自分や千瑛の模写だと指摘し、次の課題に「菊」を指定し手本は与えないから自由に描くようにと言います。
一方、千瑛は前年の「四季賞」を逃してからスランプに陥っていました。
展示会で、霜介は門下生として「菊」を展示します。その絵を見た「四季賞」審査員の翠山は、技術の低さを指摘し絵に「命」がないと批判しますが、線の優しさと憂いは評価してくれました。
メインイベントである描画の開始時間になっても湖山が現れず、窮余の策でず千瑛に代役をさせようとする関係者でしたが、翠山(富田靖子)は千瑛の絵には「命」が無いと止めます。その時、西濱(江口洋介)が現れ、描画を始めます。彼は「湖峰」と呼ばれる湖山の一番弟子で、力強い「命」ある絵は会場を圧倒します。イベントが成功に終わった後、西濱は霜介と千瑛に湖山が倒れたことを告げ、2人を病院に向かわせます。

手術の結果を待つ間、千瑛に家族のことを聞かれた霜介は、大学に入って一人暮らしをするために家を出た朝に家族と大喧嘩したのが家族との最後になったことを話しました。病室で湖山は、霜介に「もっと本質を見ろ」、千瑛には「ここにいるべきでは無い」と言います。それを聞いた千瑛は怒って病室を飛び出し家に帰りませんでした。

退院の祝いの食卓で、霜介は湖山が利き腕の右腕が不自由になっていることを知ります。湖山は描画に霜介の協力を求め、水墨画は自然と共にあり、移り変わる自然に身を任せて線を描けばよいと左腕で絵を描き始めます。なぜ自分を弟子に?と問う霜介に、湖山は「椿」の絵を見て泣いていた霜月に「真っ白な紙」を感じそこに絵を描きたかったからだと話しました。

湖山の言葉に自分が何をすべきかを悟ったものの、一歩を踏み出せずにいる霜介を見兼ねて、古前は過去にけじめをつけて前に進めと背中を押します。
その夜、家の前に座り込んでいた千瑛を見つけた霜介は、彼女の「椿」の絵を見て家族の思い出が蘇ったことを話し、あの絵には「命」があったと言います。千瑛は「椿」が楽しいと思って描いた最後の絵だと打ち明け、あの頃の気持ちを取り戻したいと言います。そのためには自分に向き合わなければならないと気付いて実家に向かうことにした霜介に、千瑛もついていきました。

3年前、霜介の実家は大雨で氾濫した川に流されました。妹からの助けを求める電話を無視したことを悔やむ霜介は、あれ以来実家の跡地を訪れることが出来ずにいたのです。実家の跡地を訪れた二人。千瑛はまだ綺麗なまま落ちていた一輪の椿の花を見つけて霜介に手渡しました。

家に戻ってきた千瑛を湖山は「おかえり」と迎えます。正式に弟子となった霜介も水墨画に打ち込みます。
四季賞の授賞式当日。受賞した千瑛は感謝のスピーチを述べます。同じ頃、新人賞を受賞した霜介は、水墨画サークルの文化祭のイベントとして描画に挑んでいました。

深い喪失を背負った主人公が、水墨画の世界を知って前を向いて一歩を踏み出すお話です。とにかくその絵の水準の高さに目を奪われてしまいます。筆の使い方で全く変わる墨の色や線の形にその奥深さを感じました。描画という大きな紙を前に絵師の個性が生き生きと現れるその「画」の迫力・力強さがスクリーンを通して伝わってきて見惚れてしまいました。
穏やかで優しい、でも内に凛とした芯の強さを感じさせる湖山は三浦友和の人柄そのもののよう。飄々としながらも、その絵は力強く生命力に満ちている「湖峰」役の江口洋介もはまっていました。

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