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地政学で読む世界覇権2030
ゼイハン,ピーター【著】〈Zeihan,Peter〉/木村 高子【訳】
価格 ¥2,592(本体¥2,400)
東洋経済新報社(2016/02発売)
この本は読み物としてマジメな上になかなか衝撃的でおもしろいし、
地政学としてもふだん他の本が立ち入らないことが書いてあって興味深い。
だいたいタイトルに地政学と書いてある本の中には我輩が書いたほうがまだマシなんじゃないかというほど酷いヤツがあるのは確かだ。
このまえボロカスに書いたあの何とか海援隊の某氏のことだが、まあそれはいいとしてだ。
地政学ではとりあえず何はなくとも地図が必要になってくる。
このさいgoogle地図の航空写真でもいい。
それで世界を眺めてヤバそうなところを見つてみよう!
…と言われたら、はたしてどこが目につくだろうか?
ちなみに我輩はウズベキスタンとトルクメニスタンやばいのでは…?と思っていた。
なぜか?
google地図の航空写真で見てみればすぐわかる。
砂漠のど真ん中を流れる川の水を、ウズベキスタンとトルクメニスタンが分け合って使っている。
しかもその川の終点は、もうすぐ干上がるアラル海。ようするに現時点ですでに川の水は使用量過多になっているということ。
これ地図の上からぱっと見でヤバそうと思えるようなアレなやつだが、そういうニュースは聞いたことがない。
少なくとも日本語では。
しかしだな。
この本にはそこまでちゃんと書いてあるんだよ。
つまり何がいいたいかというとだな。
今センセーショナルな話題、例えばクリミアとかウクライナとか、そういうののほうが本としては売れるかもしれない。
しかしこの本のタイトルにあるような、2030年頃にセンセーショナルになるはずの話題、それを先取りして書いてあるということだ。
少々上から目線かもしれないが、関心したよ我輩は。
中国の分析にしても比較的よくできている。
中国本の酷いのになると、
「瀋陽軍区がクーデターを起こすから中国は崩壊する!」
とか
「中国の労働者の人件費が上がりすぎたから中国は崩壊する!」
とかいうのが多数出てくる。
前者については韓国映画なみのファンタジーだし、後者については成長減速にはなるが労働者にとっていいことでないかいなとしか我輩は思っていない。
もちろんこの本もそんな寝言で商売してはいない。
もしあなたが中国崩壊について特別に興味があるなら、寝言しか書いてない本よりこれ読んだほうがいいのではなかろうか。
とはいえ。
この本は大変すばらしいが、ケチをつけたくなるところが全くないわけではない。
それは、地政学なのに、経済、とくに金融についても分析がなされているのだが。
そこの話が少々お粗末なのでは…?と思わなくもないところがチラホラ。
例えば金利。
旧来の経済の教科書ではできないと言われていた長期金利の人為的な操作も、実は程度できる。
これは日銀の体を張った実験によって成功裏に明らかになったことだ。
この本に書いてある経済理論は、それこそ金や銀の含有量でその貨幣の価値が決まっていた近代以前、またはフリードマンの提唱するリバタリアン金融の世界にのみ通用する理論でないのかいなとしか思えないフシが多数ある。
それもやむを得ないのかもしれない。
こいつは地政学の専門家であって経済の専門家ではないのだから。
教訓としては、自分の得意分野でないところで記録に残る文書に発言しないほうがいいというところだろうか。
まあそうはいっても90点はやっていいだろう。
ぜひ買えとの解釈でOKだ。