2019年12月7日公開 スウェーデン=デンマーク 123分 PG12
スウェーデンのスモーランド地方。兄弟姉妹と自然の中で伸び伸びと育った少女アストリッド(アルバ・アウグスト)は思春期を迎え、より広い世界や社会に目を向けるように。率直で自由奔放な彼女は、次第に教会の教えや倫理観、保守的な田舎のしきたりや男女の扱いの違いに息苦しさを覚え始める。そんな中、文才を見込まれて地方新聞社で働くことになった彼女は、そこで才能を開花させるが……。(映画.comより)
「長くつ下のピッピ」「ロッタちゃん」など数々の名作児童文学で知られるスウェーデンの作家アストリッド・リンドグレーンの知られざる若き日々を描いた伝記ドラマです。
世界中の子どもたちがアストリッド・リンドグレーン(マリア・ファール・ヴィキャンデル)に手紙を書き、それを読みながらスモーランド地方で過ごした青春時代を思い出す老いたアストリッドから物語は始まります。
兄妹たちとのびのびと育ったアストリッド。その強過ぎる個性が母(マリア・ボネビー)は心配でつい厳しい物言いになってしまいます。
16歳になったアストリッドは、父(マグヌス・クレッペル)の紹介で、彼女の文才を高く評価してくれた新聞社のレインホールド(ヘンリック・ラファルセン)の下で働くことになります。彼には先妻との間に7人の子供がいて、アストリッドの友人もその一人でした。さらに二番目の妻との離婚話も進んでいました。(いや、この時点でヤバい男の気がしますが・・・)
仕事を通していつしか二人は不倫関係となり、アストリッドは妊娠してしまいます。それを知った両親は世間体を気にします。(この時の父親の胸中を想像すると、相手に対する怒りと自分が紹介したことで過ちが起こったという後悔とがない交ぜになっていたのではないかしら)レインホールドの提案でストックホルムの秘書学校に通い、密かに出産することになったアストリッドは、デンマークで出産して里親に預け、レインホールドの離婚が成立したら迎えに行くという選択をします。
出産後、クリスマスに家に帰らないと周囲に不審に思われると後ろ髪を引かれながら実家に戻るアストリッド。当人はもちろんですが、きつく巻いた胸から溢れ出る母乳に涙する娘を見ている母の胸中も察するにあまりあります。
ところで、里親のマリー(トリーヌ・ディルホム)がとても良い人なのね💛
スウェーデンとデンマークを行き来する中でどんどん成長していく息子のラッセ。パスポートに押されるスタンプの数が流れる月日を物語っていました。
やっと裁判が終わって離婚が成立し、改めてアストリッドに結婚を申し込んだ
レインホールドでしたが、彼の心無い言葉に傷ついたアストリッドは、その申し出を断ってしまいます。
王立自動車クラブに職を得たアストリッドは、ラッセを引き取ろうとしますが、マリーを母親だと信じ懐いている息子を見て諦めます。とても辛い選択ですが、息子の幸せを一番に考えた決断でした。
ところが、マリーが病に倒れ、アストリッドの元にラッセが戻ります。ママのところに帰ると泣くラッセはアストリッドに懐かず、咳が続く息子の看病で疲れ果てたアストリッドは仕事中にぼんやりしてボスに呼び出されます。クビにされると怯える彼女に、ボスは子供の病気が治るまで出社しなくて良いと言い、医者まで手配してくれました。(働いていたけれど貧しかった彼女には医者に見せるお金もなかったのです。)
百日咳と診断されたラッセは徐々に回復していきます。ある夜、眠れない息子にせがまれて「お話」を語るアストリッド。作家としての彼女の原点ともいえるエピソードになっていました。
再び出社したアストリッドは、ボスに心からの感謝を述べます。彼こそが後に夫となるリンドグレーン(ビョルン・グスタフソン)です。
アストリッドはラッセを連れて故郷の駅に降り立ちます。迎えにきたのは父で、家では母や兄妹たちが待っていました。母は教会に行こうと誘います。不倫や未婚の母などタブーを破ったアストリッドに対する人々の視線を真っ向から受けて立つ覚悟を決めた両親の姿がそこに見えました。
再び画面は老作家の書斎に戻り、ジ・エンドです。
当時の世間の常識からは後ろ指を指される生き方ですが、その結果に逃げ出すことなく自ら道を切り拓いていったいわば時代の先達者だったアストリッドの半生が描かれていました。もちろんフィクションを織り交ぜてはいますが😊