勇気のなさ
バス通勤していた頃のこと、その日私は最終バスに乗っていた。 中乗り、前降りのバス、ドアのすぐ横の座席に座った。 次の停留所で、降りる客が居てバスが停まる。 真っ暗な窓の外に目をやると乗客が一人立っていた。 前のドアが開き客が降りる、そして私の目の前の乗り口のドアは開かないまま、乗客を置き去りにして発車してしまった。 〝あっ、乗る人がいます! 〟思っていながら声をあげることが出来なかった。 若かりし頃、大きな声を出すのが恥ずかしかった思い出。
納得いかない
スーパーの感謝セール、当選者が店内に張り出されたその日、6等が当っていた。 早速サービスカウンターへ申し出ると「6等に付きましては、本店から直接ご自宅へ発送致します」とのことだった。 賞品は洗剤。 ひと月近く過ぎても賞品が届かないので行って聞いてみると、発送ではなく店頭渡しだったとの事、そしてカウンターの下を探す様子を見せて〝申し訳有りません、もう本店に返してしまいました〟と云った。 それで終わり?と思いながら帰宅するが、納得がいかない。 自分たちのミスで当選した客に賞品が行き渡らなかった事なのに、悪びれもせずまるで接客マニュアルの見本のように、感じの良い笑顔で丁寧語を使い〝申し訳有りません〟って、おかしい! で、店長に電話をしてしまったけれど後味の悪い思いだった。 「責任者出てこい」みたいな自分の行為に・・・ あの時あの時点で、直接対応した店員にきちんと話すべき事だった。
なめられた話
私の誕生石はエメラルド、でも宝石として好きなのはサファイアだった。 百貨店に勤めていた友人から自分としては奮発してスターサファイアを買った。 ある日、職場の研修に私ともう一人の職員が参加した。 部屋も二人部屋だった。 寝る時、私はベランダ側で、そこにあった小さなテーブルの上に外した指輪を置いた。 朝起きたら指輪がない、それでもその辺りや布団の中をそれとなく探したけれど、落ちると言う状態ではなかったので嫌な予感がした。 二人部屋の一方が物をなくしたと云えば相手が嫌な思いをするだろうと何も云わず時間を過ごした。 トイレに立つ時思うところがあって、バックの置き場所に目安を付けておき部屋に戻ると、明らかに私が置いた場所ではない所にバックが移動していた。 その時、やはりこの人が指輪と盗ったと確信し、更にバックにまで手をかけたのかと思うと頭に来た。 けれどそれは状況証拠でしかない、相手が知らないと云えばそれまでだし、開き直る可能性もある。 何より私は他にかかる迷惑を考えていた。 十勝管内全施設から職員が参加している研修、騒ぎたてたくなかった。 相手も、私はきっと騒ぎ立てないだろう読んだに違いない、なめられた話だ。 後で考えてみると彼女の態度も不自然だった。 探している私に〝どうしたの?〟でもなく、何より部屋を離れなかった。 顔も洗わず化粧をしていた、きっとその場を離れるのが怖かったのだろうと思う。 でも私は、自分のバックが置いたところと違う位置にあった時、きちんと聞いてみるべきだったのではないかと後で思った。 その年が明けて、貰ったことのない彼女からの年賀状が届いた。 「いつも優しくしてくれて有り難う」
結局私は、事が起きた時に相手に対しきちんと云うべき事を云えない人間な
のだ。 あの時、ああ言うべきだった、こうするべきだった、そうしなければい
けなかった・・・と後から後悔する。
向き合ってご飯を食べながら、つくづくと親の顔を見る。
この人は(parent) 紛れもなく私の親なのだ。
そして正に(Monster parent)だった。
充分に自己中心的で理不尽な人だった。
背負うには軽いけれど、心にはずっしり重かった。
今では哀れを誘うほどすっかりやせ細ってしまったけれど、
Monsterは多少衰えながらも時々顔を出す。
しみじみと顔を見る。
思えば遠くへ来たものだ。
この人は(parent) 紛れもなく私の親なのだ。
そして正に(Monster parent)だった。
充分に自己中心的で理不尽な人だった。
背負うには軽いけれど、心にはずっしり重かった。
今では哀れを誘うほどすっかりやせ細ってしまったけれど、
Monsterは多少衰えながらも時々顔を出す。
しみじみと顔を見る。
思えば遠くへ来たものだ。