朝、いつもの時間に起床するとまだ真っ暗で、冬が近づいてきたな〜、秋が短いな〜とか感じています。
そして、身支度などしていると、カーテン越しに明るくなってくるのを感じて、ベランダに出ると、
その日その日の自然の芸術を見ることができます。
さて、昨日は、、おおた区民大学、【じんけんカフェ】お肉はつくられる〜東京中央卸売食肉市場見学〜の第4回(最終回)において、ついに、と場の見学に行って参りました。
朝、東京中央卸売食肉市場のビルに集合し、事前説明を受け、午前中は、と場を見学し、午後は、競りの見学、食肉市場の紹介DVDの鑑賞、そして、職員の皆さんとの意見交換でした。
まず、市場長さん(と聞こえたのですが、ちょっと曖昧)から、”食肉市場のしおり”を用いて、事前説明がありました。
いくつかポイントを紹介しますと、
- 敷地面積は64,108㎡、東京ドームが47,000㎡なので、東京ドームがすっぽり入る大きさ。広いと思わがちだが、中で働く者としては、と場、市場の施設、設備がぎっしり詰め込まれている感がある。
- ここは食肉を作る工場。お湯も大量に使用するので、水処理して廃水する施設のあれば、電気も家庭用のものは使えないので、専用の設備。また、衛生対策にも非常に気を使う。
- 食肉市場で働く人員数の定員は294名だが、実際は329名、全て東京都職員。作業第一課は大動物(牛)担当、一部、デスクワークもあるが、ほとんどが現場。作業第二課は小動物(豚)担当で、女性もいる。牛は生体が大きく、扱う刃物も大きいので、現在のところ、作業第一課に女性を置いていない。
- 大動物(牛)は3ラインあり、175 + 175 + 80 = 430頭が最大処理数で全国一。小動物(豚)は2ラインあり、700 + 700 = 1400頭。小さくはないが、群馬の方が大きい。
- 本日、牛は428頭の予定。すき焼きなど需要の高いシーズンなので。豚は、豚コレラの影響で頭打ち状態。
- 市場のあゆみとしては、昭和11年に”芝浦と場”が開場。昭和41年に、卸売市場と合わさって、食肉市場となった。その頃の写真を見ると、生体を滑車で運んでいたり、ノスタルジックな雰囲気。
- 昭和55年、と畜解体業務が全面東京都直営になる。これまでの間に、一時、民営化の検討がなされたことがあった(らしい)。
- 平成9年、O157における衛生対策工事。平成13年、BSE発生、BSE全頭検査の開始。平成23年、東日本大震災があり、牛肉の放射性物質全頭検査の開始。現在も続けており、異常はない。食の安全対策として、これだけの衛生対策を実施して、食肉の芝浦ブランドを確立している。
- 主要産地としては、牛は北海道、岩手などが多いが比較的全国から集荷している。なんとか牛(ぎゅう)という銘柄を満遍なく。豚は、群馬、千葉、栃木など近県が多い。競り値がキロ500円と安いので、流通コストと兼ね合いから。最近は、大手メーカーが産地から直接買い付け、食肉市場を通さない流通も増えている。
- (一旦、”しおり”から”パンフ”に移って、解体作業工程の説明がありました。特筆するのは、)内臓検査、枝肉検査の工程は、獣医資格を持ったと畜検査員がチェックしている。ヘルメットに二重線が入っている人が、と畜検査員。最後に格付員が格付する。日本人はサシの入った牛肉を好むので、そのような枝肉の格付が高いようだ。
- (”しおり”に戻って、)食肉処理業務に対する差別や偏見は根強い。最近は、ネットによって容易に拡散されるが、東京都の人権部局と解消に努めている。写真撮影はNG。現場見学で、携帯を取り出す仕草も気にするので、しないように。
- (最後に、)豊洲市場と異なり、見学コースはなく、滑りやすいし、牛の生体は800kgを超えるので、随行員に従って事故のないように。
ということで、いよいよ、と場見学です。
現場で説明が聞こえるよう無線のレシーバーとイヤホンを付けて、丈の長い白衣、でんでん帽(シャワーキャップみたいなもの)、マスク、ゴム手袋を着用して会議室を出、長靴に履き替えて、エアシャワーを浴びて、手袋のままアルコール消毒、何度も長靴を消毒液に潜らせつつ、と場に向かいました。(食肉にとって脅威のバイ菌は、我々ですから)
メモとボールペンは一応、白衣に忍ばせておいたのですが、見学中は、取り出してメモをとる余裕はなく、目に入るものに釘付け、説明も聞き漏らさないよう集中していたので、所々での感想を丁寧に紹介できないのですが、
