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小説「フォワイエ・ポウ」6章(第36回掲載)

2006-06-06 16:41:45 | 連載長編小説『フォワイエ・ポウ』
<Attached Poto, from Wikipedia>(A racing bicycle made by Cyfac using shaped aluminum and dual carbon fiber chain- and seat-stays. It uses Campagnolo components.)


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6章

1(客のマナーと店の方針)-(6)

「おあいそ」を済ませた真理子たちは、賑やかにはしゃぎながら店を出た。が、しかし、3階のエレベーター入り口に行くまでの通路で、なにやら立ち話をしていた。
わずか数分と経たないうちに、2人は店に舞い戻ってきた。
「ごめんなさい、マスター」
「どうしました?」
「あの、エレベーターが動かないのですが・・・」
とっさに時計を確認した。すでに午前3時過ぎになっている。本田がフォワイエ・ポウをはじめてから現在に至るまで、日曜日のこの時間まで営業した経験は、今夜が初めてであった。
「あ~、ひょっとしたら大家さんがエレベーターの電源を切ってしまったのかも・・・」
と、言いながら、本田は店を出てエレベーターに向かい、自分で確認しようとした。
「竹ちゃん、ちょっと待っておいて。エレベーターまで行って見てくるから・・・」
「いえ、僕も一緒に行って、見てみましょう」
会計の済んでいない竹本は、まだ、カウンターにいたが、本田と一緒にエレベーターについてくる。
エレベーターの電源は完全に落とされていた。こうなると、帰り道はただ一つ、非常階段を下りる以外にビルの外に出る方法はない。
「おう、こりゃダメだ。階段下りるのに懐中電灯がいるぜ。店の常備灯があるから、それ使おう。真理子さんたちも竹ちゃんも、ちょっと待って。もう店閉めるから、一緒に出ましょうよ」
「はい、私たち、待ちます、お待ちます。一緒に階段下りましょう」
真理子たちは、また、はしゃいだ。
おでん屋さんも居酒屋さんも、日曜日は完全に店を閉めている。非常灯は点灯しているものの、全部のお店が閉まっていれば真っ暗になる3階の廊下である。灯りのない7~8メートルの距離を、また店の入り口方向に進んだ。
薄暗い通路の突き当たり右側に本田の自転車が置いてあり、さらにその突き当りがフォワイエ・ポウの入り口である。

「ちょっと待って。マスター、ちょっとここで停まって下さい」
薄暗い通路を進みかけた真理子が、突然本田に声をかけたので全員が立ち止まってしまった。
「あの赤い自転車、この前の日曜日も見かけました。あの自転車、竹ちゃんが乗ってるの?それとも、マスター?」
本田が声を出す間がなかった。真理子が質問すると直ちに竹本が答えた。
「とんでもない! 俺の自転車じゃない・・・」
竹ちゃんは真剣な顔つきになっている。
「こんな高級自転車、欲しくても僕は買えません。これ、自転車のロールスロイスです。これはマスターの自転車ですから・・・」
「そう、マスターの自転車なんだ。やっぱ、そうか・・・」
「・・・」
真理子と竹ちゃんのやり取りを聞きながら微笑んでいるだけで、本田は何も答えようとしない。どちらかといえば口の重い竹本をさしおいて、さらに軽快に真理子の話が続く。
「でもさあ~、竹ちゃん、ちょっと違うな。これはロールスじゃないよ!」
「でも、ですね、この自転車は高級車ですよ、だからロールスロイスといってるんだ、フォワイエ・ポウのお客のほとんどはそう思っている。もちろん僕から見ても判る。僕はですね、もうすぐ一級整備士の資格を取るんです。いや、実力は、とっくに一級整備士以上です。この自転車のボディーも部品も、高級ステンレスとアルミ合金でできているんだから、ひょっとするとチタン合金やカーボンなど、使ってあるかも知れないし、、、」
熱くなった竹本は、本田の自転車の価値を説明しようとする。合わせて、いつの間にか自動車の整備士の話題も混入してくる始末である。
「竹ちゃん、私が言っていること、ちょっと違うのよ」
「真理子さんと俺とは、どう違うのですか?」
「よくわかっています。この自転車は高級車よ。そこは竹ちゃんと同じなの。私も自転車大好きだから、とっくに分かっているの・・・」
「そうですよ、高級だからロールスロイスだ。と、俺は言ってるんだ」
真理子は、いよいよ落ちをたたみ掛けてきた。
「高級?あったりまえよ、分かってるよ。でもさ、私はね、この自転車はフェラーリだと思うな・・・」
「え? フェラーリですか?」
竹本は驚きの声を発する。
「その理由はね、簡単よ」
「・・・」
「この自転車のフレーム、見た?」
「・・・」
「今日は暗くて見えないけど、先週の日曜日、店の前まで来たとき、この自転車しっかりみました。この自転車はイタリア製なの。そうでしょう、そうですよね、マスター・・・」
「ウム、その通り!というより、間違いなくイタリアで買ったもの。部品はフランス製と日本製も混ざっているかも・・・」
微笑みながら、ようやく本田は話し始めた。
「事の始まりは、もう10年位前になるか。イタリアのミラノに行ったとき、街中歩いていて、同じ自転車屋さんの前を何度か通っていたら、このての自転車が目に止まってしまって、、、。その後数回ミラノに行けば、必ずこの店に行きたくなり、ついに店の中に入ってしまった。自転車に触った。もういけない。どうしてもほしくなったので買ってしまった。値段忘れたけど、米ドル換算で、500ドルまではしなかったと思うよ、当時の日本円で、そう、あの頃、3~4年前になるか。1ドル220円少々だったかな。そう、輸送コスト入れて14~5万円位かな。ま、輸送コストといっても輸出通関と日本に入ってきた時の関税のコストと、日本に着いてから私の自宅まで送ってもらった日本国内の「横もち輸送料金(輸入製品の国内輸送料金の意味)」は、もちろん私が支払わないといけない。コストは、たったのそれだけ。とにかく手間賃だけは友達に払った。友達に対する寸志?程度かな。ローマに駐在している友達の引越しの時に一緒に送ってもらったから、輸送費は掛かっていない。つまり0円。タダかな・・・」
さりげなく本田は答えた。
「エエ~、これが、たったの15万円? うそでしょう!」
真理子は本当におどろいた。日本で購入すれば、どう考えたって5~60万円前後だと、彼女は予測していた。

  <続く>(次回掲載予定日≒6月8日木曜日)


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