朝焼けを見るために

神様からの贈り物。一瞬の時。

帰路      立原正秋

2005-06-10 09:58:33 | 読書、映画、音楽
「それがわかったら、二人で余生を歩くしかないだろう。生も現実なら死も現実だ。やがて死がくることはわかっているが、生から死に移る、とは僕は考えてはいない。こうして生きている現実だけが完全であり、死から生に移れないのと同じく、生から死に移ることはできない。現在ただいまだけを視てくれ」
「現在ただいま、とおっしゃられても、よくは解りません。それは、たとえば、剣の世界から悟入して、そのようにお考えになられたのでしょうか」
「いや、これは覚悟の問題だろう。そこから来ているらしい。悟入なら迷いも消え去るだろう。帰路を見失ったとしても、それが現実ではないか。迷いの世界にいるのなら、それをそのまま受け止めよう。冬のつぐに春になると思わず、冬だけを視つめていたい」



立原正秋、最晩年の作品
本棚をひっくり返せば、出てくるはずだが、またBOOKOFFで再購入。
娘に見つかると、叱咤されるが・・・

立原正秋の作品は、私のお気に入りの中でも群を抜く。
日本語の美しさ、言葉の巧みさ、男と女の心情の表し方、文化の詳細。
それは、彼の生い立ちや環境、日々求め暮らしたものの中から自然と文字としてあふれ出してきたものなのだろう。
自己の生き方を確立していた。そう思わせてくれる。
彼のように生きることは不可能だが、共感し、思考させられ、今をみつめる。
立原正秋の作品を読むたびに、真の大人の恋愛の世界を垣間見、活字の中だけに没頭する。















「覚悟をきめた時だろ。」
あの一言が今だに脳裏から離れない。
覚悟をきめる時、ではなく、覚悟をきめた時。
その一言をあなたの声とともに思い出す度に、
体の奥深くを旋律が走る。



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