牛と豚のラインを見学して会議室に戻ってきて、昼食前にメモに起こした取り留めない感想を紹介しますと、
- 第2回で鑑賞した映画「ある精肉店のはなし」の監督が言っていた、熱気は確かにあったが、83℃の消毒用の熱湯から立ち上る湯気によるもので、魚市場の、魚を捌く時の威勢のようなものがあろうはずもなく、職員の方々は、20秒間隔で進むラインの前で、淡々と、手際良く、分業をこなしている冷静な雰囲気が感じられるだけ。
- 製品組み立てラインのような単純な流れ作業ではなく、それぞれが800キロの牛、110キロの豚の解体というダイナミックな作業ながらも、雑さは微塵も感じられず、極めて丁寧に、難しい作業に取り組んでいた。
- 作業対象が大きいので、全体の皮を剥ぐ工程などでは、もちろん機械も使うが、その大きな作業で、食材を傷めないため、ナイフで切れ目を入れつつ行うなど、細やかな作業に職人技と経験が必要とされている。
- 内臓を取り出す工程でも、枝肉を傷つけないよう、刃先は自分に向けて切る。よく切れるナイフは、力を入れずに切れるのでむしろ安全。
- 人材育成という点では、一人前と呼ばれるようになる人は、年に一人ずつくらいと説明された。(全工程ができるようになるのに10年なので、確かにそうでしょうね)
- 血の匂いが気になるかもと事前に考えたが、放血によって最初に血が抜かれているせいか、血生臭さは感じなかったし、血そのものも工場内で目立つものではなかった。放血そのものも、見た目のインパクトはあるが、肉質の新鮮さのためと思えば、どうというものでもなかった。
- 牛の肝臓が、検査工程で丸ごとはじかれたところでは、勿体ないと感じつつも、食の安全性が確保される現場を見ることができてよかった。
250人の職人(プロ)が黙々と、自分の技(技術)で、責任を全うして、私たちの食卓に食肉を提供してくれている姿は感動的でしたね。
午後イチは、豚の競りの見学でした。
これも淡々としたもので、大きなモニターに、次々と、隣の部屋に吊るされている枝肉の番号、産地、生産者、ブランド名、格付、頭数(牛は1頭ずつだが、豚は、同じ生産者からまとめて10頭まで)、重量、最初の値段が映し出され、
それをみている仲買人が、リモコンのようなもののボタンを押して、値を上げていく。3名以上だと黄色く表示され、2名者で緑、1名になると赤く表示され「成立」と表示されるが、数秒もない、ほんの一瞬の動きです。
ただ、席は8席 x 7列 = 56席ありましたが、座っていたのは10人程度。数人は、スマホのゲームやったり、インターネットしていましたが(見学は、吹き抜けの上から見ていたので、見えてしまいました)競り落としたい生産者の肉を待っていたのかも。
なお、豚の競りは13:00からでしたが、牛は8:30とのこと。東京の値段が全国に指標になるらしく、モニターには、格付に応じた加重平均相場が出ていましたが、それを参考に、地方の競りが始まるとのことでした。
会議室に戻って、次は食肉市場を紹介するDVDの鑑賞です。
先日声優を引退した増岡弘さん(マスオさん、ジャムおじさんなど)の声で、午前中に見学した各工程および衛生・安全管理、環境対策のポイントの良い復習になりました。(見学中、メモが取れなかったところは、DVDを観ながらメモにできました)
そして、DVDも差別の話で締め括られました。
肉を食べることを真剣に考えれば、人は生きるために他の命をもらっていることがわかる。その生きるために、肉を食べるには、いろいろな人の働きがある。それを知らない、考えない、のが差別を生み、差別がなくならない原因であると。
最後のセッションは、と場で働く職員の方々との意見交換でした。
見学者が質問して、代表の方、またはそれぞれが回答するQ&Aの形式で、いくつか(回答をまとめて)紹介します。
- と場で働くきっかけは様々だが、公務員になりたくて応募したり、知人から紹介されたりだが、皆さん、DVDや情報館でどのような仕事か理解して、働きたいと思って応募している。不合格になって、翌年再チャレンジしたり、お一人は二浪していた。なり手がない職業と勘違いされがちだが、実は、募集に対して、応募が多い狭き門。離職率も低く、仕事に惚れて成長していく。
- (一律)差別があることは、就職する前は知らなかったが、働いていると話にきいたり、実感したりする。
- (外部の人が、見学にくることをよく思わない職員もいると聞くが、どうか?)東京都職員の労組の他に、と場労組というものがあり(職員だけでなく、と場に買い付けに来る民間業者も入っている)、差別はおかしいだろう、差別をなくそうという強い志を持った組合で、お肉の情報館、紹介DVDの作成も、この組合からの提案で実現した。反対意見もあるが、この仕事を正しく理解し、人権を考えたい人は受け入れたい。
- (私も見学中に”えっ?”と思ったのですが、1日に20分の休憩だけでハードワークを、という随行員の説明があったが)正しくは、一番早いシフトは7:00に始まり、13:00頃には、全ての作業が終わる。7.5時間労働のうち、業者の人たちを待たせないよう、現場作業は5時間くらいで一気に終わらせて、風呂、遅めの昼食をとって、その後は、会議などをするので、休憩時間がずれているだけ。20分(10分を2回)は、最初の現場作業の中では、という意味だと思う。
- (腰とか膝を痛めると聞いたが、労災は?)怪我はわかりやすく、公務災害に認められるが、腰痛、腱鞘炎などは一度は労災に認定されるが、以後はきっかけがはっきりせず、認められにくい。腰痛バンドをするとか、ストレッチを入念にするなど自衛措置しかない。
- (作業マニュアルなどないのか?)マニュアルはなく、見習う、真似るしかない。難しいが、練習がない。失敗したら、農家さんは二度と持ってこない。工程分割して、ひとつひとつ覚えていく。まずは傷が大きくならないところから。誰かから押し付けられるのではなく、自分の判断で”こうなりたい”と思う人に憧れを持って、仕事を覚えていく。自分との戦いであり、自己研鑽によって高みを目指していく。
- 都の募集には「食肉処理」と書かれてあり、受かれば、退職までずっと食肉市場で働く。
他にも、東日本大震災の影響とか、欧米のと場設備との違いとか、質問は尽きなかったのですが、
終了の時間となって、先週の第3回のお肉の情報館で解説を担当して「牛、豚をみるのではなく、人間がどうやって生きているのかを見て欲しい。一人一人の心の中の差別感を学んでもらうために案内します。」とメッセージをくださった職員の方から、
「人権に関する講習でしたが、どう思われましたか?」と見学者に質問があり、何名かが感想と謝辞を述べて、全4回、じんけんカフェ】お肉はつくられる〜東京中央卸売食肉市場見学〜は修了となりました。
私の回答としては、
職員の皆さんは自分を職人と呼んでいて、公務であるのにマニュアルがなく、先輩や師匠の技に憧れて、それを目指す点においてはその通りです。
他方、自己研鑽によって、自分のスキルを高めていくところはアスリートのようであり、高めた技量が、何によって評価されるのかと言えば、競りでの枝肉の値段、すなわち買い手、マーケットの評価であるところは、アーチストのようでもあります。
しかし、己の技量によって、枝肉がいくら高く売れても、個人の収入につながるものではないことは、世間でいうところのプロではなく、ある意味アマチュアでありながらも、ひたすら学ぶことを求める真摯な生き方は、ただただ尊敬に値します。
(おおた区民大学のもう一つの講座【じんけんカフェ】学びとはなにかでは、学ぶことは生きること、と教わっていますが、それを実践されています)
しかしながら、誇れる技能を持ち、誇れる人生を歩みながら、それを公に誇ることができず、むしろ、差別の目を向けられなければならない社会であるのは、何故なのでしょう。
第1回(前編、後編)で、臼井さんが「顔を顔の見える関係を築く。顔が浮かぶと差別はできない。」と言いましたが、まさに、このように、顔を合わせて話をすれば、分かり合えて、尊敬すらできるのに、顔を合わせない、顔を見せない偏見に満ちた人々が、誹謗中傷を発するのは、何故なのでしょう。
社会としてどうすればいいかは、複雑な問題ですが、個人としてどうあるべきか、どう心がけるかは明らかです。
かつて黒人差別がありましたが、長い年月をかけて、現在ではダイバーシティの観点から、差別解放に向かっていると思います。
差別、と場の職業差別は、ダイバーシティとは逆の「違わないのに、違うと差別する」問題ですが、一人一人の理解と、意識を変える、社会全体が変わっていって欲しい、変わらなくてはならないと考えました。
(これも、【じんけんカフェ】学びとはなにかの方で学びましたが、人には自ら変わる力が備わっているので、教育(学習)によって、それを引き出すだけであると)
以上です。
ではでは
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